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給料を上げて人を増やして……とはならないのが日本的経営

ヤマト、荷物8千万個削減の計画撤回 値上げでも減らず(朝日新聞)

 宅配便最大手のヤマト運輸が、2017年度に扱う荷物量を前年度より約8千万個減らす計画を撤回したことが分かった。大口の法人客などと荷物量の抑制を交渉し、疲弊する宅配現場の労働環境の改善につなげる方針だったが、当初計画を見直して削減幅を3600万個に下方修正した。想定以上に法人客が値上げを受け入れて取引を継続するためとしている。

 当初計画では、荷物量を16年度の18億6700万個から17億8500万個に減らす目標を掲げたが、この目標を18億3100万個に修正した。値上げを嫌って他社に流れる顧客が思ったほど出ず、計画の修正を余儀なくされた形だ。

 ヤマトが6日発表した8月の荷物量は1億5027万個。前年同月を2・6%上回り、8月として過去最多だった。前年同月を上回るのは2年5カ月連続で、インターネット通販の荷物量の増加が続いている。17年度に入ってからの累計の荷物量も4・2%増となっている。

 ヤマトは4月、荷物量の抑制やサービスの見直し、基本運賃の改定などを柱とする「働き方改革の基本骨子」を発表。9月末までを目標に、大口の顧客や低運賃の荷物が増えている顧客と、値上げや扱う荷物の削減に向けた交渉を進め、その成果を荷物の総量抑制につなげることをもくろんでいた。法人客との交渉が想定通りに進んでいない結果、「働き方改革」の前提が揺らぎかねない事態となっている。(石山英明)

 ブルジョワ新聞に言わせれば「『働き方改革』の前提が揺らぎかねない事態となっている」そうですが、ブルジョワではない普通の人から見ればどうなんでしょうか。まぁ、ヤマト運輸経営陣の考える「働き方改革」もあれば、安倍内閣の唱える「働き方改革」もある、会社や論者の数だけ「働き方改革」はあるのかも知れません。

 ともあれヤマト運輸は荷物量を「減らす」計画を立てており、その削減目標に届かなかったわけです。それを目標未達と捉えればマイナスのイメージもつきまとうのかも知れないですけれど、ヤマト運輸にとって荷物の量とは販売の量であり、荷物量を減らすことは即ち販売件数の減少でしかありません。客が「減らなかった」のですから、何を悲嘆することがあるのでしょうか。

 この「ヤマト流」働き方改革の発端となったのは、従業員の過重労働が巷で問題視されるようになったことでした。これ以上の荷物を現状の人員で対応させるのは世間的に厳しい、ならば荷物の方を減らすしかない、そういう発想に(経営陣が)思い至ったわけです。ところが運賃を値上げし、荷物量の削減を交渉してもなお、顧客は減らなかったのです!

 今回の結果から明らかになったのは、顧客の大半は値上げされても今まで通りにヤマト運輸を利用したいと考えていることです。運賃が高くなっても、需要は減っていないことが分かります。この現実が示唆するのは、需給のバランスが取れる点よりも遙かに低い価格でヤマト運輸がサービスを続けてきたこと、ですね。

 需要のあるサービスは値段が上がっても相応に売れるわけです。しかるべく利潤を追求する「資本主義的に正しい」経営者なら、自社の利益を最大化するために、売れる範囲で高く値段を付けようとするものでしょう。ところがヤマト運輸の場合、高くても売れるサービスであったにもかかわらず、長年に渡って安値で自社サービスの販売を続けてきたのだ、と言えます。

 「普通の」国では、需要のあるサービスは会社に収益をもたらし、儲かった会社は従業員を増やし賃金を上げ、働く人の給料が高くなることで国内市場の購買力も上昇する――そうやって経済成長していくものです。ところが極東のガラパゴス列島だけは例外で、需要のあるサービスでも安売りし、安売りを維持するために人件費を切り詰め、その結果として働く人は貧しくなる、国内市場の購買力も低下する――そんなサイクルを続けてきました。

 ここで引用したのはヤマト運輸のケースですが、類似の事例は他でも少なくないのではないでしょうか。高く売れるモノでも安く売る、それは日本的経営の美学に適ったことなのかも知れません。しかし、それは資本主義的には間違いです。高くても買い手が付くなら高く売るべきですし、販売増で従業員の負担が増えるというのなら、儲かった分だけ給料と人を増やせば良いだけです。値上げしても客が減らないのなら、その原資は当然あります。

 それでも日本の企業は利益よりも理想を追うもののようです。21世紀の日本的経営は成長よりデフレを好みます。人を増やすことで解決できるにもかかわらず、まず先に荷物を減らす(=取引量を減らす)という「改革」が前面に出てくるのが日本の経営判断ですから。それは日本だけの常識のような気がしますが――人件費抑制を続けるためなら商取引まで抑制してしまうのは、会社の偉い人にとっては常識なのでしょう。

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