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共産党に忠誠誓う"中国人富豪"急増の理由

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■にらまれる産業、にらまれない産業

最近、万達、復興、安邦各グループに対して、政府の査察、もしくは監督が入ったといううわさが絶えない。ただ、これらグループの海外投資状況を細かく検討してみると、たとえば美的集団(ミデア・グループ)や建設機械、重機を生産する三一重工、自動車部品メーカーの万向グループなどの大規模海外投資に比べて、規模はそれほどでもない。

「万達グループの王健林代表らが巻き起こした世論が、政府に目を付けられた」という訳ではないようだ。これより以前、福耀玻璃(ガラス)グループの曹徳旺代表は米国で大規模投資を行ったが、政府から何らの問責もされなかった。

大胆に推論すれば、カギとなる問題は「理性的」とか「非理性的」などということではなく、中国政府には最初から計画があったことがうかがえる。その計画に従わなかった者は厳罰を受けるのである。

では、その計画とは、なんだろうか。国家発展改革委員会のスポークスマンが明確に表明しているように、それは第一に「一帯一路」プロジェクト、2番目は「国際生産能力提携プロジェクト」であろう。

■「一帯一路」関連プロジェクトを推奨

「一帯一路」とは、現在、中国が進行する最重要の世界戦略である。それは、欧米が主導する既存の世界システムを打破し、世界秩序を再構築するプロジェクトだ。

「一帯一路」はNATO(北大西洋条約機構)のように共通の敵に対する軍事同盟ではなく、またTPP(環太平洋連携協定)のような共通の貿易スタンダードに依拠して構築されたものでもない。その本質において「一帯一路」の吸引力と合法性は経済発展の基礎の上に積み上げられており、すべての加盟国が発展の機会、収益を上げる機会を共有すると中国政府は語る。

このため、監督管理部門は中国企業の海外投資に対して、まず「一帯一路」関連プロジェクトを政府として奨励し、その商業行為で国家戦略の推進をもくろんでいる。

しかし、国内からの「一帯一路」プロジェクトに向けた対外投資は、2015年下半期以降減り続けているのが現状だ。これは、ちょうど中国の外貨準備高の激減と資本の対外流出の時間と一致している。

中国企業が対外投資した資金はどこにいったのか。大部分が不動産、ホテル、映画産業、エンターテイメント産業、スポーツクラブの開発や購入に投下された。これらのプロジェクトは大半が「一帯一路」とは関係のない分野である。

こうした対外投資が国家戦略と齟齬をきたした場合、政府監督管理部門はその調整に乗り出してくる。これが、最近発生した一連の事件の根本的理由になっている。

■国際生産能力提携で過剰生産能力解消を狙う

政府の計画にある二番目の方向性は、「国際生産能力提携プロジェクト」である。

この言葉は、いささか専門的にすぎるかもしれない。簡単に言えば、設備や生産ライン、生産技術、管理経験などを含む実体経済の対外輸出と国際協力のことを指している。これは監督管理部門が推進する「走出去(海外進出)戦略」の中核である。

この戦略は、グローバルな規模で起りつつある深刻な産業構造の変化に由来する。すなわち、世界規模におけるインフラ建設のブームのことを指している。

欧米の先進経済体のインフラはグレードアップが求められ、発展途上の経済体においては工業化と都市化が急務の課題となっている。同時に、中国国内では過剰生産能力の問題が深刻だ。そこで、生産能力の輸出は、国家戦略となっているのである。

いずれの分野の産業が海外進出を奨励されているのか。最も期待されているのは中国でも最高水準を誇る高速鉄道、原子力発電所だが、輸出するまでには多くの問題・障害が存在し、投資規模は大きいが、利潤の回収までの長い期間がかかるいという難点がある。

このためハイテク産業以外では、鉄鋼、セメント、化工、建材、非鉄金属、板ガラス、造船など、価格競争力を有する分野の海外進出も奨励されている。

2015年、『国務院の国際生産能力、設備製造の合作に関する指導意見』が通達され、これは事実上の政府奨励を受けることが可能な対外投資認可リストと見られている。

この通達を見ていくと、華為(ファーウェイ)、美的、三一重工、福耀ガラスなど、対外投資に積極的な企業がどうして政府から打撃を受けないのか、その理由が理解できる。要はこの指導意見に合致する企業群なのだ。

■「国家戦略」がすべてに優先する

改革開放以来、外資の導入を国是としてきた中国にとって、対外投資は政府の監督管理部門にとっても、企業、個人にとっても経験不足は否めない。そのなかには国家戦略があり、企業の商業的な動機、政府からの利益を巡る競争、衝突、協調がある。

にもかかわらず、中国には、いかに市場メカニズムを採用し競争で勝負を決するといえども、覆すことのできない原則が存在している。それはすなわち「国家戦略」がすべてに優先するという事実で、それに従う者は栄え、逆らう者は滅びるのである。

万達グループの王健林代表、福星グループの郭広昌代表らは、誰よりもその原則を熟知していたから富豪に成り上がることができたわけで、いち早く共産党に従って歩むことを表明したのは、彼らの嗅覚が危機を回避するため、そうさせたというべきだろう。

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陳 言(ちん・げん)
在北京ジャーナリスト。1960年、中国・北京生まれ。82年南京大学卒業。「経済日報」勤務を経て、89年より日本へ留学。1998年年慶應義塾大学経済学研究科博士課程修了。萩国際大学教授を経て2003年に帰国。月刊「経済」主筆を務める。2010年から北京で日本企業研究院を設立、執行院長に。

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(在北京ジャーナリスト 陳 言)

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