- 2017年09月13日 10:15
先鋭化を怖れた極右党首の蹉跌 失速した新興政党「ドイツのための選択肢」
連邦議会への進出を目論む極右政党
[ドイツ・オーバーウルゼル発]9月24日に投開票が行われるドイツ総選挙は、キリスト教民主同盟(CDU)率いるメルケル首相の4選が確実な情勢だ。反難民・イスラム、単一通貨ユーロ解体を叫ぶ新興政党「ドイツのための選択肢」は一時、メルケルをあわてさせたが、路線対立で勢いを失った。しかし戦後初めて極右政党がドイツ連邦議会に議席を持つ恐れが膨らんでいる。

9月2日夕、フランクフルト郊外のオーバーウルゼルで開かれた「選択肢」の選挙集会に、フラウケ・ペトリ共同党首(42)が地元候補の応援にやってきた。ペトリは5人目の子供を出産したばかり。赤ちゃんの写真をツイッターに投稿し、「これがドイツのために闘う理由よ」と書き込んだ。集会場を訪ねると、「選択肢」支持者と反対派市民の衝突を回避するため、大勢の警察官が警戒に当っていた。

「選択肢」の選挙ポスターは、目の部分だけを残して全身をすっぽり覆う黒いブルカを着たイスラム女性の写真を掲げ、「イスラムはドイツではない」「(イスラムのために)女性の自由を議論する必要はない」と扇情的に主張する。「(難民を)入れるな! 国境を守れ!」「ユーロ危機のためにもう金を出すのはたくさんだ」「子供を作ろう!」というスローガンが並ぶ。

ユダヤ人大虐殺(ホロコースト)のトラウマが残るドイツでは難民受け入れ反対を声高に唱える極右政党「選択肢」に、ナチスの国家社会主義の亡霊を見る市民は少なくない。家族連れの反対派市民は集会場前で「違法な人間など存在しない」と書かれたポスターを掲げ、「難民をフラストレーションのはけ口にするな」と抗議した。
進む極右政党内での先鋭化
今年1月、テューリンゲン州議会のブョルン・ヘッケ「選択肢」幹事長(45)はドレスデンで演説し、ベルリンのホロコースト記念碑と政府の歴史認識について、連合国軍によるドレスデン無差別爆撃、広島、長崎への原爆投下と並べて、「私たちドイツ人は首都の中心部に恥の記念碑を作った世界で唯一の民族だ」と発言した。
ヘッケはこの発言で党から除籍された。しかし、支持者の間ではヘッケに同調する歴史修正主義の空気が不気味な広がりを見せ、ヘッケはその後も一部の党支部集会に招かれている。

ペトリ自身、欧州難民危機で不法入国を防ぐため「必要とあらば銃を使用すべきだ。もちろん私はそれを望んでいるわけではない。しかし銃器の使用は最後の手段」「イスラム教のミナレット(礼拝所の塔)やイスラム女性のスカーフを禁止する」という強硬意見で注目を集めたが、歴史修正主義はドイツでは受け入れられない。
ヘッケのような、さらなる極右化を避けるためペトリは政権に参加できる現実路線への軌道修正を図ったが、今年4月の党大会で孤立し、総選挙の「顔」にはならないと宣言するハメに追い込まれた。「タコ壺」の中では右傾化はどんどん加速し、主導権を得るため過激な意見が飛び出すようになる。
反難民・イスラムの強硬発言で不安心理をあおり党の主導権を握ったペトリだが、党内で急激に進む極右化の動きに今度は自分が押し出された。高齢者や単純労働者が目立つ集会場で、ペトリは「300人来れば良いと思っていたら、1400人も来てくれた」と胸を張った。
ペトリは10分余、筆者のインタビューに応じてくれた。党内対立について尋ねると、「今それに立ち入る時ではなく、総選挙で良い結果を出すために力を合わせる。国民は真の野党を求めている。世論調査の結果を見ると、8~11%の得票率で連邦議会に15~16議席を獲得することは可能だと思う」と語った。
シリア難民については「移民と難民を国内法で厳格に区別すべきで、戦争難民は一時的に庇護する必要がある。ロシアとアメリカの協力なしにシリア情勢を改善することはできないが、シリアが安定を取り戻した暁には難民は帰国して国を再建すべきだ」と答えた。党内の主導権を失ったペトリだが、歯切れのよい弁舌は健在だった。
EU内にくすぶる失業者・低賃金労働者の不満と右傾化の火種
2014年の欧州議会選以降に行われた州議会選における「選択肢」の得票率と議席数をグラフにまとめた。

