- 2017年09月26日 17:28
総理大臣による解散は課題設定の権力
2/2政策の魂は細部に宿る
もちろん、政策の魂は細部に宿りますから、「人づくり革命」においては本当に子育て世代の自由と福祉を増進する政策になるのか、単に、教育利権を太らせるものとなるのかには注目が必要です。
幼児教育を無償化するのであれば、国民が公共サービスを受ける際の平等性の観点からも、幼児教育の義務化まで踏み込むべきではないでしょうか。待機児童解消の目標をズルズルと後退させたり、各自治体に任せるのではなく、国の責任としてすべての児童に優良な幼児教育を受ける権利を保障する。もちろん、担い手が公的な幼稚園や保育園である必要はなく、国は品質管理に集中して多様な民間からの参入を一層促すべきです。
生産性革命においては、ロボット・IoT・人工知能などの先端技術への民間投資を促す政策を進めると言います。鍵は、「民間投資」という点です。日本経済の生産性が低迷している要因の一つに、生産性改善のための投資が圧倒的に不足している点があります。これは、IT革命が進んでいた90年代に、バブル処理に追われて攻めの投資ができなかったことが影響しています。しかも、携帯電話や再生可能エネルギーなどの将来の経済を作る分野で、ガラパゴスな技術や規制に拘ってグローバルな競争に置いていかました。
世界経済は凄まじい転換期にあります。20年後には、自動車も銀行もないかもしれない、そのくらい変化の激しい時代です。だからこそ、次代を担う技術戦略や投資戦略をお役人さんが決めることだけは避けなければいけません。官僚機構は、イノベーションの花を咲かせるための環境整備と、国際的なルール作りで戦って来いということ。政府は政府にしかできないことをやるべきで、ベンチャーキャピタリストの真似事はする必要はないのです。
経済政策を打ち出す際に、財源の話を持ち出すのも野党を牽制するためでしょう。消費増税分を社会保障の充実に使うことで、財政は悪化します。総理自身が、2020年までにプライマリーバランスを黒字化する目標を放棄したわけですから、この点については政府与党内にも一定の緊張関係があるのでしょう。
安全保障政策においても注文はあります。国連での制裁はじめ、これまで中途半端であった「圧力」を高めることには意義があります。ただ、それだけで北朝鮮の行動を変えることができると考えるのはあまりにナイーブに過ぎるでしょう。目の前の危機に対してやれることは、圧力を強めて日米同盟の結束を確実にすること。そこまでは政権のやっていることに反対のしようはありませんが、そこから先の手も打たないといけません。それは、北朝鮮の核保有国化という現実と向き合って、対話も圧力も格上げすること。その中身までの論戦を期待したいところです。
すべての道は改憲に通じる
冒頭、総理の解散判断はアジェンダセッティングの権力を行使するものだと申し上げました。表面的には、経済政策と安全保障政策において、政権が目指す方向性への信任を得るということです。ただ、これには裏があると思っています。政権の裏アジェンダは改憲だろうと考えられるからです。それは、第一次政権当時から安倍総理がやりたかったこと。安倍晋三という政治家の、長期政権にむけた執念の核心にあるものでしょう。
モリ・カケ問題が長引いたことで、永田町の改憲気運は随分と萎んでいました。官邸の中にさえ、政権維持に集中するためには、改憲の可能性を示唆する2/3の議席は邪魔だと思っている者もあったと聞きます。
総理周辺にとって最も苛立たしかったのは、きっと公明党の姿勢だったでしょう。衆議院選挙が迫る中で改憲の発議は難しいであるとか、年限を切って改憲論議をすることは適切でないとか、公明党は明らかに引け腰になっていました。今般の解散における総理周辺の本音は、9条を中心に据えた改憲方針を明示した上で2/3を更新することではないでしょか。本年5月に表明された自衛隊明記の加憲案は、そもそも公明党に配慮してリベラルに歩み寄った穏健なもの。その改憲案からすら逃げるとは何事かということを突きつけるつもりなのでしょう。
もう一つ重要なのが小池新党。小池新党に対して、総理が融和的な姿勢を示しているのも、小池知事が改憲支持の立場を明確にしたことと無縁ではないでしょう。小池氏が立ち上げた「希望の党」は、これまでも存在してきた「改革スタイル」の政党の伝統を引き継ぐ存在です。それは、「輝け憲法!」という護憲アイデンティティーから世界を見ている層でもなく、さりとて、自民党的な利権政治・村社会政治にはついていけない人々にとって一定の受け皿となるでしょう。今般の選挙において重要なのは、それが自民党の票を食って実現するのか、野党票を減らす方向に行くのかということです。
野党は、総理の課題設定に乗った上で、国民により受け入れられる政策体系を練り上げるか。それとも、モリ・カケ問題こそが今議論されるべき課題である旨を訴えるか。はたまた、政権の裏アジェンダを読み取って、護憲の一点で共闘する55年体制的政治に回帰するか。解散を通じて、政権与党は課題設定の主導権を取り戻したことだけは確かでしょう。



