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北朝鮮の核保有を認めざるを得ない米国 ~日本に求められるタブーなき冷静な核抑止議論~ - 織田邦男

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 トランプ大統領は、記者団から軍事力行使の可能性について問われ、「そのうち分かる」と述べた。その後、ツイッターに「北朝鮮とビジネスをする国とは、貿易をすべて中止することも検討している」と書き込んでいる。
 
 8月13日、ティラーソン国務長官、マティス国防長官は対北朝鮮政策に関する連名記事をウォール・ストリート・ジャーナルに掲載した。要旨はこうだ。
 ① これまでの「戦略的忍耐」は失敗であったが、これからは軍事的手段に支えられた外交的努力を主とする。
 ② 目的は朝鮮半島の非核化であり、金王朝の体制変換は求めず、南北統一も求めない。
 ③ 軍事力行使ではなく交渉を優先させる。

 この背景にあるのは、次のような軍事的「手詰まり」状態である。
 ① ソウル周辺には北朝鮮の火砲の射程圏に約2000万人が住んでいる。言わば約2000万人が人質状態といえる。核やミサイル施設を破壊するには、同時に38度線に配置された約1万門とも言われる北朝鮮軍の火砲を奇襲的に一挙に無力化しなければならない。これには、海空軍の航空戦力増派が必要である。だが増派にはロジスティックも含めると最低1~2か月はかかり、奇襲性が失われるというジレンマがある。
 ② 軍事力行使の場合、反撃による犠牲は日本、韓国にも及び、両国政府の事前承諾は欠かせない。特に韓国は多数の犠牲者が予想され、韓国政府の合意は欠かせない。だが、文在寅韓国大統領は北朝鮮攻撃には強硬な反対姿勢を示しており、承諾を得るのは難しい。
 ③ 小規模軍事作戦で「斬首作戦」もオプションにあるが、リアルタイム情報(ヒュミント情報)が決定的に不足している。「ポスト金正恩」の出口戦略もない。また、この作戦のチャンスは一回しかない。しかも金正恩の死を検証できる攻撃でなければならない。(死体が確認できないような攻撃は失敗)失敗すれば反撃の口実を与え、ソウルが「火の海」になる可能性が大きい。
 ④ 中朝友好協力相互援助条約を結んでいる中国の承諾、最低限「黙認」の取り付けが必要。この条約は自動参戦規定がある。
 ⑤ 国連での何らかの武力行使容認決議が必要である。北朝鮮の「米国をこの世から消し去る」といった激しい恐喝だけであれば、自衛権行使は認定されない。国連のお墨付きなしでは国際社会のみならず米国議会、米国民の支持も得られないだろう。
 ⑥ 独裁者に理性的対応は期待できない。軍事力行使によって、絶望の淵に追いやると自爆的行為も考えられる。核兵器を保有するので予想を超える被害が出る可能性がある。 

 中国は朝鮮半島問題のキープレーヤーである。特に④については、米中戦争にエスカレートすることは米国も望んでおらず、中国の面子や意向を無視することはできない。だが北朝鮮に対する中国の考え方は以下の通りであり、現実的には中国の「黙認」を取り付けるのは難しい。

 ① 金王朝の崩壊は大量難民を生み、国境を接する中国領内に混乱をもたらす。また出口戦略(ポスト金正恩)なき作戦は混乱を生むだけであり、米国の軍事力行使は中国にとって百害あって一利もない。
 ② 韓国主導の半島統一は中国にとっての悪夢である。影響力を残したバッファゾーンを維持し、米国の影響力を局限するためにも、北朝鮮を温存したい。
 ③ 中朝友好協力相互援助条約を蔑ろにすることは、今後の中国の覇権拡大に悪影響を及ぼす。コミットメントを守らない国との烙印を押され、信頼を失う。
 ④ 米国本土への北朝鮮ICBMは中国の対米戦略上、むしろ好都合である。

 まさに米国にとっては軍事的「手詰まり」状態であり、軍事力を背景とする交渉とは言うものの迫力に欠けるのは否めない。4月7日、化学兵器を使用したシリアに対し、米国は59発の巡航ミサイルを撃ちこんだが、北朝鮮に対しては、このような「ちょっとだけ攻撃」して「お仕置きを」というわけにはいかない。最近の一連の核、ミサイル開発の動きは、金正恩がこの「手詰まり」を見透かしたものであろう。
 

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