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ナチスの再来? 反難民・イスラムの極右政党「ドイツのための選択肢」94議席が持つ意味

大躍進に関わらず党首が離党

[ベルリン発]9月24日のドイツ連邦議会選はアンゲラ・メルケル首相が4選を果たしたものの、反難民・イスラム、単一通貨ユーロ解体を叫ぶ極右政党「ドイツのための選択肢」が予想を上回る得票率12.6%の大躍進を見せ、94議席を獲得した。独メディアから「極右」のレッテルを貼られたフラウケ・ペトリ共同党首ですら恐れをなして離党を決意するほど、「選択肢」の右旋回は進んでいる。

「選択肢」の主導権を握ったアレクサンダー・ガウラント氏(左)とアリス・ヴァイデル氏(同党のツイッターから)

東西統一後最低水準の失業率、適度な成長と物価の安定、黒字財政を達成しながら、大連立を組んだキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)は大幅に議席を減らした。

アメリカ、中国と世界の3極をなす欧州を今後、牽引していくのはイギリスでもフランスでもなく、ドイツであるのは間違いない。極右政党が連邦議会に議席を持つのは戦後初めて。しかも94議席も。ナチスの歴史を克服して超優等生国家に生まれ変わったドイツで何が起きているのか。

先のエントリーでお伝えした通り、ペトリ氏から直接「8~11%の得票率で15~16議席を獲得するのは可能」という予想を聞かされていた筆者は94議席という数字に驚愕した。そのペトリ氏は選挙翌日の記者会見で突然、「選択肢」からの離党を発表した。

筆者の取材に応じるペトリ氏(9月2日、フランクフルト郊外で筆者撮影)

2度の大戦を引き起こし、欧州に惨禍をもたらした歴史の評価を修正するような発言が他の党メンバーから相次ぎ、支持者の離反を懸念していたペトリ氏にとっても「選択肢」の大躍進は予想外だったに違いない。

完全に市民権を得た「右派の政治」

労働者の権利保護、欧州連合(EU)加盟国への支援をどの程度にするかというサジ加減が違うだけで、主要政党間でこれと言った争点が見当たらなかった今回の総選挙。反難民・イスラム、反ユーロという明確な選択肢を示したのは、文字通り「ドイツのための選択肢」だけだった。

投票率は前回の71.5%から76.2%にハネ上がった。投票数は4430万9925票から4697万3799票に増えた。数字の上では、ドイツの民主主義は活性化したことになる。「選択肢」は一体どこから587万7094もの票を集めたのか。国外向け公共放送ドイチェ・ウェレ(DW)のデータをもとにグラフ化してみた。

筆者作成

CDU・CSUから98万票。これまで投票したことがない層から69万票。社民党から47万票、左派党からも40万票と「選択肢」は、まんべんなく各層から票を集めた。「選択肢」は、二大政党の対立軸を自ら捨て去った「大連立」と、それを許した既存政党への批判の受け皿になった。

日本人旅行者にも人気がある観光都市ハイデルベルクで9月5日、メルケル首相が選挙集会を開いた際、「選択肢」支持者が押し寄せ、メルケル首相に凄まじい怒号と野次を浴びせてレッドカードを突き付けるのを目の当たりにした。聴衆の中から投げられたトマトがメルケル首相を直撃し、大丈夫かと心配した。

メルケル首相に投げつけられたトマト(ハイデルベルクで筆者撮影)

今回初めて投票するというハイデルベルクの高校生フィリップ・アーセンさん(18)もその中にいた。「メルケルはドイツ基本法を破り、難民に対して国境を開放した。これは犯罪的な行為だ。国境がきちんと管理されていないと、国民の安全を守ることはできない」とアーセンさんは語る。「選択肢」の支持者の中にはこうした若者の姿も目立った。

「(ペトリ氏が主導権を失うなど)路線対立があるのは『選択肢』の中に民主主義がある証拠だ。アメリカに1年間、交換留学している時に欧州難民危機が起きた。ドイツ国内の報道が非常に(建前に)偏っているのに対し、アメリカでは(建前と本音の)両面から報道されていた」

「選択肢」を支持する高校生フィリップ・アーセンさん(ハイデルベルクで筆者撮影)

日本以上に戦争への反省が強いドイツは「建前」報道ばかりで飽き足らないとアーセンさんは言い切った。歴史の記憶が遠のき、反難民・イスラム、ドイツ近代史の肯定という右派の主張をタブー視しない人たちがソーシャルメディアを通じて確実に増えている。既存メディアの価値観やフィルターはもはや役に立たない。

