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野田首相の大きな一歩

野田佳彦首相はどうやら、かなり大きな一歩を踏み出したようです。民主党内の対立が解消されないまま、野田首相は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉参加に向けての関係国との協議開始を明らかにしました。国内では、「これは交渉参加の意味だ」とか「あくまでも交渉参加を前提としたものではない」とか、ちまちました解釈がかまびすしく論じられましたが、首相がホノルルのアジア太平洋経済協力(APEC)、バリ島の東アジア首脳会議(EAS)と、アジア太平洋地域の重要な会議を2つこなす間に、アジア太平洋の権力政治は大きく変容しました。

米中角逐の中で



その最大の動きは、米中の角逐です。これは、南シナ海の領有権をめぐる中の強硬姿勢と、中国の西太平洋でのプレゼンスの増大に対する米国の懸念の衝突に現れています。

進む中国の海洋戦略



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                                 Wikipediaより

中国は日の出の勢いの経済力を背景に、海軍を中心とする軍備を拡張し、日本との間の尖閣列島領有権をめぐる争いの一方で、南シナ海での、スプラトリー諸島、パラセル諸島をめぐる東南アジア諸国連合(ASEAN)に属する国々との領有権紛争では、圧倒的な軍事力をときにちらつかせる砲艦外交で既成事実を積み重ねてきました。また、空母建造を軸とした遠洋作戦能力、またアメリカの空母タスクフォースを意識した長距離の地対艦ミサイル整備は、中国のいう「第一列島線」(九州を起点に、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島にいたるライン)の内側へのアメリカの軍事力のアクセスを許さない戦略の手段です。

対する「航行の自由」派



南シナ海での領有権紛争で中国は「二国間解決」を主張してきました。要するに「サシで話をつけよう」ということです。中国と相手国の国力の違いをみれば、どういうことかはわかります。これに対し、ASEANに属する相手国は「公海上の航行の自由」という国際法の考え方を使って域外のパワーの関与=支援を求めていました。助けとして期待されるのは、第一にアメリカ、そして日本、韓国です。いずれも、民主主義を信奉する通商国家ですから、「航行の自由」を尊重する国家ですが、これまで、明確な後押しにまでは至りませんでした。

東アジアサミット宣言は「国際法の尊重」うたう



それが、19日の東アジアサミットでは、南シナ海問題について、ほとんどの首脳が言及し、「海洋に関する国際法が地域の平和と安定の維持のために必須の規範を含むと認識する」ことなどを盛り込んだ宣言を採択しました。これはASEANの求めてきた「海洋安保」の考え方です。正面から「航行の自由」をうたわなかったのは、ASEAN側の中国に対する遠慮の表現だったようです。これに対し、中国は「どんな口実があっても、外部の勢力は介入すべきではない」と暗にアメリカを批判するにとどまりました。

「日米安保堅持」の内実を強化したTPP交渉参加方針



日本は昨年の7月ごろから、南シナ海問題でASEANと共同歩調をとってきましたが、ここに至って、日米とASEANが中国牽制でこれほどまでに一致できたのは、野田政権によるTPP交渉参加に向けた一歩の効果です。鳩山由紀夫元首相の普天間問題をおもちゃにした姿勢や、いわゆる日米中正三角形論は、アメリカの同盟国日本への信頼を掘り崩しただけでなく、アジア政策でアメリカが腰の座った姿勢を打ち出すのを妨げてきました。しかし、野田首相のTPPに対する態度は、単なる美辞麗句を超えた「日米同盟堅持」の内実としてアメリカのアジア政策への側面援護になりました。

ASEANへの側面支援に



一方、ASEAN諸国側は、昨年日本が尖閣列島での中国漁船拿捕問題で悩んでいたとき、日本支援の姿勢を示していました。これはひとえに中国の覇権への警戒です。自由貿易圏に関しても、ASEANは「ASEAN+3」(ASEANと日中韓)を推進しようとする中国に対しても違和感を持っていました。ここでは、やはり中国のヘゲモニーが圧倒的になりかねないからです。野田首相がTPPに一歩踏み出したことで、中国はこれまで難色を示してきた「ASEAN+6」(AEAN+3+オーストラリア、ニュージーランド、インド)容認の姿勢を見せ始めました。ASEANにとっても、地域の平和勢力としての大国日本に中国に対するカウンターバランスとしての役割を期待してきました。それだからこそ、TPPで野田首相が内実のある「日米同盟堅持」の一歩を踏み出したことは、ASEAN+日米による「海洋安保」派形成に向けてのスクラムを成立させる大きな一歩だったのです。

評価定まらぬ野田外交



もちろん、日本国内には依然として農業など純然たる国内問題としての反対勢力はありますし、こと大局的な外交戦略問題としては「安保、米と共同戦線、日本外交ひとまず成果」(日本経済新聞)や「日本外交、ひとまず立て直しの軌道に」(読売新聞)という積極的な評価の一方、「大国の間揺れる日本」(‘朝日新聞)という留保もあります。野田首相が踏み出した一歩をさらに進められるかは、なお未知数です。

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