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「暫定的な北朝鮮との共存がむしろ北朝鮮の崩壊を早める」姜尚中・東大名誉教授が提案する「戦争回避」の道筋

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第二次朝鮮戦争が起これば想像を絶する惨禍に

撮影:亀松太郎

なぜ、北朝鮮は崩壊しなかったのか。その黒幕として最も批判されているのは、中国です。しかし、中国と北朝鮮の関係は、我々が思っているほど単純ではないと思います。

金大中政権のときの2000年の南北サミットの宣言を見ると、在韓米軍の暫定的なプレゼンスをお互いが了承することが述べられています。

私から見ると、中国と北朝鮮の関係は、いわば背を向けあって一緒に歩いている。そういう関係だと思います。非常にアンビバレントな関係だと、我々は中国と北朝鮮の関係をつかんでおかないといけない。

最終的に中国は、北朝鮮の消滅を拒絶すると思います。

現在の国連安保理決議の問題ですが、このような決議を下して制裁をより厳密にしたところで、結局、北朝鮮は彼らが考える目標に向かって、核とミサイルの実験をやめないと思います。

北朝鮮を取り巻く米中露、日本さらに韓国のさまざまな利害が錯綜している以上、その利害が完全に一致しない限り、北朝鮮にとって、かなり有利な外的条件がこれからもなくなることはないのではないかと思います。

「ではどうしたらいいのか」という堂々巡りが、何度も何度も繰り返されているわけです。

私は、もし第二次朝鮮戦争が起きれば、その惨禍は我々の常識や想像力を超えた、おそらく第二次世界大戦に匹敵するぐらいの大きな被害が北東アジア地域に現れると思います。

ご存知の通り、イラク戦争では、戦争終結後の暫定政権や戦後のイラク復興、イラクという国をどうしたらいいかというマスタープラン(基本計画)がないまま、アメリカは戦争に突入してしまったわけです。

もしアメリカがレジームチェンジ(体制転換)を目指して戦争をした場合、もちろん現在の金正恩体制は崩壊すると思いますけれども、そのあと具体的にどのような統治システムやどのような国づくりをしていくのか、そのマスタープランは見えていません。

実際に核を使う可能性もありますし、使わなくとも、10発とも60発とも言われている核が流出したり分散したりする。それをコントロールできるかというと、私は難しいのではないかと思います。

現状を「凍結」してリスク管理していくべき

結果として、アメリカ国内の一部とはいえ、有力者の間に出てきている案、つまり、現在の状況を凍結してリスク管理をしていく方向での交渉が、最善ではないにしても、この方法しかないのではないかと思います。

問題はそうなった場合、日本や韓国の中で戦術核の導入や、場合によっては、ニュークリア・シェアリング(核兵器の共有)、核保有というインセンティブが現実のものになるかもしれない、ということです。

ご存知の通り、日本には非核三原則があります。韓国には1992年の朝鮮半島非核化宣言があります。その意味において、アメリカにとっても非常にジレンマだと思います。

しかし私自身は、戦争を避ける方向で今の状態を凍結して、そこからリスク管理、具体的にはNPT(核不拡散条約)体制への復帰、IAEA(国際原子力機関)の査察を受けるようにしていく。ただ、徹底した査察は無理なのではないかと思います。

このNPT体制への復帰と部分的なIAEAの査察が可能になるためには、アメリカと北朝鮮との間に”Non-aggression pact”(不可侵条約)が必要なのではないかと思います。

そして次の段階には、アメリカ、中国、韓国、北朝鮮の間の4者協議が必要になってくると思います。さらにその次の段階には、”Cease‐fire agreement”(休戦協定)を”Peace agreement”(平和協定)に変えていかないといけない。そして、その次の段階として、米朝正常化と日朝正常化が課題になると思います。

かつて韓国は、ロシアと中国と国交を正常化したとき、朝鮮半島のアンバランスを危惧しました。キッシンジャー元国務長官はかつて、クロス承認(アメリカと日本が北朝鮮を、ソ連(現ロシア)と中国が韓国を相互に承認する構想)ということを述べていたと思います。いま考えると、韓国は4大国と国交正常化しているんですけれども、北朝鮮は結局、中国とロシアとの正常化しか成し遂げられていない。ですから、米朝正常化と日朝正常化ができれば、ようやくクロス承認が達成されるということだと思います。

私自身は、北朝鮮が核を脅しに使って南北を統一するとは考えていません。彼らが望んでいることは、アメリカを引き入れ、アメリカと平和的な関係を結び、そして中国をけん制しながら、日本との日朝平壌宣言によって何らかの経済援助、おそらく現行でいえば1兆円くらいの有償・無償の経済援助が引き出せると、彼らは考えていると思います。

北朝鮮の「正常化」が体制転換につながる

みなさんの中には、日本と韓国は「ダモクレスの剣」ではないですが、永続的に北朝鮮の核の脅威の中で生きなければいけないのかと、反論する人もいるかもしれません。

でも、脅威というのは結局、能力×インテンション(意図)です。北朝鮮のインテンションがない状態に持っていくためには、何らかの経済的協力を深め、北朝鮮経済を韓国との関係の中にジョイントしていくような、ステップ・バイ・ステップの段階的なアプローチが必要だと、私は思います。

それが何年かかるか分かりませんが、私は、段階的な核放棄への移行は不可能ではないと思っています。

結局、北朝鮮が孤立している限り、北朝鮮のいわば独裁的なレジームはかなりしぶとく続いていくと思います。むしろ正常化することを通じて、北朝鮮の中が変わっていく可能性が十分にあると思います。

これは、みなさんが思考実験をやれば分かると思います。キューバであれ北朝鮮であれ、もし正常化してさまざまな形での交流がもっと深まっていれば、キューバも北朝鮮も大きく変わっていたはずです。

これは韓国の場合も言えると思います。もし1965年に日韓基本条約によって国交が正常化されなかったとして、ずっと軍事政権が現在のミャンマーのように続いていたと仮定すると、韓国という国は今のような経済的繁栄を謳歌することはできなかったはずです。

正常化した後の北朝鮮がどうなるのか。これは想像の域を出ませんけれども、たとえばルーマニア型になるのか、あるいは、限りなく東ドイツ型に近づくのか。いくつかのシナリオは考えることができると思います。

もはや「戦争」という手段は手遅れになった

私は10年前にある新書を書いて、6カ国協議による問題解決と正常化を強くプッシュしました。でも10年前は、ほとんど受け入れられませんでした。

結局、戦争を避けるためには、そういう方向にもう一度戻らざるをえず、そのほうが北朝鮮の崩壊も早いのではないかと思っています。

こうした考え方は、今の圧力強化の雰囲気の中では、かなり悠長な議論として一蹴されるかもしれませんが、結局、2005年から12年間、いったい日本とアメリカは、あるいは中国を含めた関係諸国は何をやってきたのか、ということです。時間は間違いなく、北朝鮮に有利に働いたわけですね。そして、もはや戦争という手段は手遅れの状態になったのではないかと、私は思います。

非常にトリッキーなことを言うようですけれども、暫定的な北朝鮮との共存がむしろ北朝鮮の崩壊を早めると、私自身は考えています。

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