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総選挙と小池劇場(野党再編)に思う ~『蜘蛛の糸』と『存在の耐えられない軽さ』~

驚くほどのスピードで政界再編が進んでいる。

実際、昨日の国会冒頭で衆院解散となったが、9月17日に主要紙が一斉に9月末解散・10月総選挙を報道してから、連日、新党騒ぎ・野党再編を軸に政界が揺れ動いている。

私見では、新党を巡っての騒動はこれまで、大きく2段階を経ている。小池氏側近の若狭氏を中心に、民進党を離党した細野氏や長島氏などが綱領等を詰め、仲間をかき集めるなどして蠕動していた初期段階と、小池氏が代表に就任して「リセット」を唱え、民進党が事実上の解党宣言をして合流を決断し、政界に激震が走った現段階である。

やや正確性に欠ける表現だが、分かりやすく言えば、図式的には、第一段階(初期段階)「若狭氏+民進党離党組等」と、第二段階(現段階)「小池氏+民進党全体等」という形で、揺れが大きくなり、或いは、雪だるまが膨らんできた、ということになる。

私が第一段階でまず思い浮かべたのは、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』であった。小池さんというお釈迦様が、政界地獄の中で何とか生き抜こうとしている人たちに糸を垂らし、それに気づいた若狭氏や細野氏などのカンダタが、まずは自分たちがそれにしがみついて方針を決め、重すぎて糸が切れないように、「自分たちの方針と違う人は糸を登ってくるな!」と追い落とす図式だ。

正直、私はこの程度で野党の政界再編は終わるかと甘く見ていた。もしかすると解散を決断した安倍総理自身もそういう認識だったかもしれない。ところが、お釈迦様だった小池さん自身が地獄に降りてきて代表(カンダタ)になった。民進党も事実上の解党をして基本的にみんな加わろう、という局面だが、小池さんという新カンダタは、方針をリセットして、自ら「民進党から全員受け入れるわけではない」と人々を振り落とそうとしている。
激動の第二段階に移行しているのが現状だ。

この衝撃の第二段階を見て思い浮かべたのはミラン・クンデラの名著の題名であり、映画としても有名な『存在の耐えられない軽さ』(The Unbearable Lightness of Being)という言葉であった。政治・政治家は、「死んでもこれがやりたい」という実現欲で動くものであり、本来は、「死んでも政治家という職業にしがみつきたい」という生存本能で動くべきものではない。この第二段階の動きは政界的には「激震」だが、意味づけ的には、耐えられないほど軽い。

先日、テレビ出演で隣席となった国際政治学者の三浦瑠璃氏のブログによれば、彼女も今回の新党の動きについて「虚無感」「違和感」を感じているという。本来であれば、三浦氏は、保守二大政党制論者なので、外形的には今回の動きを歓迎すべきはずだが、「青臭い議論の形跡のなさ」などを理由に正直な気持ちを吐露している。私が感じた「耐えられない軽さ」と近い感情ではないかと推測しているところだ。

なお、既にお気づきの諸賢も多いと思うが、上記作品と今回の動きは実は真逆の意味を持つ。作品では、生活を楽しみ多数の異性との交遊を楽しむ主人公の医師トマシュは、一見、大変に「軽い」男で、人生を軽くとらえているように見え、であるが故に、テレサに、題名にもなった有名な言葉を残されて去られるわけだが、自らのこだわりの部分については、実はとても「重い」男だ。人命や自由を大切にし、そのためには地位も捨てる。

今回の野党再編では、外見的には、色々な政治家が、様々に自らの「大義」を述べている。体制のリセットだったり、真の保守の実現だったり、安倍政治に終止符を打つことだったり。しかし、率直に言って、この激震の震源にあるエネルギーは、誰がどう見ても、政治家として何かを実現したいという情念ではなく、「どうすれば議員として生き残れるか」という生存本能だ。すなわち「(何かを)やりたい」ではなく「(議員に)なりたい」との執念である。重そうに見えて、その実、極めて軽い。

政治家には特に、地位がないと輝けないと信じている人が多いが、実は、人生はそんなことはないと思う。信念を貫いて医師免許をはく奪され、ペンキ塗りを経て田舎暮らしをするトマシュは、農作業に明け暮れながら、実は最も充実した時間を過ごしていたようにも見える。

政治家も、それを選ぶ国民も、ある意味「耐えられないほど軽く」なってしまったのが現在の我が国であり、絶望的に言えば、軽い国民が軽く選んだ結果が約3週間後に出るのであろう。それでもやはり期待したい。地位ではなく、構想(やりたいこと)で人を導くリーダー・政治家の出現を。

代表CEO
朝比奈一郎

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