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“国歌斉唱不起立”に見る米人種問題の本質2 - 岩田太郎(在米ジャーナリスト)

岩田太郎(在米ジャーナリスト)

・黒人に対する暴力に抗議する活動が全米に広がっている。

・きっかけは黒人を射殺した白人警官が無罪となったことであり、黒人に同情的とされる民主党も手を打たなかった。

・「白人は推定無罪、黒人は推定有罪」というアメリカのDNAが社会に暗い影を落としている。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=36489で記事をお読みください。】

米プロフットボールリーグ(NFL)の試合前、選手たちが黒人への暴力に抗議して国歌斉唱の際に片膝をついて起立を拒んだり、互いに腕を組んだりして団結の意思を示している。彼らは、具体的に何に対して抗議しているのだろうか。

■黒人を射殺する警官の無罪放免

抗議の激化の直接の引き金は、2011年12月に麻薬取引の疑いによるカーチェイスの末、黒人のアンソニー・スミス氏(享年24)を射殺して殺人罪に問われたミズーリ州セントルイス市警の白人元巡査、ジェイソン・ストックリー氏(37)が、9月15日にセントルイス巡回裁判所の白人判事、ティモシー・ウィルソン氏(69)によって無罪とされたことだ。

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写真)ジェイソン・ストックリー氏  出典)twitter: AJ+ @ajplus

これに怒った黒人を中心とするデモ参加者が数日にわたってセントルイスの各所を占拠した。スミス氏射殺を無罪とすることに人々が憤りを覚えたのは、警察無線でストックリー元巡査が「あの車を運転している奴を殺してやる」と発言した録音が残っていたこと、拳銃を所持していなかったスミス氏に対し、ストックリー元巡査が「撃ってくるかもしれない恐れがあった」との言い訳の「証拠」としてスミス氏の車に拳銃を置くという罠を仕掛けたことが明らかになったにもかかわらず、白人判事が「殺人罪に問える十分な証拠がない」としたことだ。

「黒人が白人警官を撃つ恐れがあった」との、いつもの推定有罪のパターンで、正当な手続きを経ない黒人の即時処刑が正当化される一方、白人はどれほど疑いが深くても推定無罪とされる制度設計が、改めて白日の下にさらされた。

しかも、ストックリー元巡査は陪審による裁判を避けて、白人に同情的だとわかっている巡回裁判所での裁きを選んだ。司法エリートは、同じ権力側にいる警察を疑うことはせず、白人警官の不法行為を「チンピラ黒人」が訴えても相手にしないのだ。

さらに黒人たちの怒りに火をつけたのが、セントルイスでの抗議活動に対して、機動隊の警官たちが、「誰の道路だ?我々のものだ!」と繰り返し叫んだことである。主権在民の真髄が、ここに現れている。

このフレーズは、そもそも『黒人の命こそが大切(Black Lives Matter)』運動の参加者が、街を思いのままに支配できると考える警察に対して叫んできたスローガンであり、それを警察側が盗用したことが、抗議をエスカレートさせることになった。

さらに、市警のローレンス・オートゥール署長代理は記者会見で、「セントルイスは、我々の都市だ。我々が状況をコントロールしている」と述べた。暴徒化したデモ参加者を鎮圧したことを指していたのだが、警察が黒人の生殺与奪の権を持つ現実を改めて見せつけることとなった。

ジョージタウン大学法学部で教鞭を執るポール・バトラー教授(元連邦検察官)は、「市警が暴徒だけでなく記者や傍観者まで逮捕しまくっていた状況を見れば、効率的な取り締まりとは言えない。オートゥール署長代理の主張するように、警察が本当に事態を完全掌握しているなら、それはもはや自由の国ではなく、警察国家なのだ」と看破した。

これが、黒人選手たちの抗議している米国の仕組みのほんの一端である。このような体制を象徴する国旗や国歌に「敬意を表せ、表さなければ米国人にあらず、テロリストだ」との言説は、ヨーロッパ中世の神への冒涜に対する教会の罰を想起させる。

■絶望に次ぐ絶望

こうした抗議行動は、いつまで待っても正義が実現されない絶望から生まれている。同じミズーリ州ファーガソンで2014年8月、丸腰の黒人青年マイケル・ブラウン君(享年18)を射殺した白人警察官ダレン・ウイルソン氏(31)も、「ブラウン君がこちらに向かって走ってきて恐怖を覚えた」との証拠のない自己証言で無罪となった。

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写真)マイケル・ブラウン氏   出典)Youtube : Boyce Watkins

メリーランド州ボルティモア市で黒人男性フレディー・グレイ氏(享年25)が刃物の不法所持の疑いで逮捕された際、護送車の「ロデオ運転」により脊髄を損傷して一週間後に死亡した事件で、殺人や過失致死などの疑いで起訴された警官6人は、グレイ氏は「自殺した」と言い張り、すべて無罪放免となった。

ボルティモアの黒人市長ステファニー・ローリングス=ブレーク氏(47)も、当時の黒人大統領のバラク・オバマ氏(56)も、抗議行動に出た黒人たちを「チンピラ」と呼び、絶望の状況を理解しようともしなかった。黒人指導者たちは、黒人に対する正義の実現より性的マイノリティー(LGBT)の権利擁護に血道をあげ、同胞を裏切り続けている。

黒人に同情的であるとされる民主党は何ら抜本的な手を打たず、黒人女性の間の民主党支持率は2016年から2017年の間に11ポイント下落する一方、「民主党も共和党も支持しない」とする割合は13%から21%へと急増している(黒人女性ラウンドテーブル、BWR調べ)。誰も、何も信用できないのである。

元民主党大統領候補のヒラリー・クリントン氏(69)は、NFLでの黒人選手の抗議行動をトランプ大統領が非難したことに異議を唱えた。だが、これは「進歩主義的」白人のアリバイ作りであり、制度設計を見直すという核心を避けたものだ。

問題は選手の不起立の是非や白人至上主義者の銅像撤去ではなく、「白人は推定無罪、黒人は推定有罪」という米国のDNAそのものなのである。

南部ミシシッピー州で白人至上主義者たちと闘うフリーダムサマー運動に参加した黒人活動家ファニー・ルー・ヘイマーさん(1917~1977)が、1964年に「うんざりすることにうんざりした。(“I Am Sick And Tired Of Being Sick And Tired.”)」と述べた言葉は、現在の米国で黒人選手たちの抗議運動に白人の反感が強まるなか、ますます重みを増している。

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写真)ファニー・ルー・ヘイマー氏 ©Warren K. Leffler, U.S. News & World Report Magazine; Restored by Adam Cuerden

1の続き。全2回)

トップ画像:警官に射殺されたアンソニー・スミス氏 出典)Black Matters US

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