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マクロン新フランス大統領の人気凋落が意味するもの - 坂場三男

 エマニュエル・マクロン氏がフランスの大統領に就任して早4ヵ月になる。政治基盤を持たない若干39歳の青年が「共和国前進!」という中道政党をにわかに創設して大統領選挙に立候補した時はダーク・ホースとすら見られず、いわんや当選を予想する者はほとんどいなかった。

むしろ、欧州懐疑主義が跋扈し、EU統合への反対論が渦巻く中で、極右政党の国民戦線が共和党や社会党といった既成政党にどこまで肉薄するのかが専らの関心事であった。それが、去る4月の第一回投票では、国民戦線のマリーヌ・ル・ペン候補が21.30%の票を集め、共和党のフィヨン候補、社会党のアモン候補を退けて第2位に入り、マクロン候補は何と24.01%の得票で第1位になったのである。

前回の選挙(2012年)で社会党のオランド候補が28.63%、共和党(国民運動連合)のサルコジ候補が27.18%の得票率でそれぞれ第1、第2位となり両者で決選投票を行ったことを想起すれば、あまりに激しい政治状況の変化である。

  この5年間、フランス国民は既成政治に失望した。「絶望した」と言っても良いかも知れない。特に、オランド前大統領への支持率は任期中に凋落した。経済が長期低迷する中、大統領がスクーターに乗り、SPを煙に巻いて愛人(ジャーナリスト)宅にしけこむ姿がメディアにスクープされて、多くのフランス人の怒り(+失笑)を買った。

もう一人、社会党の次期大統領候補筆頭とみられ、IMFの専務理事まで勤めていた男が娼婦を相手に買春を繰り返していたスキャンダルも発覚して世界を唖然とさせた。今回の選挙で社会党候補への支持率が6.36%(全体の第5位)まで激減したのは当然であろう。

  こうした中、世界の注目を集めたのは5月7日に行われたマクロン候補とル・ペン候補の決選投票である。結果から言えば両候補の得票率には予想以上の大差がついた。66.10%と33.90%である。事前予想の段階でマクロン有利は動かなかったが、これほどの大差になった原因の1つとしてTV討論におけるル・ペン候補の失言が指摘されている。

彼女は欧州通貨ユーロからの離脱の可能性に触れたため、さすがにそこまでは付いていけない支持者の離反を招く一方、危機感を強めた反対陣営が反ル・ペンで結集したというのである。この失言が致命傷になったことはル・ペン候補自身が認めている。TV討論のこわさである。

  しかし、マクロン大統領誕生後の政局を見ると、6月の国民議会選挙で出身政党が大勝(全577議席中308議席を獲得;与党・民主運動の42議席を合わせた大統領多数派の議席は350議席)し、議会内に安定した支持基盤を確立するところまでは良かったが、具体的な施策が1つひとつ明るみになるにつれて世論の支持が急落する事態になっている。

仮に、先の大統領選挙の第1回投票時における獲得票(865万票)が本来のマクロン支持票だとすれば、第2回投票時における獲得票(2075万票)との差である1210万票は消極的支持票(反ル・ペン票)だった訳で、容易にマクロン離れする可能性のある人々の「層」である。加えて、第2回投票で11.47%(407万票)という記録的な白票・無効票があったことを考慮すれば国民レベルでのマクロン支持基盤は誠に脆弱であると言わざるを得ない。

  前政権時代に経済・産業・デジタル大臣を務めたマクロン大統領の政治信条は「財政規律の維持」であると言われる。EU合意に従って国家財政の赤字を抑制しようとすれば、国家予算を注入した景気刺激策はとれず、逆に税収の増加に政策の軸を置かざるを得ない。

こうした政策が国民に不人気なのは当然で、世論調査(Ifop)に見るマクロン支持率は6月の65%から3か月後の9月には46%まで落ち込んでいる。この支持率は、政権発足後4ヵ月時点のものとしては歴代の最低レベルである。不支持率で見ると30%から54%へ急上昇しており、ついに不支持率が支持率を上回った。

大多数が新人議員という議会の与党勢力(政治素人の集団)も態勢立て直しの役には立たない。己の政策を積極的に国民に説明しようとしない大統領自身の政治姿勢にも批判が集まっている。

  ただ、新大統領にとっての救いは、大統領選挙に大敗した後の野党勢力に相変わらず元気がなく、世論の支持を回復出来ないでいることである。国民戦線のル・ペン党首は8月初めから4週間の夏休みをとり、ピレネーに山籠もりした。この間、党内では新たな路線をめぐって議論百出し、党内分裂までささやかれる体たらくである。

少数勢力になった共和党はパリの本部ビルが大き過ぎるとの理由で、その売却を検討中という。フランス国民は先の大統領選挙で「変革」を求め、新たな政治勢力(若き大統領)に望みを託した。仮に彼らが再び裏切られたと感じ望みを絶たれた時、そのエネルギーはどこに向かうのか。ここでも「一寸先は闇」の世界が待ち受けている。
坂場三男(さかばみつお)
 1949(昭和24)年、茨城県生れ。1973年横浜市立大学文理学部文科卒業。同年外務省入省。フランス、ベルギー、インド、エジプト、米国(シカゴ)等に勤務。外務本省において総括審議官、中南米局長、外務報道官を務める。2008年、ベトナム国駐箚特命全権大使、2010年、イラク復興支援等調整担当特命全権大使(外務本省)、2012年、ベルギー国駐箚特命全権大使・NATO日本政府代表を歴任。2014年9月、外務省退官。2015-17年、横浜市立大学特別契約教授。現在、JFSS顧問、MS国際コンサルティング事務所代表として民間企業・研究機関等の国際活動を支援。また、複数の東証一部上場企業の社外取締役・顧問を務める。2017年1月、法務省公安審査委員会委員に就任。著書に『大使が見た世界一親日な国 ベトナムの素顔』(宝島社)等がある。

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