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刑事事件の公訴時効は誰のためにあるのか

私は、凶悪・重大犯罪の公訴時効は廃止するのが相当、と考えている。

一定の時間が経過したら犯罪の違法性がなくなる、などということは考えられない。
違法な行為はいつまで経っても違法である。

しかし、その違法な行為を処罰するかどうかは、国家の刑罰権の行使の問題である。
公訴時効は、国家の刑罰権の行使に時間的な制限を設けるものである。
公訴時効にかかってしまえば、その犯罪行為を処罰できなくなる。
言い換えれば、公訴時効にかかってしまえばその犯罪の可罰性が消滅してしまう。

「なんで時の経過によって犯罪の可罰性が消滅するのか。
なんで犯人の検挙を諦めなければならないのか。」
犯罪被害者の遺族の方々からそんな声が上がった。
これまでこの問題を突き詰めて考えていた人はいなかったようだ。

そこで、改めて考えてみた。

国がそう決めたから。
これが、答えである。

なぜ国は公訴時効を決めたのか、とその実質的理由を問われれば、
「一定の時間が経過すれば犯罪の証拠を探すことが事実上難しくなり、犯人の検挙も出来なくなる。
限られた捜査資源を考えれば、どこかの時点で犯罪の捜査を終結せざるを得ない。
一定の時間が経過すれば、犯罪の被害者の被害感情も相当薄らいでおり、社会的な関心も低くなっているはずだから、こういう場合は捜査を終結させてもいいのではないか。」
そう、答えることになる。

つまり、公訴時効は国の都合で設けられるものであり、決して犯罪者に訴追を免れる権利を与えるものではない、というのが、私の理解である。
公訴時効は被疑者や被告人のためにもある、などという一部の方の言い方には私はまったく賛同できない。

こういう理解の下で、今年の7月、法務省の勉強会は、凶悪・重大犯罪について公訴時効を廃止するという方向性を打ち出した。
犯人であることが分かっていながら公訴時効に妨げられて起訴することが出来ない、法の正義を実現することが出来ない、という事例が現に出てきたからである。

殺人事件についての公訴時効を従前の15年から25年に延長したのは、平成16年の法改正であった。
しかし、時間の経過で可罰性が左右される、ということには、どうしても納得がいかない、というのが一般の国民感情ではないか。
今回の法務省勉強会の報告書の結論は、法の執行の適正を求める国民の正義感に相応するものであり、私は、凶悪・重大犯罪について公訴時効をなくす、という方向性を強く支持している。

しかし、刑事事件を専らの仕事としている弁護士は、公訴時効を被疑者、被告人の防御権の武器と考えるフシが強い。

公訴時効の廃止などけしからん、と息巻いている。

「相当時間が経過してしまうと、被疑者や被告人のアリバイを証明するための証拠が散逸し、証人の確保も出来なくなる。
冤罪の発生の虞が高くなる。
被告人の防御権の侵害だ。」
そんな主張の仕方をしてくる。
これが日弁連の公式の意見として出されてくるから問題だ。

弁護士は、基本的人権の擁護という崇高な使命を帯びて真面目に仕事に取り組んでいるのはいいが、同時に「社会正義の実現」という使命を託されている。
被疑者や被告人の権利のみ振り回し、犯罪の被害者や社会全体の安寧秩序には無関心、ということでは困る。
弁護士や弁護士会のバランス感覚が求められていると思う。

法を作るのは国民であり、国会である。
弁護士は、国民や国会が作った法律の枠の中で適正な法の執行、運用を掌る存在、だということを忘れない方がいい。
明日の番組では、こんなことが議論になるのではないか。

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