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北朝鮮の中距離弾道ミサイル(火星12)が日本上空を通過:日米ミサイル防衛の役割分担とは

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「ピストルの弾をピストルの弾で撃ち落とす」という表現が招く誤解

BMDを評して「ピストルの弾をピストルの弾で撃ち落とす」という言い方で「だから不可能」と結論付ける向きがあります。一般的にもBMDに対してこうした印象を持つ方は多いと思いますが、次のような条件を付ければどうでしょうか? 

ピストルの弾(A)をピストルの弾(B)を撃ち落とすとします。(弾B)の射手の帽子に赤外線センサーやミリ波レーダーを取り付け、(弾A)の発射を探知し、発射後は追跡してその情報を拳銃と(弾B)にリアルタイムで送信します。さらに拳銃が(弾A)の軌道を計算し、速度や角度を割り出し、そのデータを受信した(弾B)は誘導シーカーと機動制御スラスタによってコースを微調整し、(弾A)の予想飛翔経路で待ち受け、直撃寸前に胴径を増加させる――。 少なくとも闇雲に撃つよりはヒットする「確率」が上がりますよね?BMDはこうした技術によって実現されています。敵ミサイルがドーンと撃たれて、なんとなくポーンと迎撃弾を撃っているわけではありません。「ピストルの弾をピストルの弾で撃ち落とす」というのは、BMDの仕組みを理解していない表現なのです。

終末速度マッハ9のノドンにBMDは無力?

PAC-3は射程20km、射高15km、速度は秒速1,700m(マッハ数5+)です。「ノドン」の終末速度秒速3km(マッハ数8.8)よりも遅いですが、だから迎撃できないと思うのは大間違いです。PAC-3はヘッドオンで自分にまっしぐらに向かってくるミサイルを待ち受けて撃ち落とすものです。防護すべき拠点からそれたり、上空を通過する標的を追いかけて撃墜するものではありません。

野球でたとえるとキャッチャー。サッカーだとゴールキーパーのイメージです。捕手やキーパーの動く速度は投手やキッカーから放たれるボールに比べてずいぶんと遅いものですが、真正面に向かってくるボールを受け止めるのは簡単です。「ダルビッシュ投手のボールの50倍の速度のミサイルを迎撃できるわけない」とトンチンカンな話を聞きましたが、構えたキャッチャーミット付近に向かってくるボールにキャッチャーミットを当てることは難しいことではありません。だいたい、ダルビッシュのボール50倍の速度というと、秒速約2km(マッハ6)です。「ノドン」の速度にも達していない「スカッド」程度の話なら、PAC-3単独で迎撃可能です。

なお、「ノドン」迎撃の主役であるSM-3ブロック1Aは秒速3~4km(マッハ数8.8~11.7)ですが、すでに「ノドン」の射程を超える中距離弾道ミサイル(秒速4+km、マッハ数11.7)の迎撃実験にも成功しています。SM-3ブロック2Aにいたっては、秒速4.5~5.5km(マッハ数13~16)と、「ノドン」の終末速度を上回っています。

どのように迎撃する?

大変に大雑把な迎撃の流れですが、以下のようなイメージです。

平壌から1,276km離れた東京に「ノドン」を発射されたとします。発射後、弾道軌道は早期警戒衛星や早期警戒機をはじめ日本海や東シナ海に展開した日米韓のイージス艦、AN/TPY-2レーダーやFPS-5などの前方展開センサーで追跡され、約1分で迎撃に最適な地点(針路や高度)が割り出されます。BMDにとって重要なのは、迎撃ミサイルよりも目・耳・鼻の役割を果たすこれらセンサー群である、という専門家もいます。

ちなみに、BMDセンサー群は夜間に発射された弾道ミサイルを探知できないとする記事を見かけましたが、それはデマです。米国の早期警戒衛星は赤外線による熱源探知で、弾道ミサイルのブースターからの排気ガスが発する赤外線を監視するものですから、夜間に運用できないわけがありません。そもそも、迎撃実験においても夜間に行われることは頻繁で、SM-3ブロック2Aの初めての迎撃実験である「SFTM-01」も現地時間午後10時30分に実施され、迎撃に成功しています。

