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大学で「教授編集者」をやるということ

俺は現在「大学教授」として毎週京都に通っていますが、ほんの2年前までは、夢にも思わなかった生活の変化でありました。2年前、失業しかかっていた俺は、さてどうしようと思っていた矢先に精華大学から専任教員のお声がかかったわけで、本当に有り難いことです。



最初は、向こうから仕事がやってきてラッキー、と思っただけでしたが、俺に声をかけたY先生に理由を伺ったところ、俺がそれまでやっていた商業誌連載『サルまん2.0』が突然終了したので、大学で教える時間が作れるのではないかと思って声をかけたとのことでした。人生、何がどう転ぶかわからないものです(この前年に、俺は精華の客員教授になっていましたが、客員はあくまでゲスト講師的な扱いなので、専任とははまったく違う立場です。客員が出世して専任になるわけではありません。専任の依頼は、客員とは完全に別ルートでのお話です)。



『サルまん2.0』の中断のときは、関係者には多大なご迷惑をおかけしましたが、あのときつくづく思ったことは、「俺は、プロの作家には向いていない」ということでした。いかなる理由があろうとも、仕事を中途で放り投げるのはプロ失格であります。



実は「自分はプロには向いていない」ということは、文筆で飯を食べるようになった21歳の頃から実はそう思っていたので、自分や周囲を騙し騙し、なんとか「プロ」を続けていたところがあります。40代半ばを過ぎて、それが限界に達したということかもしれません。30年近く「プロのふり」をしてきたわけですが、プロとしては本当に失格な点が多く、これ以上周囲に迷惑をかけるわけにはいきません。



もちろん今後も、こちらの書きたいものと先方の意図が合致すれば、他社で本を書くこともあるとは思います。文筆家としてはアマチュアでも、市販される本を出す人はいるわけですから、それと似たようなものだと考えてください。とりあえずは近く某社で本を出しますが、これは実は数年前からあったお話で、その担当者さんは驚異的な辛抱強さで俺と付き合いしてくださってますので、出さないわけにはいきません。これはプロ意識うんぬんではなく、人間としての信義の問題であります。





ちなみに俺が「プロ」という表現を使うときは、「注文を受けて仕事をする人」「仕事=技術の対価を受け取って生活する人」という意味で使っています。よく言われるアマチュアが半人前=未熟で、プロが一人前=優秀、という意味では使っていません。いや、もちろん優秀でなければプロはできませんが、アマチュアがプロより未熟かと言えば、大多数はそうですが、中には凡百のプロが束になってもかなわないアマチュアもいるわけです。



今、俺のライターとしての仕事は産経新聞夕刊(関西のみ)の月一コラムを連載しているだけです。これは先方から中止を言い渡されるまでは続けたいと考えています。というのは、俺が脳梗塞で長期入院していたとき、ほとんどの連載や、仕事のお話がそのまま消えたのでしたが、産経新聞だけは、退院して3ヶ月経ってから、そろそろ再開しませんかと言って来たからです。半年も休載したからさすがに打ち切りだろうと思っていたので、正直ビックリしました。それもあって、産経新聞の連載だけは別なのです。これもプロ意識ではなく、人間としての信義で続けている仕事です。



それで、タイタニックの乗客が救命艇に乗り込んだように、今は大学で教えているわけですが、これは少子化時代の中で、各大学が学生を集めやすいサブカルチャー系教育に力を入れ始めた「波」に、うまく乗れたというだけなのかもしれません。



ここ10年ほど、出版はマンガに限らず危機的な状況が続いていますが、俺以外でも多くのサブカル系ライターや作家が、それまで生活の糧を得ていた出版界から大学という船に乗り移っている現実があります。しかし大学自体が、少子化による学生不足という「危機」のうえに運営されているという意味では、「やれ助かった」と、のんびりするわけにも行きません。乗っていた船が火事になって、救命艇に飛び乗ったらその底に大穴が空いていた、というのが実情に近いです。



まあ、それはそれとして、俺としてはあと20年は生きていたいと思っていますし、うち10年はどうにか現役でやっていたいと願っております。今は大学教授という仕事に全力で取り組む所存はあります。いろいろこの立場でなければできないことをやってみたいこともあり、頑張りますと言うしかないのですが、しかし1年やってみてつくづく思うことは、俺は大学教授には向いてないよなあ、ということですね。



大学教授には、それこそ学部生から大学院、そのまま研究室に助手として入って、講師→准教授→教授とアカデミックな段階を経てなっていくケースもありますが、アカデミズムでの実績はひとつもないが、それまでの社会での経験が認められて大学に迎えられる教員も存在します。



俺は、30年近い文章仕事のキャリアの中で、学術論文は書いたことがありません。語学もさっぱりできません。教授という立場になると海外の研究者と会う機会があるのですが、ほとんどは日本マンガの研究者で日本語ができるから助かっているものの、たまに英語やフランス語しかできない人と会うと気まずい空気が流れて、いたたまれない気持ちになります。



が、それでもマンガ関係の仕事をやってきたという、ただその一点でお声がかかって、大学でこうして仕事をしているわけです。7年前に多摩美の非常勤講師になったときには、自分が興味あること(マンガ史やアニメ史)を、1年かけてクチャーすることに新鮮なおもしろさを覚えました。



そして課題で学生にマンガを描いてもらったら、何人かの優秀な才能の持ち主と出会えたので、そうなって俄然「編集者としての興味」が出てきたわけです。今、俺が出している「マヴォ」は、俺が大学で見つけた才能を世の中に紹介する目的で出し始めたものです。



京都精華大学で教えるに際しても、周囲には「俺は大学で編集者をやる。フリーで仕事を始めて30年経って、ようやく自分の考える編集者ができるような気がする」と話して京都にやってきたわけです。



ひとつ気になるのは、マンガ学部に来る学生は、ほぼ百%、本屋さんやコンビニに並んでいるメジャー少年誌・少女誌で作家デビューすることを目指しているわけです。そういう学生たちに、「そういうメジャー雑誌でも五年後どうなっているかわからないよ。10年後には版元ごと無くなっているかもしれないよ。そうなったらどうする?」と言うと、一様にポカンとした顔になります。



別に俺は、学生を脅すつもりはまったくなく、「メジャーに投稿してデビューしなくとも、他にも作家になる方法はいくらでもあるし、かりに作家になれなくとも、自分を生かす道はたくさんあるんだよ」と伝えたいだけなのですが、そのような手段を未だ具体的に提示できないもどかしさがあります。



俺がこれから大学の内外で行う仕事は、おそらくは学生たちに「新しいマンガの仕事」を提示することになっていくのでしょう。それは大変やり甲斐があると思いますが、世間一般でいう大学教授の仕事からはかけ離れたものになるかもしれません。少なくとも俺は、課題や試験を課していちいち点をつけて単位を出すという、通常の大学の先生の仕事には向いていません。言いたいことはたくさんあるのですが、これ以上書いて関係各所にご迷惑をかけてもいけないので、本日はこのくらいにしておきます。

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