- 2017年09月10日 00:00
特集:北朝鮮の核とミサイルを考える
2/2●北朝鮮:昔から変わらない行動パターン
米朝ががっぷり四つに組んでいるように見えるけれども、考えてみれば不思議な話である。何といっても北朝鮮は軍事的にも経済的にも弱小国である。いくら核兵器と弾道ミサイルを保有していても、全面戦争になれば必ず負けるはず。それもその場合、「国破れて山河あり」といった破滅的な結果をもたらすことになりかねない。
ところで北朝鮮の行動パターンを考える場合、古いけれども有益な法則がある。何と本誌 1999 年 7 月 16 日号で紹介したもので、原典は神谷万丈防衛大学教授が月刊誌『Foresight』に寄稿した論文である4。日朝首脳会談(2002 年)以前の分析が今もそのまま使える、という点にはただ驚き、呆れるほかはない。
○北朝鮮の行動原理
(1) 北朝鮮は、生存を望み、自殺行為をしない。
(2) 北朝鮮は、成果の見込めない武力行使はしない。
(3) 北朝鮮は、成果の見込める武力行使はする可能性がある。
(4) 北朝鮮の意思決定は、経済合理性にのみ従っているわけではない。
(5) 北朝鮮は、国際的合意を遵守するとは限らない。
(6) 北朝鮮は、善意に基づく互恵の精神は期待できない。
(7) 北朝鮮は、力の論理は敏感に理解する。
(8) 北朝鮮は、いずれ核兵器も弾道ミサイルも保有する可能性が高い。
(9) 北朝鮮は、国力のあらゆる指標から見て弱小国である。
(10) 日朝関係が改善すれば、北朝鮮には大きな利益がもたらされる。
(11) 日本には、日朝関係を改善しなければならない切実な理由はない
「あまり強力な経済制裁を行うと、北朝鮮は自暴自棄になるのではないか」との声をよく聞く。かつて「ABCD 包囲網」という経済封鎖を受けて、太平洋戦争に踏み切ったことがわるわが国としては、それが自然な発想になるのであろう。
ところが北朝鮮の場合、考え方が根底から違うようである。北朝鮮は建国以来、自殺行為をしたことがない。「力の論理」には反応するので、抑止が効きやすい相手でもある。さらに言えば、歴代の金正恩、金正日は現世の楽しみを追う独裁者であり、みずからの主義主張に殉じるようなタイプではない。ゆえに北朝鮮の軍事的挑発に対して、日本は騒ぎ過ぎてはいけない、というのが神谷教授の結論となる。
逆に国際的合意は守らず、善意に基づく互恵の精神も期待できない相手であるから、普通に外交交渉を呼びかけても実りは尐ない。拉致問題を抱えるわが国では、過去に何度も煮え湯を飲まされているので、このことは広く知られている。ただし、よく知らない相手は簡単に騙されてしまう。
北朝鮮は、いわば戦国時代の狡猾な弱小大名だと考えると分かりやすいかもしれない。野性味があり過ぎて、21 世紀の人間にはどうにもピンと来ないけれども、けっして狂気に支配されているわけではない。むしろ昔から変わらぬ行動原理を貫いて、冷徹な計算の下にしぶとく生き残っている。タイプ的には松永弾正久秀、と言ったところだろうか。
●安保理:追加経済制裁はまとまるのか?
