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北朝鮮の中距離弾道ミサイル(火星12)が日本上空を通過:日米ミサイル防衛の役割分担とは

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IRBMが日本上空を通過

北朝鮮が弾道ミサイルを発射しました。

北朝鮮西岸から発射された弾道ミサイルが日本に飛来する可能性がある場合における全国瞬時警報システム(Jアラート)による情報伝達も行われました。平壌市の順安付近から午前06時57分ごろに東に向けて発射され、われわれ国民のもとには午前07時00分に通達されました。午前07時06分ごろ北海道地方から太平洋へ通過、午前07時16分ごろに襟裳岬沖2,000kmの海に落下したようです。Jアラートのタイミングとしては、屋内や遮蔽物への避難等、最低限の行動が可能な時間かと思われます。

北朝鮮の弾道ミサイルが日本の上空を通過するのは、1998年の「テポドン1号」、2009年の「銀河2号」、そして先月29日の「火星12」に続き、4度目です。衛星運搬ロケットが上空を通過した2012年「銀河3号(衛星:光明星3号)」、2016年「光明星(衛星:光明星4号)」を加えると、北朝鮮飛翔体が我が国上空を通過するのは、6度目となります。

水平に約3,700km、約20分飛翔し、最高到達高度は750~770kmだとされています。発射された弾道ミサイルは、グアム攻撃用の中距離弾道ミサイル(IRBM)「火星12」かと思われます。

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「火星12」がグアムを完全に射程に収めていることを示す意図があったのでしょう。

あらためて言うまでありませんが、北朝鮮の弾道ミサイル開発がいかなる理由であれ、さらには特定の国を狙ったものでなかったとしても、許されるものではありません。北朝鮮の弾道ミサイル発射は、国連安全保障理事会決議169517181874への明確な違反です。上空数百kmの大気圏外とはいえ、日本に向けて通告なしに弾道ミサイルを発射したことは、我が国の安全保障を脅かす重大な行為ですし、国際秩序に挑戦するものであると非難されるべきものです。

核開発と弾道ミサイル開発がセットで行われる理由

2006、2009、2013、2016、2017年と5度の核実験を経て、すでに2度の水爆実験にも着手しています(北朝鮮の発表によるとですが)。5度目の核実験は今月3日に行われたばかりです。

なぜ北朝鮮は核兵器と弾道ミサイルの開発をセットで進めているのでしょうか?

これは、ミサイルの精度に理由があります。ICBMのような長距離弾道ミサイルは、1つのビルを狙い撃ちするようなピンポイントの誘導能力はありません。米中ロが保有するICBMでもCEP(半数必中界:ミサイルの命中精度の指標となるようなもの、です)は100~数百mで、通常弾頭(非核)では戦略目標を攻撃するために用いるには精度が足りません(数を撃てば当たるかもしれませんが、もったいない)。「火星14」のCEPは約10kmあたりと見られています。通常弾頭では効果的な運用はできないのです。長距離弾道ミサイルを戦略兵器とするためには、弾頭に大きな破壊力を持つ核兵器を搭載することで数km圏内をなぎ払わなければなりません。

ここで求められる技術が、核弾頭の小型化です。たとえば「火星14」のようなICBMは核とセットでなければならないのです。水爆実験発表や度重なる核保有宣言が示すとおり、北朝鮮はこのことをよく分かっているのではないでしょうか。

米国防総省などでは、北朝鮮はすでに核弾頭小型化の技術を一定程度まで確保しているとの見方で(立証はできていないようですが)、その前提でミサイル防衛網を構築しています。

ICBMを迎撃するのは日本のミサイル防衛の役目ではない

北朝鮮から発射されたICBMは、平常に飛翔すれば日本を攻撃することはできません。ロフテッド軌道で狙うというようなICBMを無駄遣いする蓋然性も低いでしょう。北朝鮮のICBMは米本土(CONUS)の主要都市を狙って発射されます(ハワイについても後述します)。

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北朝鮮やイランからのICBMを迎撃するために、米国は米本土防衛専用システムとして、GMD(Ground-based Midcourse Defense:地上配備型ミッドコース防衛)を配備しています。GMDで使用される迎撃ミサイルは、GBI(Ground Based Interceptor)といい、米本土に飛来するICBMを迎撃する任務は、我が国のSM-3やPAC-3ではなく、このGBIが担います。現在フォートグリーリー基地(アラスカ)に26基とバンデンバーグ空軍基地(カリフォルニア)へ4基配備されています。

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2013年3月、このGBIを14発増やして44発にすると発表されました。なお2017年5月、GMDはICBM迎撃実験に成功したばかりです。 

GBIの射高はどのくらいでしょうか。イランがICBM開発に成功し固形燃料式ICBMを発射した場合、弾道頂点は高度約1,600kmとなります(下図)。

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(米議会予算局(CBO), [PDF] Options for Deploying Missile Defenses in Europe, February 2009, p. 9.)

GBIはミッドコースでこれを迎撃する設計であるため、最大射高は2,000kmほどと推測しています。2015年にNORAD(北米航空宇宙防衛司令部)のビル・ゴートニー司令官が「KN-08(火星13)」に対してGMDが機能すると明言していました(過去記事)。「火星14」に対してもその評価が大きく変わることはないでしょう。 

ハワイへのICBMは米軍のイージスBMDとTHAADが対応

北朝鮮からハワイまでは約7,500kmですから、ICBM級の弾道ミサイルが用いられます。

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これを迎撃するのは、米海軍のイージス艦から発射されるSM-3または米陸軍のTHAADとなります。補完的に米陸軍のPAC-3も展開するかもしれません。現行のSM-3ブロック1Aで迎撃する場合、イージス艦をハワイからおおよそ500km圏内の海域に配備しておけば迎撃可能です。もうすぐ配備が始まるSM-3ブロック2Aであれば、予想着弾点からより遠い海域で時間に余裕をもって対応できるようになります。

北朝鮮からハワイへの飛翔ルートは日本上空を通過するものですが、自衛隊が射手を務めることはないでしょう。米国の防衛は第一義的には米国自身が担うものですし、日本周辺に展開しているはずの海上自衛隊のイージス艦は射手として最適な位置についていないからです。

グアムへのIRBMは米軍のイージスBMDとTHAADが対応

北朝鮮はグアムへの攻撃意図も示しています。グアムを攻撃する際に用いられるのが、今回発射したとみられる中距離弾道ミサイル(IRBM)です。

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北朝鮮からのIRBMを現行のSM-3ブロック1Aで迎撃する場合、イージス艦をグアムからおおよそ500km圏内の海域に配備しておけば迎撃可能です。SM-3ブロック2Aであれば、グアムから1,000km以上離れた沖ノ鳥島南方沖あたりからでも迎撃可能です。

グアム防衛の場合も、飛翔ルートは日本上空を通過するものですが、海上自衛隊が射手を担うことはないでしょう。理由はハワイのケースとほぼ同じです。

ハワイ、グアムいずれのケースにおいても、海自のイージス艦が前方展開センサー・ノードとしての役割を果たすことはあります。

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