- 2017年10月04日 11:51
「やすらぎの郷」はテレビ業界の"しがらみ"を描いた異次元ドラマ
2/2【「やすらぎの郷」爆笑シーン 第2位】
2017年4月28日放送 第20回 ~姫、茄子の呪い揚げを上品に語る~
※老いさらばえた女優、白川冴子(浅丘ルリ子)に往年の威光は無く、誕生日パーティー出席の返事はわずか3人という事態に。腹立たしい思いにかられる中で、姫こと九条摂子(八千草薫)が秘話を語り出す・・・。
姫 「茄子の呪い揚げっていう、昔、撮影所でひっそり流行った儀式があるの」
マヤ「茄子の呪い揚げ?」
冴子「それってなあに、お料理?」
姫 「お料理なんだけども」
マヤ「儀式なの?」
姫 「儀式なの。呪いの儀式。お茄子を揚げながら許せない相手の名前を叫ぶの」
マヤ「叫ぶの?」
姫 「(うなずく)そうすると、その相手によくないことが起こるの」
マヤ「本当に?」
姫 「本当なの。不思議なんだけどそれをすると相手によくないことが必ず起きるの」
マヤ「姫、それ実際にやったことあんの?」
姫 「やるのね、ときどき。夜中にこっそり」
一同「(驚く)」
姫 「でも、よく効くの。(得意げな笑顔)その相手の人、いきなり翌日飛ばされて、北海道へ転勤になっちゃったりするの」
「茄子の呪い揚げ」という、恐ろしいのか恐ろしくないのか愛嬌にみちたネーミングを冠する憎悪の儀式を、どこか浮世離れしたお姫様女優(八千草薫)が、楚々と品良く語るくだりはギャップの可笑しみがあって爆笑だった。
「いきなり翌日飛ばされて、北海道へ転勤になっちゃったりするの」という切実な台詞に、こんなにも可笑しみを醸せる役者はそうそういない。
この場面だけでなく八千草の台詞まわしによる笑いは、ドラマ全編で多々あって、中でも6月22日放送の第59回で見せた「心臓はずっと働いてて可哀そう」の話と、「真夜中に付き人ゆうちゃんに携帯をかける」くだりは傑作だった。
この辺りで設定上、後にわかるがんの影響で認知症を思わせる症状が出て、いつもの天然にボケ症状も加わり、八千草の台詞は「とぼけ」を上積み、ナンセンスの威力を増していた。この放送回も合わせての2位としたい。
「やすらぎの郷」は悲劇と喜劇を一貫して描いた問題作
それにしても八千草薫はこのドラマで実に多くの役割を担った。大物清純派女優の品格と可愛らしさ、戦争協力で負ったトラウマの深さ、喜劇展開の落とし、死期に向かい夢うつつを行き来する表情、等々。出演陣の中でもっとも幅広い芝居を求められ、それに応えていた。
そして、1位はこちら。
【「やすらぎの郷」爆笑シーン 第1位】
2017年5月10日放送 第28回 ~秀さん、水着姿の律子遺影に合掌~
※新たな入居者、秀さんこと高井秀次(藤竜也)。高倉健を彷彿とさせる無口なキャラでミステリアスな大物。秀さんが「やすらぎの郷」に現れたその夜、菊村栄(石坂浩二)の部屋に秀さんが現れる。菊村の亡き妻律子(風吹ジュン)は、菊村と結婚する前に秀さんと付き合っていたのでは・・・という噂もチラホラあった。
秀次「こんな夜分に、なんなんですが、ちょっとだけお邪魔してよろしいですか」
栄 「あ、どうぞ! 汚してますけど」
秀次「奥さまの御位牌に、お参りをさせて頂きたい」
(栄、秀次、部屋へ)
栄 「はぁ、それは、女房も喜ぶと思います・・・どうぞ、どうぞ。ああ、今電気つけます。ちょっと、ちょっとここでお待ちください。スリッパ・・・これをどうぞ」
(栄、寝室へ。押入れにしまっていた妻の位牌を急きょ取り出し、居間のサイドボードに設置する。そこにはモノトーンのビキニ姿で横たわる律子の写真が飾られてあった)
秀次「――――」
(うやうやしく位牌の前に正座し、手を合わせる秀次。正規の遺影ではなく妻の水着写真を飾っていたことに気づき焦る栄。栄は遺影がどこかにあったはずと、押入れを探すが見つからない。仕方なく拝む高井の脇からそっと香立てを置き、その流れでビキニの写真を奥に押して少しでも遠ざける)
秀次「――――」
(合掌している秀次。おもむろに水着写真を手にとって、間近で眺め出す)
栄 「あぁ、あぁ、ちゃんとした遺影は、どっかにあるんですが。その~、若い頃の写真がなんかコレで」
秀次「――――(水着写真を見つめている)」
栄 「どうぞ(ソファーのほうに)お掛けになってください。今コーヒー淹れてますからどうぞ。その写真、最近偶然、人が持っていたのを見せて頂いて、ハイ」
秀次「――――(水着写真を見つめている)」
栄 「結婚するちょっと前の頃のもので、ハイ」
秀次「――――(水着写真を見つめている)」
栄 「懐かしくて、無理を言ってゆずって頂いて、ハイ」
秀次「――――(水着写真を見つめている)」
栄 「まーさか秀さんにこうして来て頂いて、お参りして頂けるなんて。あっちの世界で律子もきっと涙流して喜んでいるんじゃないかと。(写真に向かって)なあ」
栄と秀さん、それぞれの思いが律子の若々しい水着写真を挟んで交錯する。秀さんがじっと水着写真に手を合わせ続ける時間は、故人を拝んでいるのか、女体を拝んでいるのか…。
やはり我が妻は高井秀次とできていたのだろうか、ぬぐい切れない疑念に煩悶としながら、妻を悼む大物俳優に気を使い疲弊する栄。遺された甘美な肉体のフォトグラフが、高井秀次という無口なキャラクターを最大限に活かした、とても素敵でバカバカしい遺影ギャグを見せてくれた。最高。
▽ ▽ ▽チャップリンの名言「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇である」―――、この言葉はドラマの中でも使われたが、まさにドラマ全体を包むイズムだったと言える。
ベスト3を選出してみると、このイズムをより濃く反映する笑いが並んだ。「やすらぎの郷」は悲劇と喜劇が背中合わせであることを一貫して描いていた。忘れ難い傑作にして問題作だった。
<追記>
「やすらぎの郷」完結の高揚に促され、昭和が遺した高齢者ドラマの傑作、山田太一・脚本「ながらえば」(主演:笠智衆 1982年 NHK)を観直した。
- 松田健次
- 放送作家。落語会の企画制作も手がける。
らくご@座:http://rakugo-atto-za.jp/