問題は北朝鮮に喧嘩を売られている側が、ひとつにまとまれないことにある。本来は国際社会が団結して、「力の論理」で対抗するのが有効なはずであるが、先進国は常に「体面」を重んじなければならず、「まずは外交で」などと言ってしまうのである。
以下は、本誌がたびたび使ってきた「三層構造」の図式である。グローバルビジネスというものは、以前は①×(b)の世界(右上)だけを見ていればよかった。ところが新興国経済の高度成長に伴い、②×(b)の世界にも進出しなければならなくなり、そうなると中国やロシアは「政経不可分」なので、(a)の領域も視野に入れなければならなくなる。
しかもどうかすると、アナーキーな③の世界から挑戦も受けることがある。これが 21 世紀における「地政学リスク」の構図で、グローバルビジネスは①②③×(a)(b)という全体を相手にしなければならなくなったのである。

そこで問題は、③×(a)に棲息する戦国大名をいかに無害化するか。安保理で経済制裁を実施しようとしても、①先進国と②新興国の間で利害対立が起きてしまう。②の中国やロシアには、「③を助けて①を困らせる」誘惑が常に存在する。逆に①の住人は高尚になり過ぎて、②や③の野蛮な世界観が理解できなくなっている。
現在、国連安保理では米政府による追加制裁決議案が公表されている。石油は止める、金正恩の資産も凍結すると言っており、完全に履行されれば相当な打撃になるだろう。
普通に考えれば、中ロが反対して決議は成立しないだろう。特に中国にとっての対北石油禁輸は、「パイプラインの送油を止めると、パラフィンが凝結して管が詰まる」という技術的問題から、「北朝鮮に対する最大のカードを、できれば残しておきたい」という政治的理由まで、さまざまな思惑があって簡単には決断できないところであろう。
もっとも今回は不成立でも良い、という見方もできる。この次に北朝鮮が挑発行為をやったときに、「さすがに 2 度は許されない」という状況を作ることができるからだ。
●日本:「核には核を」の選択肢は?
こうした中で、米国の新聞紙上では「日本の核武装」を取り上げる論説が増えている。 8 月 30 日の Wall Street Journal 紙社説”Nuclear Missiles over Tokyo”は、「日本には民生用原子炉から得た核弾頭 1000 発分を超えるプルトニウムがあり、数か月で核弾頭を製造するノウハウもある」5、「(日本が核武装すれば)中国が警戒し、韓国が追随しかねない」などと指摘している。その上で、スーザン・ライス元 NSC 補佐官などによる「北朝鮮の核を容認せよ」との意見に反対している。
また同紙 9 月 5 日には、政治学者のウォルター・R・ミード教授が”Does Trump want a Nuclear Japan?”という論文を寄稿している。こちらは、日本など東アジア諸国が核を保有するようになれば、米軍の太平洋撤退を意味することになる。トランプ大統領はその方が良いと思うかもしれないが、米軍はアジアでプレゼンスを維持すべきだ、と述べている。
いずれの議論も、「ここまで来たら、日本が核武装しない方が不思議だ」という認識を前提としている。そうさせないためにも、米国はアジアへの関与を続けるべきだ、という論旨になっている。本誌の次ページで紹介している今週号の”The Economist”誌論説も、核には触れていないが同盟を重視せよという議論である。おそらくトランプ大統領の孤立主義傾向を警戒し、同盟国との分断を恐れているからであろう。
ところが日本国内では、「核武装」の議論は依然として封印されたままである。ただし「国内世論が完全に核保有に反対しているから考慮しません」と言っても、対外的な説得力は乏しいだろう。ここはしかるべき論者が登場して、日本の核オプションの是非をきちんと議論しておいてほしいと思う。
もっとも、「誰が言ってくれれば信頼に足るか」というと、ふさわしい人を思いつかない。この国に「右派の論客」が足りないとは、とても思われないのだが。
1 https://www.cagle.com/tom-janssen/2017/04/trump-red-line
2 The American Prospect 誌の”Steve Bannon, Unrepentant”から。8 月 15 日午後に行われたインタビュー。
3 従来の北朝鮮の価値観から言えば、核を保有したからには米中と同格となる。核を持たない国は「格下」(核下?)であって、日本や韓国はともに語る相手ではない、ということになるだろう。
4 この雑誌は既に廃刊になっているので、この法則は本誌バックナンバーで確認するほかはない。ちなみに本誌 2000 年 6 月 23 日号でも再掲している。
5 ここは多分に事実誤認が含まれている。日本国内にあるプルトニウムはよく言われる 47 トンではなく、11 トンに過ぎない(残りは英仏など海外)。また原子炉級プルトニウムは核兵器に適さない、日本が核弾頭を持てるまでには 3~5 年かかるとの見方もある。
- 吉崎達彦(かんべえ)
- 双日総合研究所取締役副所長・同主任エコノミスト。



