- 2017年08月30日 15:27
「世界共通のインターネット」時代は終わりを迎えるのか 中国、ロシア、そしてグーグル - 塚越健司
2/3ロシアにも見られるネットからの離脱傾向
こうした動きは中国だけではなく、ロシアにも見られる。ロシアも中国同様に国内のインターネットに関する取り締まりが厳しく、特にテロ対策や違法サイトの取り締まりの名目で、言論弾圧や盗聴の合法化などが行われている。また企業活動に際して、データはロシア国内にサーバーを設置しなければならず、当局の求めに応じて個人情報を提出しなければならないことも法律で決まっている。そのため2017年5月から、これを拒否したLINEや中国のWe chatなどはロシア国内では使用できない状態となっている。
さらに7月にはVPNを禁止する法案が上院下院でともに満場一致で採択。はやければ11月にも施行されるという。すでにVPNを利用しなければLINEも利用できないロシアにおいて、VPNの禁止はやはり大きな痛手となる。またこの法案に関しては、反対するデモが行われ逮捕者も出ているが、テレビなどでこの事実が報道されることはなかったという。
中国については日本においても多くの報道がなされているが、ロシアもまたインターネットの主権を国家ごとに認めるべきとの立場であり、結果的に欧米のサービスではなく自前のSNSなどをつくっている。中国もロシアも、世界から自国に都合の悪い情報をシャットアウトしようという意思がうかがえる。
グーグル検索と「世界共通」
しかし、「世界共通」であることが一般の人々の利害に反していることもある。グーグルは多くの訴訟問題を抱えているが、カナダで生じた事件は好例だ。事件を簡単に概観すれば、まずカナダの「Equustek」という企業が、自社のソフトウェア技術が盗まれ、同じ内容のものをパッケージを入れ替えただけで別の業者が違法に販売している事実を知り、この業者を訴えた。訴えられたのは「データリンクゲートウェイ」というEquustekの販売代理店で、当初は否定したものの国外に逃亡し訴訟を放棄。その後この違法行為を働いた張本人には逮捕状が出ているが、居場所がわからず海外で活動している状態だ。
そこでEquustekはグーグルにデータリンクゲートウェイの情報を検索結果から削除してほしいと依頼し、グーグルは受け入れる。しかしグーグルが削除に応じたのは「Google.ca」、つまりカナダ版のグーグルのみだった。Equustekはこれを全世界に適応するよう訴え、2017年6月にカナダ最高裁でEquustekは勝利した。
Equustekは何の罪もない被害者であり、訴えは最もだと思う読者もいるだろう。だがグーグルは7月にカリフォルニア州の裁判所に差し止め請求を行っている。検索結果の削除を全世界に適応するのはアメリカ憲法修正第1条(言論または報道の自由)に反しており、カナダ国内の判決が全世界的に影響が及ぶのはおかしい、という理由だ(事件について詳しくはこちらの記事やこちらを参照してほしい)。
グーグルもデータリンクの活動を許容しているわけではない。しかし、一度全世界に削除を適応すれば前例をつくることになり、他の判断が難しい削除要求もまた全世界に適応されかねないという問題がある。例えば日本のアニメや二次創作コンテンツは、しばしば欧米においてポルノとみなされることがある。その際、特定の国家においてコンテンツに関する検索結果が削除されたとしても、それを日本や世界中に適応すると問題が生じる。なぜなら文化や地域によって性や暴力、あるいは政治をめぐる解釈は異なる場合があり、特定の国の基準で削除が全世界に適応されてしまえば、他国では問題ないコンテンツへの検索表示もできなくなる恐れがあるからだ。
また一度全世界への適応を認めれば、ある国では検索結果を残すべしと逆に訴えられることにもなりかねない。ましてや世界全体共通の削除基準をつくることは、明らかな暴力など了解されやすいものでない限り難しいことは、上述のとおりだ。世界共通の削除基準は、逆にインターネット空間の縮小を招くことにもなるために、現状ではグーグルはなんとか個別の削除範囲に抑えようとしている(これに関してはアメリカの市民団体(EFF)などもグーグルを支持している)。
この問題は、現在とは異なる過去の情報について削除を行う「忘れられる権利」についてグーグルが直面していることでもある。忘れられる権利については本連載でも議論したが、これもまた削除範囲をどのように決定するかは困難だ。削除が全世界に適応すればビジネスにも影響が出る他、これまで以上に削除依頼が殺到し、インターネットに恣意的な操作が可能になってしまうことが予想される。とはいえグーグルこそがインターネットを恣意的に牛耳っている、という指摘も他方で存在しており、Equustekの訴えが間違っているわけでもなく、ここでは困難なバランスが要求されている。
最終的には経営的な判断からグーグルは諸国家の判断に従うことが予想されるが、特に忘れられる権利を巡ってはEUが削除範囲をEU以外の範囲に拡張することを目指しており、これもグーグルにとって深刻な問題だ。中国・ロシアがインターネットから離脱しかけているが、グーグルは逆に「世界共通」で情報が削除される恐れに直面している。
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