記事

「燃料電池車」は期待外れの大失敗なのか

2/2

■今年9月のショーでFCVが復活した

【安井】そうすると欧州ではダイムラーがFCVに力を入れていた時期がありますが、そういう熱はもうなくなりつつあるんですか。

【清水】なくなりつつあったんですが、ちょっと変化が見えています。今年9月のフランクフルトモーターショーでメルセデス、アウディ、BMWが電動車両の中にFCVを入れてきました。昨年は入れていなかったのですがね。

【安井】ドイツ勢はFCVを引き続きやるぞということですか。

【清水】航続距離、ハイスピードを考えたらFCVしかないと考えている。テスラショックに次ぐドイツ勢のショックは、トヨタが2014年末に発売した燃料電池車「MIRAI(ミライ)」のショックだったんです。特に驚いたのが「700万円」という価格でした。日本の現地法人が本社に「700万円」とレポートしたら、「ゼロ1個間違っている。7000万円だろ」と驚いたそうです。

【安井】ミライは市販されているのだから、購入して中身を調べたでしょうね。

【清水】調べてみると、日本的な匠(たくみ)の技術がさまざまなところに使われている。燃料電池を見ると、0.1ミリ以下という薄い膜を何十枚も重ねて1つのセルにして発電します。バラつきをなくして量産することを考えると、「こんなクルマを俺たちは作れるのか」と半ばあきらめていたのが数年前のこと。ディーゼルの排気ガス問題で「パンドラの箱」が開き、EVに注目が集まりましたが、バッテリーEVはドイツ勢にとって本質的な解決策にはなりません。というのは、「アウトバーン(ドイツの高速道路)」での時速150キロの高速走行にバッテリーは耐えられないからです。ハイ・スピードでちゃんと走れるEVが必要なので、やはりFCVしかないとあらためて気づいたのだと思います。

■「水素チェーン」は欧州にはまだない

【安井】なんとなくFCVはもう終わったみたいな感じになっていますが、そうではないと考えたほうが良さそうですね。世界でFCVの量産を始めているのは日本のトヨタとホンダだけです。

【清水】日本にはFCVをつくる部品のサプライチェーン、水素チェーンができている。ところが欧州にはまだない。BMWとトヨタはFCV開発で提携しています。僕はそこにメルセデスが入るんじゃないかなと見ている。というのは、日産がFCVの開発をやめましたから、メルセデスはパートナーがいなくなったのです。これはあくまでも私見ですが。

画像を見る
清水和夫氏(右)と安井孝之氏(左)

【安井】米国勢ではGMがホンダとFCVを共同開発している。ミシガン州デトロイトの南で燃料電池システムの量産工場をつくろうとしています。

【清水】GMとホンダのFCVはPSA(プジョー・シトロエン)グループになったドイツのオペルにも提供されます。フォードも仲間入りするかもしれません。そうするとGM、そしてオペルはフランスのPSAの傘下になった。PSAには中国・東風が出資している。従ってホンダとGM、フォード、オペル、PSA、東風というホンダを中心とする水素チェーン、水素アライアンスができる。

■日本は「ガラパゴス状態」ではない

【安井】トヨタを中心とする水素アライアンスはBMW、メルセデスですか?

【清水】FCVではBMW・トヨタがもうひとつのグループですが、ここにメルセデスとアウディも入るかも。

【安井】そこまで清水さんが読むのはどこに根拠がありますか?

【清水】2000年にFCVの本を上梓してから、ずっと「FCVオタク」をつづけていますが、ドイツには水素や燃料電池スタックを扱うサプライヤーがいないのです。ご存じのように「メガティアワン(ボッシュやコンチネンタルのような巨大は部品メーカー)」にない技術はドイツメーカーも作れないですからね。日本メーカーは「ガラパゴス状態に陥っている」という見方もありますが、そうではなく新しいグループ化が進むということではないでしょうか。

【安井】日本メーカーにもチャンスがありそうですね。

【清水】冷静に上流から下流までを見て、世界的な市場性、つまりお客は何を求めているかというニーズとウォンツで見れば、2モーターのプラグインハイブリッドやFCVをやっている日本メーカーにチャンスがあると見るべきでしょう。環境技術では日本勢は負けてないよ、というのが僕の最近の考えです。

(次回更新は9月22日の予定です)

----------

清水 和夫(しみず・かずお)
モータージャーナリスト
1954年生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年に自動車ラリーにデビューして以来、プロレースドライバーとして、国内外の耐久レースに出場。同時にモータージャーナリストとして、自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで活躍している。日本自動車研究所客員研究員。

安井 孝之(やすい・たかゆき)
Gemba Lab代表、フリー記者、元朝日新聞編集委員
1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京経済部次長を経て、2005年編集委員。17年Gemba Lab株式会社を設立、フリー記者に。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。

----------

(モータージャーナリスト 清水 和夫、Gemba Lab代表、フリー記者、元朝日新聞編集委員 安井 孝之 写真=AFP=時事)

あわせて読みたい

「燃料電池」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。