- 2017年09月17日 15:10
一段と緊迫化する北朝鮮情勢
1/2米元国防長官が「キューバ危機以来、核戦争の可能性を含め最も深刻な危機」と警告
「現在の朝鮮半島危機は1962年のキューバ危機以来、核戦争の可能性を含め最も深刻な危機」。米オバマ政権で国防長官と中央情報局(CIA)長官を務めたレオン・パネッタ氏が、8月11日の米CNNのインタビューで述べた言葉である。
今春、北朝鮮情勢が緊迫化した時は、4月21日号で「北朝鮮・シリアを巡るトランプ劇場」と題してコメントした。今春の北朝鮮・シリア情勢の緊迫化は、トランプ米大統領が演出した「トランプ劇場」であり、北朝鮮・中国を見据えたトランプ大統領の「ディール(取引)」と考えたので、「トランプ劇場」と題したのである。
4月21日号に「トランプ大統領のディールだとすると、少なくとも5月9日の韓国大統領選までは、さらには米国の対中貿易赤字の是正に向けた100日計画策定までは北朝鮮情勢の緊張状態が続くのではないだろうか」と記した。実際に5月11日、米中が100日計画で合意し、北朝鮮情勢が沈静化したことで、今春の北朝鮮情勢の緊迫化は、まさしくトランプ米大統領が演出したトランプ劇場であったと見て間違いないだろう。
ただ、今夏の北朝鮮情勢の緊迫化は、それだけではないようである。冒頭のパネッタ氏の懸念のように、現実の危機が高まっているように見える。8月11日のパネッタ氏のコメントは、8月8日の「北朝鮮が米国を脅すなら、世界が見たこともないような炎と怒りに直面するだろう」と述べたトランプ大統領発言の3日後である。
トランプ大統領の「炎と怒り」発言を、パネッタ氏が単なる「トランプ劇場」と認識していれば、「現在の朝鮮半島危機は1962年のキューバ危機以来、核戦争の可能性を含め最も深刻な危機」という表現にはならないだろう。「トランプ劇場」の一面はあるにしても、国防長官とCIA長官を務めたパネッタ氏には、今夏の北朝鮮情勢の危機の本質が分かっているのだろう。だからこそ、パネッタ氏は「核戦争の可能性を含め最も深刻な危機」に陥らないよう、警告を発したのだろうと考えている。
ソ連崩壊やウクライナ危機が北朝鮮のICBM開発を促進
4月21日号に、今春の北朝鮮情勢緊迫化の背景として3つの理由を挙げた。①北朝鮮の核開発の進展で、北朝鮮の脅威が現実化、②軍事力増強を唱える米トランプ大統領の登場、③相次ぐビッグイベント、である。この3つは、今夏も変わっていない。なかでも、7月の北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM )の発射成功で、①の北朝鮮の核の脅威が一段と現実化し、今夏の北朝鮮情勢の緊迫化に大きな影響を及ぼしている。
北朝鮮は7月4日、ICBM「火星⑭」の発射に成功したと発表した。当初、ICBMであるかどうか、見方が分かれていたが、米トランプ政権は日本時間の5日、発射されたミサイルがICBMだったと初めて確認した。
さらに北朝鮮は7月28日、ICBM「火星14」の2回目の発射に成功した。北朝鮮の国営メディア、朝鮮中央通信は29日、2回目のICBM発射では、エンジン特性を改善したほか、弾頭の誘導性能、システムの信頼性を確認したとし、発射成功で「米国本土全域が射程圏内だと明確になった」としている。報道によれば、ミサイルは最大高度3724キロメートルまで上昇し、47分間に998メートル飛行したという。7月4日の1回目(高度2802キロメートル、39分間に933メートル飛行)に比べ、いずれも向上している。
北朝鮮の長距離ミサイルの開発が長足の進歩を遂げたことになるが、その理由として、英シンクタンク「国際戦略研究所」は8月14日に発表した報告書で、旧ソ連のウクライナの工場で製造されたロケットエンジン「RD250」を改良して使用したこと可能性があると指摘した。
この指摘に対し、ウクライナ側は、ウクライナ製だとは認めたものの、ロシア向けの宇宙ロケット打ち上げ用だったとし、このエンジンに必要なロケット燃料の製造技術を持っているのはロシアと中国だけだと指摘。ロシアが流出元である可能性を示唆した。一方、ロシアは、北朝鮮がロケットエンジン「RD250」をコピーするにはウクライナ人の専門家の支援が不可欠だとし、ウクライナ側に責任があるとの見方を示した。
いずれにせよ、英シンクタンク「国際戦略研究所」が指摘したように、同エンジンは旧ソ連のウクライナ工場で製造され、ロシアまたはウクライナの工場・兵器庫の従業員が不正に密売し、犯罪組織によって北朝鮮に密輸された可能性がある。その時期は1991年のソ連崩壊と最近のウクライナ危機の間だったとみられている。ソ連崩壊後、ロシアならびにウクライナの国営企業は、主な取引先であるロシアからの受注が止まったことで経営危機に陥り、有能な専門家や機材・資料の国外流出が報道されていた。ソ連崩壊、さらには2014年のウクライナ危機が、北朝鮮のICBM開発を促進したと言えよう。
8月8日のトランプ大統領の「炎と怒り」発言後、米朝が威嚇の応酬
北朝鮮の2度のICBMの発射実験を受けて、国連安全保障理事会は8月5日、北朝鮮への制裁を強化する決議を採択した。北朝鮮による石炭や鉄の輸出を全面禁止し、核・ミサイル開発の資金源を断つことが狙いだ。北朝鮮への制裁に慎重だったロシアと中国が賛成したことは評価できるが、最大の焦点である北朝鮮向けの石油の禁輸は盛り込まれなかった。
国連の北朝鮮への制裁決議は、2006年の核実験開始後で8回目となる。これまでの制裁決議の中では最大の経済制裁とはいえ、これだけならまだ、何度も経験したような風景である。北朝鮮情勢が一気に緊迫化したのは8月8日、前述のトランプ大統領の北朝鮮に対する「炎と怒り」発言である。その点、今回も「トランプ劇場」と言えなくもない。
トランプ大統領発言の数時間後の9日、北朝鮮は「米軍が駐留している太平洋の米領グアム島周辺に中距離弾道ミサイルの発射計画を検討している」と警告した。さらに10日には、「4発の中距離弾道ミサイルをグアム島沖に着弾させる案を検討中」と発表し、「計画が実行された場合、島根、広島、高知県の上空を通過する」と表明した。
4月21日号に書いたように、4月6日の米軍のシリア攻撃において、化学兵器を使用したとされ攻撃されたシリアには何のメリットもなかった。一方、米トランプ政権には、①中国に対する圧力、②核戦力の強化を続ける北朝鮮への牽制、③米国内の支持率の向上・政権基盤の強化、④レッドラインを超えても攻撃を見送ったオバマ大統領との違いを明確化できる、⑤軍事行動をいとわないことを示すことができる、⑥イスラム教過激派組織イスラム国(IS)と敵対するアサド政権を叩くことができる、⑦米国がロシアとの協力関係にあることを示すことができる、など多くのメリットがあった。
- 東京商工リサーチ(TSR)
- いま役立つ倒産速報やビジネスデータなどを配信中。