イスラム諸国からの難民に門戸を開いたメルケル首相に不満を感じるCDU・CSU支持者の中の保守層や、これまで投票したことがない層に対する「選択肢」の取り込み戦略は功を奏した。戦後ドイツでは許されなかった「右派の政治」が完全に市民権を得た。

ドイツ16州で「選択肢」の得票率をみると、ベルリン州(特別市)を含む旧東ドイツの6州で「選択肢」は高い支持を得ている。「選択肢」は旧東ドイツの若者たちに強くアピールし、若者の東西格差が広がっていることを際立たせた。グローバル化に対応する若者と逆に内向きになる若者の二極化は日本でもフランスでも見られる共通現象だ。

筆者作成

旧東西ドイツ間には経済格差、社会格差が今も厳然と横たわるが、外国人の人口割合は旧東ドイツの方が低い。外国人割合が多いほど、外国人アレルギーは薄れ、少ないほどアレルギーは強まる。100万人以上の難民がドイツになだれ込んだ2015年の欧州難民危機は旧東ドイツの難民アレルギーにとどまらず、潜在的な「変化に対する拒絶」を呼び覚ましてしまったのだ。

9月4日、旧東ドイツ・ザクセン州の州都ドレスデンで「西洋のイスラム化に反対する欧州愛国主義者」(ペギーダ)の集会を取材した。聖母教会の近くにあるノイマルクト広場に子供連れを含め5000~6000人が集まった(ペギーダ創設者ルッツ・バックマン氏)。

ペギーダのデモ行進。蛍光色のシャツを来ているのがバックマン氏(ドレスデンで筆者撮影)

旧東ドイツのドレスデンは共産主義から資本主義への変化に戸惑い続けている。ペギーダ創設者バックマン氏は筆者にこう語った。

「我々はメルケルだけでなく、大連立を組むCDU・CSUと社民党をはじめ、すべての既存政党の退場を求めている」「ペギーダは、反イスラム・難民を鮮明にする『選択肢』を応援する。普通の人の声に耳を傾けているのは『選択肢』だけだ。『選択肢』は強い野党でなければならない」

メルケルは「右派の政治」の奔流を抑えられるか

連邦議会の中で、欧州統合やユーロへの明確な異議を唱えているのは「選択肢」だけだ。メルケル首相は選挙翌日の記者会見で「正しい政治によって『選択肢』に奪われた票を取り戻す」と宣言したが、おそらく総選挙の結果を受け入れ、難民・移民規制は強化されるだろう。

選挙翌日、記者会見に臨むメルケル首相(CDU本部で筆者撮影)

メルケル首相のCDU・CSU(政党カラーが黒色)が社民党との「大連立」をあきらめ、自民党(黄色)や90年連合・緑の党(緑色)と「ジャマイカ(黒・黄・緑)連立」を組んだとしても、欧州統合を支持する大きな枠組みは変わらない。

EU離脱交渉を進めるイギリスのメイ首相が、EUの存続を最優先にするメルケル首相に慈悲や寛大さを期待するのは無理というものだ。

新たに「選択肢」の共同党首に就任したガウラント氏は40年間CDUに所属した保守政治家だが、ドイツ至上主義的な発言が目立つ。

ガーナ人を父親に持つサッカーのドイツ代表、ジェローム・ボアテング選手について「多くのドイツ人は国際的なサッカー選手として彼を尊敬しているが、隣に住むことは望まないだろう」と発言。「2つの大戦を戦ったドイツ兵士の偉業を誇るべきだ」と述べ、物議を醸した。

テューリンゲン州議会のブョルン・ヘッケ「選択肢」幹事長(当時)が今年1月、ベルリンのホロコースト記念碑と政府の歴史認識について「私たちドイツ人は首都の中心部に恥の記念碑を作った世界で唯一の民族だ」と発言したのは先のエントリーで紹介した通りだ。

メルケル首相は、アメリカのドナルド・トランプ大統領、中国の習近平国家主席に次ぐ影響力を持つ政治指導者になった。ナチスのタブーが薄まり、「右派の政治」が市民権を得たドイツ政治の奔流をどう抑えるのか。内なる反グローバリズムにメルケル首相とドイツがどんな答えを出すのか、世界中が注目している。

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