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「ロヒンギャの悲劇」とアウンサン・スー・チー女史 - 坂場三男

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 ミャンマーでイスラム系少数民族ロヒンギャの人々が国軍の掃討部隊によって大量虐殺されている。殺人、放火、レイプによってロヒンギャの村々が消滅している。今や「ジェノサイド」の様相を呈し、十何万という難民が隣国バングラデシュに逃れつつある。欧米では人道危機として大きく報道され、国連もミャンマー政府に対して事態打開を繰り返し呼び掛けている。しかし、不思議なことに日本のメディアでは大きなニュースになっていない。その理由は何か。

 ロヒンギャ族とはミャンマー最南西部のベンガル湾沿岸地域、ラカイン州に住む人口100万人ほどのイスラム教徒である。もともと百年以上前のイギリス植民地時代に英領インドから(労働者として)陸路移住して来た人々で、今もってミャンマー国民とは認められて(市民権を有して)おらず、仏教国ミャンマーでは異教徒としてしばしば排斥されて来た。

1948年にミャンマーが独立した頃から弾圧が激化、特に前世紀末(1978年と88年、そして91-92年、96-97年)の騒擾時からは大量の難民が発生するようになり、国境を越えたバングラデシュ側には12万人規模の仮定住(難民)キャンプがある。2015年には海路でタイやマレーシア、インドネシアなどに逃げる人々が大量発生し、各国政府による冷酷な扱いもあって、世界の耳目を集める事態となったことは記憶に新しい。

 しかし、今回の大量虐殺は従来の状況とは異なる。それは、ここ十数年、ロヒンギャの若者の間にイスラム過激主義の浸透が見られ、2012年には少数の過激グループの手でARSA(アラカン・ロヒンギャ救世軍)という武装組織まで結成されていることである。この組織はIS(イスラム国)との関連が疑われており、昨年10月に最初の武力闘争としてミャンマーの国境警備隊を襲撃したことが知られている。

事態が更に悪化したのは先月25日にARSAが地元の警察署30か所近くを襲撃し、多数の警察官を殺害したことが契機になっている。これに怒りを爆発させたミャンマー国軍が犯人捜索の名目でロヒンギャの村々を無差別攻撃するという「報復」に出た。犠牲者の大半は過激主義と何の関係もない一般の人々である。

 こうした中、昨年4月から「国家顧問」の肩書で実質的な最高指導者の地位に就いているアウンサン・スー・チー女史の政治姿勢に欧米諸国から疑問が呈されている。かつてミャンマー民主化運動のシンボル的存在として名声を馳せ、ノーベル平和賞(1991年)まで受賞した彼女が自国内で深刻化する人道危機に何の手も打たないのみならず、むしろロヒンギャ排斥を容認する立場をとっているのではないかと見られることに失望の声が挙がるのも無理はない。

世の常として、反政府運動(野党)のリーダーが政権に就いた(与党になった)瞬間から無力な存在になってしまうことはよくある。批判のプロパガンダに長けていても政権運営の能力には欠けるという場合である。果たして彼女の場合もそうなのか。

 1つはっきりしていることは、今のスー・チー女史には軍をコントロールする力がないということである。彼女が現在の地位に就いたのは軍との妥協の結果であり、その不興を買えば再クーデターの危険すら排除されないような状況であろう。軍はイスラム・テロリストと戦っているという建前をとっており、なおさら批判は難しい。

また、国内世論に圧倒的な影響力を持つ仏教勢力がイスラム教徒の国外追放を歓迎しているという事情もある。加えて、彼女のもとには、ロヒンギャ居住地域で実際に何が起こっているのかの情報も正確には上がって来ていないのではないか。現地は完全な情報統制下にあり、国際人道団体もジャーナリストも入り込めていない。得られる情報はバングラデシュに逃げてきた難民の話と衛星画像の解析によるものであり、ミャンマー国内では得られないものばかりである。

 我が国には、かつて「ビルキチ」(ビルマ気違いの意)と呼ばれたミャンマー・ファンがいた。太平洋戦争中にビルマに進駐した旧日本軍人や小説「ビルマの堅琴」に感動した世代である。私も1980年代にパガンやマンダレーを訪問し、その歴史遺産や敬虔な仏教徒の姿に強い印象を受けた。

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