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- 2017年09月07日 00:00
北朝鮮の核保有を認めざるを得ない米国 ~日本に求められるタブーなき冷静な核抑止議論~ - 織田邦男
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もし米国の軍事力行使があるとしたら、マティス国防長官が言うように「米国やグアムを含む米領、そして同盟国に対する」攻撃があった時であろう。その時は明確に自衛権行使が認定され、国連でも何らかの武力行使容認決議がなされる可能性もある。だが、金正恩も馬鹿ではない。米国に口実を与えないよう、ぎりぎりで「寸止め」し、実をとる瀬戸際政策を続けるに違いない。
今後たとえ米朝対話が実現したとしても、金正恩は核武装を絶対放棄しないだろう。核保有は父金正日総書記の遺訓であり、金正恩はこれを蔑ろにすれば後継者としての正統性が揺らぐ。また外圧で核を放棄したとあっては、独裁者としての権威は失墜する。また、リビアのカダフィ、イラクのフセイン、両独裁者が消されたのは核武装を放棄したからだと金正恩は信じている。韓国に亡命した元駐英北朝鮮公使太永浩は「1兆ドル、10兆ドルを与えると言っても北朝鮮は核兵器を放棄しない」と述べている。
核武装を決して諦めない北朝鮮、大規模な戦争はやりたくない米国、北朝鮮を崩壊させず、しかも影響力を失いたくない中国、この三者でどう落としどころをつけるか。選択肢はそう多くない。日本は米国が武力で解決してくれるといった希望的他力本願ではなく、蓋然性が高く、しかも日本にとって最悪のシナリオを想定し、事前に腹案を固めておく必要がある。
次のようなシナリオがあり得ると筆者は考えている。米国は最終的に北朝鮮を核保有国として認める。その代わり、米国に届く長射程ICBMは保有させない。(米中で共同管理するなど)これをのめば、金正恩体制の変更は求めない。つまり核保有を認め、ミサイルは米国の本土に届かない限り黙認するというシナリオだ。
トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」の為なら中国、北朝鮮とのディールもやりかねない。またアングロサクソンには「叶わぬ相手とは手を結べ」という格言がある。最終手段としての軍事力による解決が期待できないのであれば、金正恩と手を結んで次善の策を追求することも十分ありうる。日本は最悪を覚悟しておかねばならない。
このシナリオでは、北朝鮮は日本全土を射程圏とする核ミサイルを保有することになる。日本にとってはとても受け入れがたいものだ。「独裁国家が強力な破壊力を持つ軍事技術を有した場合、それを使わなかった歴史的事実を見つけることができない」といった歴史家がいる。日本にとっては朝鮮半島の非核化は譲れない一線である。だが、いつまでも希望的観測に安閑としている時ではない。
これは中国にとっても好都合だ。米国が北朝鮮を核保有国として認め、平和条約を結んで金王朝存続を認めることを取引材料として、金正恩にミサイルの射程制限をのませる。中国はこの成果を梃として米国との信頼関係を築く。そうすれば念願の「新型大国関係」が構築でき、アジアの主導権を握ることが可能になるかもしれない。
この時日本はどうするのか。危機管理の鉄則は「考えられないことを考える」ことである。考えたくないから思考停止するといったこれまでの習性では最早生き延びることはできない。北朝鮮が中距離核ミサイルを保有するのであれば、それをいかに使わせないかを真剣に考えなければならない。
戦略家エドワード・ルトワックは「核兵器は使われない限り、有効である」といった。いわゆる「ルトワックのパラドクス」である。核兵器は広島、長崎以降、世界で一度も使用されたことがない。核兵器は非常に使い難い兵器であり、使用のハードルは極めて高い。今後も多分そうだろう。だが、ルトワックが言うように、「使わない使用」つまり威嚇、恫喝をもって相手に我が意志を押し付けるには、核兵器は未だに極めて有効な兵器である。
北朝鮮の核の恫喝、威嚇に右往左往して妥協を繰り返すだけでは、もはや主権国家とは言えない。この威嚇、恫喝を無効化するには、ミサイル防衛やシェルターの整備といった拒否的抑止能力と、相手に壊滅的打撃を与え得る懲罰的抑止能力を持たねばならない。これまで懲罰的抑止は米国による拡大抑止に依存してきた。だが、米国が北朝鮮を核保有国に認定した場合、米国の拡大抑止は依然有効と言えるのだろうか。
これまで日本は米国の「核の傘」に安穏としてきた。だが北朝鮮の核の「使わない使用」に対して、これまでのように「核の傘」に(たとえそれが虚構となっても)縋り、「非核三原則」を壊れたレコードのように繰り返すだけで果たして日本の主権と独立を守ることができるのだろうか。
北朝鮮の核による恫喝や威嚇を拒否し、しかも核抑止を確かなものにするにはどうすればいいか。米中が手を結んで北朝鮮に中距離核ミサイルを保有させるという最悪のシナリオを想定し、日本はタブー無き議論を直ちに開始すべき時だろう。
弾道弾ミサイルの発射実験が立て続けに行われ、6回目の核実験があったこの後に及んでも、テレビのワイドショーでは、思考を停止した「話し合いを」の一色である。これまで日本では核論議はタブー視して逃げてきた。だが、もはや逃げ道がないところまで日本は追い込まれている。
朝鮮情勢を直視し、朝鮮半島の非核化は目指しつつも、最悪のシナリオを想定し、「核の傘」の補修、核保有、核のシェアリング、非核三原則の見直し、そして憲法改正等々、タブーなき冷静な論議が求められている。その際、同盟国米国と緊密な意思疎通や連携が欠かせないのは言うまでもない。我々が自らの手で、日本の核抑止戦略を早急に構築することが何より求められている。核の脅威は間違いなく我が頭上にある。
織田 邦男 Kunio Orita 元・空将
1974年、防衛大学校卒業、航空自衛隊入隊、F4戦闘機パイロットなどを経て83年、米国の空軍大学へ留学。90年、第301飛行隊長、92年米スタンフォード大学客員研究員、99年第6航空団司令などを経て、2005年空将、2006年航空支援集団司令官(イラク派遣航空部指揮官)、2009年に航空自衛隊退職。
- 一般社団法人日本戦略研究フォーラム
- 外交安全保障を主軸としたシンクタンク