迎撃シナリオの続きですが、「ノドン」発射から約114秒後、射点から800kmの日本海上にあるイージス艦からSM-3ブロック1Aを発射します。「ノドン」発射から約276秒後、高度約289.8km(大気圏外)のほぼ弾道頂点にて迎撃することができます(※迎撃高度や時間は、弾道ミサイルの発射角度や射手の配置などによって変わるので、ここでの数字はこういうタイミングで迎撃できるというサンプルとしてとらえておいてください)。ちなみにこのシナリオでは迎撃時の「ノドン」の速度は秒速2.5km(マッハ数7.39)、SM-3の速度は秒速2.1km(マッハ数6.1)でした。

カタログスペックによると、現行のSM-3ブロック1Aの射程は1,200kmで、到達高度は500km(600kmという資料も)、速度は秒速3~4kmですので、性能を割り引いても「ノドン」対処には余裕があります。

もしもSM-3の網をすり抜けてしまった場合は、PAC-3が補完します。先ほど発射された「ノドン」をSM-3ブロック1Aがロストしたシナリオにおいて、PAC-3は「ノドン」発射から約499秒後に発射され、約528秒後に高度26.87kmにおいて秒速3.35km(マッハ数9.85)の「ノドン」を迎撃することができます。

現在日米で共同開発中(すでに迎撃実験にも成功済)のSM-3ブロック2Aは、射程2,000km、迎撃高度が1,000km(2,350kmという資料も)、速度は秒速4.5~5.5km。「ノドン」にはかなり余裕を持って対応できるようになります。海上自衛隊のブロック1Aは2021年にブロック2Aに更新予定です

◇ ◇ ◇

日米のミサイル防衛は北朝鮮のMRBM迎撃を主眼に開発されてきた経緯があり、迎撃実験においてもMRBMを標的とし、すでに多くの成功を収めています。

【参照記事】ミサイル防衛:イージスBMD(SM-3)の迎撃試験成績まとめ

SM-3を用いたイージスBMDの迎撃試験はこれまで34回実施され、そのうち27回の迎撃に成功(2017/6/22更新)しています(2006年12月のFTM-11(迎撃ミサイル発射されず)はカウントしていません。また、2008年11月のPacific Blitzは1発成功・1発失敗でMDAは失敗扱いとしています。)。

迎撃率は約79.4%(2017/6/22更新)です。

試験の成功率はあくまでも試験だけのもの、という見方も否定はしませんが、過去記事の通り、イージスBMD試験の多くは発射時刻などを伏せた実戦に近い条件で行われています。それに、コンバット・プルーフ(実戦での能力証明)がない点は北朝鮮のノドン、北極星2号、火星12、そして火星14なども同じです。

ちなみに、PAC-3とTHAADについてはさらに成績は優秀です。PAC-3は2009年以降、失敗がありません。現行のPAC-3MSEも同時多目標迎撃試験などを何度も成功させています。THAADは2006年に現在のコンフィギュレーションになって以降、迎撃実験はこれまで15回実施され、すべて成功。実験における迎撃率は100%(2017/7/30時点)と申し分のない実績を持っています。

我が国のBMDの相手は北朝鮮の準中距離弾道ミサイル(MRBM)であり、迎撃の主役はSM-3です。ICBMやIRBMが上空を”問題なく”通過し、ミサイルやその破片等の「落下による我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要」がない場合、海上自衛隊のSM-3と航空自衛隊のPAC-3を無駄撃ちするすることはないのです。

◇ ◇ ◇

100%の兵器なんて存在しません。ただ、1%でも被害が出る可能性のあるものは役立たず、というのは、シートベルトもヘルメットもエアバッグも否定する意見ですから、さすがに同意しかねます。BMDには「安全保障のジレンマ」という問題が潜んでいますからそれを指摘したり、政府の政治的決断を危惧するのなら議論の余地もありますが、BMDの批判・否定には極論やデマが多く、事実に反した例証を挙げたり、確率や物理法則を無視した意見が多いために、建設的な議論にならないのが残念です。

決してBMD万能論を説くつもりはありません。他の兵器システムと同じように不備のあるシステムだと思います。しかしながら、弾道ミサイルは極めて対処の難しい兵器であり、専守防衛を掲げる日本はより一層限定された手段しか採用できません。確かに、99%の迎撃率を誇っていても、1%の撃ち漏らしによって甚大な被害が出るかもしれませんし、そこに自分や大切な人たちが巻き込まれることも十分考えられます。そうした観点から言えば、限りなく100%に近いシステムを希求する気持ちは私にもあります。それでいてなお、よほど効果的な代替システムが開発されない限り、BMDは日本にとって現時点で最も適切な対弾道ミサイル・システムであると言わざるを得ません。

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