ベルリンの壁崩壊と東西統一がドイツ人の誇りである。15年の欧州難民危機では実に100万人以上の難民がドイツになだれ込んだ。「国境を開け」と欧州連合(EU)拡大と統合の深化に大号令をかけてきた旧東ドイツ出身のメルケルには、戦火を逃れてきたシリア・イラク難民を前に「国境を閉ざせ」と突き放すことはできなかった。

シリア内戦の難民受け入れを表明したメルケルはその年末、米誌タイムと英紙フィナンシャル・タイムズの「パーソン・オブ・ザ・イヤー(今年の人)」にそれぞれ選ばれた。
ハンガリーのオルバン首相は「難民は我々を侵略しようとしている。欧州はドアを開けているだけでなく、難民に招待状まで出している」とメルケルの門戸開放を批判。旧東欧諸国のチェコ、スロバキア、ルーマニアが追従した。ショイブレ独財務相もメルケルを「雪崩の危険を冒す軽率なスキーヤー」とあげつらい、姉妹政党・キリスト教社会同盟(CSU)のゼーホーファー党首もメルケルを批判した。
筆者はロンドンを拠点にEUを取材して10年余になる。13年2月に結成された「選択肢」はユーロの構造的な欠陥に焦点を当てていた。反移民を強調し始めたのは難民危機以降だ。「選択肢」が昨年3月のザクセン・アンハルト州議会選で24.2%の票を得て第2党に躍進したことで、メルケルも難民認定のハードルを高くして「門戸開放」の旗を下ろさざるを得なくなった。
04年のEU拡大と、世界金融危機に続く欧州債務危機をきっかけに「一人勝ち」を謳歌するドイツ。経常黒字は世界最大で年2706億ドル。2位の日本は1878億ドル、3位の中国は1573億ドル。世界で一番豊かなはずのドイツで、どうして極右の「選択肢」が台頭したのか。
日本とEUのドイツ、フランス、イギリスで10年から14年にかけ実質労働所得がどれだけ変化したのかを比較したのが下のグラフだ。

ドイツではボトム10%の実質労働所得が実に5%も下がったのに対し、トップ10%は9%も上昇している。単純に計算するとドイツにおけるボトム10%とトップ10%の格差は14ポイント開いたのに対し、イギリスでは16ポイントも縮まっていた。
社会民主党のシュレーダー前政権下に行われた03年のハルツ労働市場改革で時給の下限が取っ払われた。月450ユーロ以下で働く「ミニジョブ」(当時は400ユーロ)が200万人も増え、14年時点で750万人。このうち専業が510万人もいるのだ。450ユーロは日本円にして5万9000円弱である。
「ミニジョブ」は小売、飲食、宿泊、保健・医療施設、福祉施設、ビル清掃業といったサービス分野に多い。仕事がないよりマシと言うものの、あまりにも過酷だ。15年にメルケルが時給8.5ユーロの法定最低賃金を導入して格差緩和に努めた。
イギリスのEU離脱決定、トランプ米大統領の誕生という危機バネが働き、EU統合派はオーストリアの出直し大統領選、オランダ総選挙、フランス大統領選で懐疑派政党を退け、3連勝を飾った。ドイツ総選挙でもEUの命運を握るメルケルが勝利するのは間違いない。
しかし、EU域内の失業者・低賃金労働者にくすぶる不満を解消しない限り、懐疑主義と右傾化の火種は消えない。4選ではなく、「選択肢」の得票率を5%未満に抑えられるかどうかが、メルケルに対するドイツ国民の審判と言えるだろう。



