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党大会で「1強体制」固める習近平の「思想」と「対日観」 - 井尻秀憲

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「任期」の規約変更は必要なし

 また、党大会では毛沢東時代の「党主席制」の復活と政治局常務委員会の制度改革が重要になる。さらに最も重要な問題は、7人の常務委員とそれを含む25人の政治局員に、習氏の子飼いの人物をどれだけ押し込むことができるかだ。

 党と軍との関係では、8月1日に北京人民大会堂で建軍90周年記念式典と軍事パレードが実施された。パレードを閲兵する習氏の態度は、これまで以上に最高司令官としてのイメージ作りに貢献した。ここでの習氏の講話で、「軍民融合=軍民一体化」を国家戦略に格上げし、共産党が軍を取り込み民間と一体化することで、「人類運命共同体」の構築を訴えた(『人民日報』2017年8月2日、『東亜』9月号所収の濱本良一筆「中国の動向」など)。国産空母の進水も党大会にむけて準備されている。

 習氏にとっては、党総書記=2期10年の現行規約は暫定的規約なので、今回の党大会で変更の必要はない。ただ、前記の『日本経済新聞』や香港紙などが触れているように、党主席復活となると、規約を改正して党主席制を盛り込まなければならない。

景気の底上げは数字合わせ

「政経分離」という表現があるが、私はこの言葉に違和感がある。どこの国であれ、「政治」と「経済」を分けるには困難を伴うからだ。中国の「汚職摘発キャンペーン」も、官僚の不作為(サボタージュ)で仕事が進まず経済に打撃を与える副作用をもたらしてきた。

 党大会に向けた不安定要素は経済だ。舵取りを誤れば指導部批判に直結しかねないアキレス腱だ。党と政府は経済の「安定」演出に全力をあげ、「演出」のための「数字合わせ」さえ厭わない。

 習氏は今年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)で、中国経済の急成長を誇示しながら、「『新常態』に入った中国には、重大な変化が起きつつある」と認めた。「新常態」とは、輸出主導の高度経済成長から転換し、国内市場を基盤にした安定成長に向けた産業構造の供給型改革を指す。

 だが、中国経済の「新常態」が言われ始めてすでに久しいが、国有企業の構造改革は全くと言っていいほど進んでいない。日本の会計検査院に当たる中国の審計署は、大手国有企業18社の不正を公表した。現在行われているのは、企業の過剰生産の調整といった程度で、既存の工場で質の高い製品を作り出すための高度な技術すら買ってはいない。闇鉄鋼の過剰生産が問題になるくらいだから、製品の生産量の調整や腐敗問題だけでも相当の困難を抱えていると見るべきだろう。この問題は深刻なもので、「ジョーク」も言えないくらいだ。

 もとより、中国企業が生産拠点を日本に移すことで、高度な技術とノウハウを得ることができるが、今のところそうした中国企業は1社のみしかない。政府は今年の経済成長目標を「6.5%前後」としたが、政府は目標達成に向けた経済政策を相次ぎ打ち出し、景気を底上げしているのが実態で、構造改革という「宿題」は積み残されたままだ。党大会後の中国経済の減速と成長の「鈍化」を予測するのは、私だけではないだろう。

 他方、経済を利用した習氏の「権威付け」は着々と進んでいる。習氏は今年に入り、「自由で開かれた世界経済を堅持する」と繰り返し反保護主義の立場を表明してきた。しかし、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ政権を意識し、中国が代わりに自由貿易の「保護者」たろうとするアピールは、単なる「スローガン」に過ぎない。

 9月3日から5日までは、党大会前の最後の国際会議である新興5カ国(BRICS)会議がアモイで開催された。中国の主要メディアは、習氏が1期目に取り組んだ貧困対策などを振り返る特集を組み、党大会を盛り上げようと躍起になっていた。

 さらに遡れば、4月1日の『新華社通信』電は、「千年の大計であり、国家の大事だ」と習氏が語った一大プロジェクトを公表した。北京に隣接する河北省に大規模な新都市「雄安新区」を建設する構想だ。1980年代以降に中国の発展を牽引してきた深圳、上海、浦東に続く別格の特区として位置づけられており、湖北省はかつて習氏が勤務した地であるだけに、党大会に向けた実績作りと見られる。

対日観は「日本軽視」

 トランプ米大統領の訪中に先んじて、中国党中央弁公庁は中国外務省に対し、「トランプ氏の娘イヴァンカ夫妻の党大会前の訪中が絶対命令だ」とし、9月訪中の日程調整もなされたようだ(『産経ニュース』2017年8月31日)。存在感を内外にアピールしたい習氏は、トランプ氏の家族に的を絞り、党大会の開催を格好の「演出の場」としたいのだ。

 日中関係では、尖閣諸島周辺での中国公船の領海侵犯と、接続水域での接近行動の頻度と継続性が増している。5月の「一帯一路」国際会議で、習氏は二階俊博自民党幹事長や今井尚哉首相秘書官らと会見した。通常、隣席に座らせる側近中の側近である栗戦書(党中央政治局委員)や王滬寧は不在だった。習氏が対日関係を改善したくない証拠だ。習氏や中国指導者の対日観は日本軽視で、対日関係を改善しても意味がないと考えている。「中国の軍門に下らない日本の安倍総理」を習氏は見下している。来たる党大会前後に中国発の一大事(たとえば習氏に対する反発、すなわち党内闘争の激化など)が起きれば、闘争の材料として尖閣問題に飛び火しかねない。しかも、尖閣や南シナ海問題で、習氏が直接指揮していることが、中国共産党学校機関紙『学習時報』で報じられている(『文匯網(快訊)』2017年8月27日。『東亜』2017年9月号所収の濱本良一著「中国の動向」など)。

 海上自衛隊OB筋によると、尖閣の領海の外で、中国海軍が待機しているようだ。この厳しい現実に基づく発想と戦略的思考の構築が日本外交には求められる。と同時に、米、台湾、ASEAN諸国(インドネシア、ヴェトナム、ミャンマーなど)やインドとの連携によって、中国との論争に挑むことで、日本外交の「偏差値」を上げるしかない。

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