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「水爆保有」北朝鮮クライシス(4)骨抜き「国連制裁決議」米原案の問題点 - 平井久志

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ロシアの思惑

 ここに来て存在感を増しているのが、ロシアだ。プーチン大統領は9月7日、ウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムで、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮を批判する一方で、「軍事圧力は何も生み出さない。外交手段による解決が唯一の正しい方法だ」と述べ、北朝鮮問題を軍事的に解決することに、明確に反対を表明した。

 日ロ首脳会談でも、安倍首相が国連安保理でより強力な制裁決議を採択することに協力を求めたが、プーチン大統領はこれには直接回答せずに「外交・政治的な方法でのみ解決可能だ」と述べ、両者のスタンスの違いが浮き彫りになった。

 プーチン大統領は軍事的な解決に反対するだけでなく、「緊張状態があるのならば、監視する一方で投資を続けなければならない」と主張し、北朝鮮も引き込み、朝鮮半島を縦断する鉄道やパイプライン建設の経済協力の用意があると発言した。

 プーチン大統領は7月4日にモスクワで習近平主席と会談し、中国の「双中断」(北朝鮮が核・ミサイル開発を中断し、米韓が合同軍事演習を中断)「双軌並行」(北朝鮮の非核化と朝鮮半島の平和体制構築を並行協議)という政策と、ロシアの段階的解決を目指す「ロードマップ」を調整して、朝鮮半島問題解決の基本路線とする方向性を示している。

 ロシアは北朝鮮の核・ミサイル開発を批判しているが、この脅威が自国に向けられるという意識は薄い。逆に、米国と対立しているロシアとしては「反米国家」である北朝鮮は有力なカードだ。最近の朝鮮問題は米中間で決定される傾向が強まっているが、ロシアは決定の圏外に置かれていることに反発を抱いている。朝鮮半島問題に関与することで極東の外交にも存在感を示したいと考えているのだろう。

 北朝鮮にとっても、ロシアは有力なカードだ。党機関紙『労働新聞」は建国記念日の9月9日付1面で、キューバのラウル・カストロ国家評議会議長とロシアのプーチン大統領の祝電を掲載したが、中国からの祝電の紹介はなかった。北朝鮮はロシアをカードに、中国への不満を表明していると言える。

 中国、ロシアとも国連安保理でさらに強力な制裁を課することには賛成しているが、北朝鮮を完全に孤立化させるような米国の原案には賛成しないとみられていた。

中ロ反対で「大幅緩和」

 それにしても、米国の今回のやり方は異例だった。従来、制裁決議案の内容が公表されるのは、中国などとの一定の協議を経た後であった。今回は、米国はそうした協議を経ずに、一方的に「最強の制裁」を喧伝しつつ他の理事国に回覧するという手法で公表し、中ロを圧迫する戦術に出た。北朝鮮の6回目の核実験に対して早期に制裁を課すためで、修正はある程度やむを得ないと考えていたとみられる。

 当然、中ロはこの原案には賛成できず、大幅な修正を要求した。すると米国は制裁案の内容を大幅に緩和し、9月11日の採決を強行した。修正案に中ロが賛成するかどうか、不透明なままでの採決だったが、結果的には国連安保理は9月11日夕(日本時間12日午前)、全会一致で修正された制裁案を採択した。

 しかし、当初の原案からは大幅に制裁を緩和し、「骨抜き」だという批判も出た。

 まず、北朝鮮が強く反発することが予測された金正恩党委員長への制裁(渡航禁止や資産凍結)は削除され、制裁対象に追加された個人は朴永植(パク・ヨンシク)人民武力相だけだった。

 最大の焦点だった石油の供給については、原油は「決議採択後の12カ月で、採択前12カ月の総量内とする」とし、現状維持となった。中国のパイプラインを通じた原油供給は中朝関係の象徴のようなもので、これを断絶することはできなかった。パイプラインで送られている原油は粘着性が強く、送油しないとパイプラインそのものが使えなくなるという技術的な問題も、背景にあるとみられる。中国は年間50万トンの原油供給は維持することになった。

 ガソリンや軽油などの石油製品については「2017年10~12月が上限50万バレルとし、18年以降は年間上限200万バレルとする」となった。200万バレルは、軽油換算で約25万トンとみられる。

 北朝鮮は、原油50万トンと石油製品25万トン前後の供給を受けることになったが、米国はこれにより、北朝鮮への石油供給は現状よりは30%削減されるとみている。天然ガス液(天然ガソリン)や、天然ガス副産物の軽質原油コンデンセートの輸出も禁止した。

 先述したように、この決議の実効性は、送付先を偽っての石油供給など、不正取引や密輸などでの石油供給がどの程度取り締まれるかにかかっている。

 北朝鮮の繊維製品の輸出は、原案通り禁止となった。中国への輸出だけで昨年は約7億5000万ドルの実績があり、これは北朝鮮にとって大きな打撃になる。

 北朝鮮労働者の海外派遣禁止については、安保理の承認を受ける方向に変わった。海外雇用契約が確定された北朝鮮労働者の数と契約終了予想期限については、該当国が12月14日までに安保理に通知しなければならない、とした。新規の雇用は、安保理の北朝鮮制裁委員会が案件ごとに認めない限り認められず、現在、海外で雇用されている労働者も契約期間が満了すれば帰国を迫られるとみられる。

 北朝鮮船舶への検査については、「貨物船が安保理決議で定めた禁輸物資を積んでいると疑われる場合、旗国の同意を得て、公海上で検査することを全加盟国に要請」とし、船舶の所属国の同意を必要とするなど原案からは大幅に緩和され、しかも義務条項ではなく「要請」になった。

 原案にあった高麗航空への制裁も言及されなかった。

制裁決議を「全面排撃」

 米国が当初示した「原案」は、「経済制裁」というよりは「経済封鎖」に近い内容だった。

 採決された決議案は大幅に緩和された内容になったが、これまで中ロにとって「聖域」だった、石油の領域に踏み込んだ意味は大きい。

 米国の「原案」は、北朝鮮がさらに軍事的な挑発をする場合の、制裁の内容を示すものだ。その意味では、挑発継続の場合の罰則を事前に例示する効果はあったといえる。

 ロシア外務省は9月12日、新たな制裁決議について「当初の米国の極端に厳しい制裁案を、中国と共にかなりの部分で修正できた」と評価する声明を発表した。声明は、ロシア極東ハサンから北朝鮮・羅津への石炭輸送の継続や航空路が維持された、と強調した。

 しかし北朝鮮は、国連安保理の新たな制裁決議を「全面排撃」すると表明しており、制裁決議に反発してミサイル発射などに出る可能性が高い。中国、ロシアが取れる立場も次第に狭まりつつあるといえそうだ。(つづく)

【本稿は5回に分けてお届けします】

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