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カズオ・イシグロの「日本人性」を読み解く2 - 岩田太郎(在米ジャーナリスト)

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岩田太郎(在米ジャーナリスト)

【まとめ】

・カズオ・イシグロ氏の「日本人性」について多くの日本人が「引っかかり」を感じている。

・氏は35歳にして日本に戻り、自分の二重性と折り合いをつけ、日本人を内包した英国人の自分を受け入れた。

・イシグロ氏の「日本人性問題」への「引っかかり」の背後にあるのは、同胞を「同胞」と呼ばなくなった、我々自身のやましい意識なのかも。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ残っていることがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=36538で記事をお読みください。】

2017年のノーベル文学賞を受賞した元日本人・帰化英国人のカズオ・イシグロ氏(62)の「日本人性」について、多くの日本人が「引っかかり」を感じている。前回で見たように、イシグロ氏は日英二重国籍をもし維持できたなら、そうしただろうという可能性を示唆しているし、自分の内面の日本人性も肯定している。

イシグロ氏は、「私にとって日本は外国です」(毎日新聞)とはっきり語る一方、「私は、自分を日本文化の一員だと思っています」(AERA)「感情面では特別な国。もう一つのふるさとなのです」(毎日新聞)という想いも抱いている。

多くのイシグロ作品の訳者である土屋政雄氏がいみじくも分析したように、彼は「日本人を題材にした初期の作品では日本人性、『日の名残り』では英国人性という、自らの根っこを確認した」のである。イシグロ氏の内面の日本人性は移ろっているようだ。その軌跡を見ながら、我々の「引っかかり」を引き続き解きほぐしてみよう。

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▲「日の名残り」 (ハヤカワepi文庫)

■ 欠けたアイデンティティの再構築

イシグロ作品の魅力は、「記憶の再構築」、つまり自分がいなかった場所で「実際に起こらなかったことを思い出す」という架空のプロセスを経て、人生の一部が大きく欠けた現実の自分に折り合いをつける、というテーマで一貫性があることだ。そこに脆弱な「自分自身の世界」を崩壊の危機から守ろうとする強いこだわりが見られる。

事実、2000年に発表した五作目の『わたしたちが孤児だったころ』では、自らのアイデンティティに自信が持てずにいる英国人少年バンクスと日本人少年アキラが、戦前の異国中国・上海という舞台で内面の葛藤を繰り広げる。上海は、イシグロ氏の祖父である石黒昌明が、現地に開校した日本の大学である東亜同文書院へ通ったゆかりの場所である。

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▲「わたしたちが孤児だったころ」 (ハヤカワepi文庫) 

英文学研究家の武富利亜氏が指摘するように、「アキラの家は、外観は英国式であるが、家の中は、まるで『本物の日本の家』のようだ」とあらわされており、「外国に住んでいても、両親は日本語で話し、日本人としてのアイデンティティを固守する家庭であることが示されている」。これは、イシグロ氏自身の投影であろう。

また、本国の文脈から切り離されたバンクス(もう一人のイシグロ氏自身の投影)がより英国人らしくなろうと努力する姿は、「祖国に所属しているという認識に自信が持てないから」(武富氏)なのである。

そうした意識は、日本について書いた初期作品にも見られる。イシグロ氏は、「私の日本」「日本とつながって魅せられたままでいるという子供のときの状況」を描き出そうとするが、そこに、日本においては「異質」な自分との折り合いをつけられない苦悩が浮かび上がる。日本人に「日本人」として認めてもらえない怖れが見られるのだ。

イシグロ氏はジャーナリストの大野和基氏とのインタビューで、「私は日本についての小説を書き終わるまで、日本に戻らないという決意を意識的にしました。本当の日本が、自分の脳裏にある日本に干渉をすると思ったからです。私のプロジェクトは、自分の日本が脳裏から消える前に、小説に安定的に書き留めておくというものでした」と明言している。

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