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とっくに消えている「安全神話」ー転機を迎えたPKO④

我が国のPKO法のもとでは戦闘行為に自衛隊を参加させるのではなく、当該地の後方でのインフラ整備に従事するのが主な仕事だ。万が一紛争に巻き込まれるような事態が起きたら直ちに撤退する。ーこういうことを、誰しもが信じてきた。とりわけ”生みの親としての公明党”は、5原則の中にしっかりと書き込まれているのだから大丈夫だ、と内外に喧伝してきたものである。

しかし、歳月が経つにつれてPKOを取り巻く環境は大きく変わってきた。いや、実際のところは、スタートしてあまり時間の経たない時点で、国連そのものが変化を余儀なくされてきていた。1999年にコフィー・アナン国連事務総長が「これからのPKOは、国際人道法を遵守せよ」と明言し、住民を保護するために、PKO自身が交戦主体になることを想定すべきだとの方向性を打ち出したのである。にもかかわらず、日本ではそういう変化に対してみて見ぬふりをしてきた傾向が強かったかのように思われる。何を隠そう、実は私自身も危ないところには行かなければいい、行く場所を選べば大丈夫だとの「PKO安全神話」ともいうべきものにしがみついていたことを告白する

▼確かに、行く場所によってはさして危険が伴わないと思われるところもあった。例えば中米のハイチなどは主たる目的が地震後の復興支援でもあり、比較的安全だといえた。また、仮に危ないところでも、あくまでPKOは後方からの復興人道支援であるとの原理的思考に支配されており、大丈夫であるとの安全幻想が浸透しやすい背景があった。しかし、頑なな安全神話に日本がもたれかかってるうちに、現実には危険なPKO現場というものが次第に日常的なものになっていった。

そうした状況下で、世界各国にも変化が起きてきたのである。欧米先進各国ではPKOに積極的な参加を見直す傾向が顕著になってきており、発展途上国の参加でようやくPKOは持っているという姿が浮かび上がってきているのだ。加えて2001年の「9・11」以後の対テロ戦争の激化は、自ずとPKOの在り方に変化を求めざざるを得なくなってきた。私が現役時代にも既にPKO法の5原則見直し問題は出ては消え、消えては出るという状況だったが、結局は「事なかれ主義」に支配され、決断は先送りされたというのが恥ずかしながら実情だったのである

▼南スーダンへのPKO部隊の派遣の危険性についても、当初から懸念されていないわけではなかった。民主党政権の時に出された決定だったこともあり、国際貢献の拡大という一点で、現政権の側も目を瞑ったという側面があったようにも思われる。そんな折も折、PKO派遣を決める側の政治もさることながら、それをウオッチしている自衛隊関係者でさえ、あまり分かっていないのではないかと思われる興味深い記述を発見した。柳澤協二氏の『自衛隊の転機』(2015年発刊)の中でである。ここでの「鼎談・前線からの問題提起」における、伊勢崎賢治東京外大教授(元国連PKO幹部、アフガニスタン武装解除日本特別代表)と冨澤暉元陸幕長とのやり取りだ。

伊勢崎氏が言う。「これから国連PKOのスタンダードになるのは住民保護ミッションが頻発するアフリカなのです。現在、国連のPKOだけで八つか九つあるでしょう。その最前線の一つが南スーダンなんですね。繰り返しますが、住民保護のために当事者である国家を差し置いて交戦主体になる今日のPKO では、先進国が部隊を送ることは期待されていないのです。そこに、自衛隊が行かされているわけです」と。これに対して、冨澤氏は、こう正直に応えている。「伊勢崎さんの話を聞いて、PKOもこの二十年間でずいぶん変わったのだと思いました。いまの政府や内局がそういうことをわかってるのでしょうか。私は伊勢崎さんの話を聞くまで知りませんでした」と

▶このあと、柳澤さんが「いや、本当に政府はわかってるんでしょうかね」と意味深長な助け舟を出している。私は政府も内局も、中心のところは勿論危険であることをわかっていると思う。わかっていながら、引くに引けない流れにはまり込んでいるのではないか、と思われてならない。今回この連載の冒頭に述べたような、南スーダンのジュバの宿営地では、砲弾が乱れ飛び、現実に日本の自衛隊のすぐ隣にいた中国の部隊員からは犠牲者が出ている。

本来は、5原則に則って、直ぐに撤収する場面だったが、現実にはそう簡単に帰りますとは言えない。ということで、任務終了まで少々の時間がかかった。しかも背景にそうした危ない事態があったことについて、「日報」の存在すらうやむやになるといった恐るべき体たらくを防衛省は示した。これが何を意味するか。国民の前に、PKOの現実は赤裸々なまでにその姿を露わにしたのである。幸いなことに、こうした危険が現実のかたちに見える犠牲者は出なかった。この僥倖に、日本はいつまで甘えているのだろうか。(2017・9・3)

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