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労働力の流動化と聞くとため息がでる

労働力の流動化が経済を活性化させるとよくいわれます。だから規制をできるだけなく、人びとが変わりやすい状況をつくることが重要だ、あるいは逆になんらかの規制を行うことはそれに反するというがいわれるようになってきました。

しかし「労働力の流動化」という抽象的な言葉ではなかなかつかみどころがありません。産業の活性化ということに絞って、いったいどのような人びとが、成熟した産業から、より成長性の見込める産業に移っていけばいいのか、どのような人びとが新しい産業を生みだし育てるのか、あるいはどのような人びとを受け入れていけば、成熟化した産業や企業が変革でき、より生産性をあげていけるのかというところにあるはずです。

そう考えると、はっきりしてきます。流動化させなければならないのは、技術やビジネスを創り出し、また発展させていくことができるパワーやエネルギーをもった人びとです。こういった人たちは今でも、働き手としての市場価値は高く、望めば起業でも、転職してさらに好条件なところに移ることが現在でも可能です。
そして、産業の浮き沈み、あるいは不況によって工場の稼働率が落ちたために行われた派遣切りなどのように、労働力の調整で行われるものとはちょっと異なるのではないかということです。

しかし、そういった人材の流動化が活発かというと、日本ではうまく機能していません。厚生労働省の雇用動向調査を見ても、ほぼ横ばいの状況が続いており、転職入職率は平成18年で10.4%という程度です。起業という言葉は、書籍やネットの間で溢れんばかりですが、実際には起業率は落ちてきています。
いくらでも転職できるはずの人たちが転職しない、あるいは起業できる力があっても、起業しない理由を考えた方が早そうです。

いろいろ理由はあるでしょうが、もっとも大きな壁になっているのは働き手の側の意識の問題ではないかという気がしてなりません。就職の人気ランキングの動向を見ても、どちらかというと安全志向が強く、大企業に就職したいというのが実態で、チャレンジングな会社に就職しようとか、起業しようという人は決して多いとはいえません。

起業や転職による成功物語が、さあ、新しい世界に飛び込んでいこうという希望を広げてくれたらいいのですが、グリーの田中社長がフォーブス長者番付入りをしたというニュースが流れたとしても、それは例外的な成功だと覚めてみている人のほうが多いのではないでしょうか。

そういう働き手側の意識を変えるためにはどうすればいいのでしょうか。結構難しいですね。イギリスでは、かつての凄まじい不況のなかで、大企業が激しいリストラをやったために、大企業に勤める方がリスキーだという意識ができたと聞きます。アメリカでも、1980年代には、失業者が路頭に迷い、食事を求めて教会に並ぶシーンが、しょちゅうテレビに流れていました。もともとアメリカンドリームを求めて自分で会社を持つことをゴールにしている人が多いところにもって、大企業はいつ解雇されるかわからないという意識がきっとその頃に芽生え、人びとを新しい産業に駆り立てたのではないでしょうか。

職を変える、あるいは会社を興すことへのインセンティブをつくるか、教育が鍵を握っているのかも知れませんが、安全志向で教職に就いた人が、いくら起業を説いても、あるいは勇気を持って仕事を変えていけばいいということを説いても説得力がありません。

きっと企業側の経営マインドや雇用制度の問題もあります。しかし、それを政治で変える方法はあるのかは疑問です。極端にいえば、経営者の考を変える方が早いのではないでしょうか。そんなことが実際にできるのかは、よくわかりません。企業がそれぞれ独自の考え方を持つのは自由ですから。
株主によるガバナンスを強化するということも、株の保有者のほとんどが短期的な投機目的での株所有であることを考えれば、決してうまくいかないし、うまくいかなかったと感じます。

良質な労働力をいかに流動化させるのかが鍵を握っているという解は見えているのですが、では具体的にはどうすればそうなるのかを想像してみると、複雑なパズルのように見えてきてため息がでてきます。正社員のリストラの嵐が吹き荒れ、ショック療法によって人びとの意識が変わるしかないのでしょうか。それはあまりにつらいことですね。そういったつらい目に合わないためにも、まずは政治が雇用の流動化こそが日本を元気にすると辛抱強く説き続けていくことでしょうか。

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