ミサイルが日本の上を飛ぶと日本円が買われる、というストーリーを一般の方に説明するのはやや困難なことであります。いや、もしかすれば専門家すらきちんと説明できないかもしれません。私は為替取引はやりませんが、為替が強く影響する金(ゴールド)関連相場を手掛けるため、留意してその動向を見ています。FXの方の場合はストップロスの設定があるため、短期の動きにより注目するかと思いますが、私のような立場の場合、比較的大きなトレンドで見る点で立場が違うかもしれません。
私が基本的に参考にするのはドルインデックスであります。これはドルの価値を複数の主要通貨に対して指数化したものであり、特定のペアではない点で概観するには適しています。そのドルインデックスは2014年8月頃までは80前後をさまよっていたのですが、そこから急騰し、2016年12月に103までつけます。強いドルだった時は近隣窮乏化ではないですが、資源価格が下落し、金利上昇が期待されたアメリカに資金が回帰した時期に重なります。
ところが、トランプ大統領が就任した2016年12月前後からその風向きが変わります。欧州が安定し、中国発の経済不安感もいったん収まるなどアメリカ以外の国の回復ぶりが目立ち始めます。個人的にはトランプ大統領がドル安の引き金を引いたとは言いませんが、アメリカへの資金集中のトレンドが収まったという認識をしています。
その後、ドルインデックスはドル安を意味する下落の一途をたどり、現時点で91程度の水準となっています。チャート的には数々の下値抵抗線を抜いてきているため、下値の目途が立ちにくい状況になっています。(目先は一服していますので今日は円安に振れています。)
問題は今後であります。ドル安が懸念される最大の理由の一つに債務上限引き上げ問題がうまくいかないのではないかという点であります。アメリカの予算は10月からスタートするのですがそれには予算を承認することと財源を確保するという二つのプロセスが求められます。うち、財源が確保できなければ予算もへったくれもないわけでここが毎度の通り、ネックになっています。そして、今回は例年以上に厳しいとみられています。
財源がない、つまり、債務上限引き上げが出来なければ10月半ばぐらいから徐々に資金が枯渇してきますので政府機関に機能しなくなるところが出てきます。過去、何度もこの事態に陥っていますので「またか」的な雰囲気があるのですが、格付け機関がウオッチするなど要注意状態にあります。
また、外部環境としては欧州中央銀行は先々の利上げが視野に入ってきてドル安ユーロ高を演じているほか、利上げ期待のある英国、カナダ、オーストラリアがドル安を誘う原因となっています。一方のアメリカからはこれ以上ドル高になる材料が出にくいというシーソーゲームではないかと想定しています。
円に関しては引き続き金融緩和政策をとっていますので微妙なバイアスが続きますが、景気動向次第では緩和の具合をやや引き締める可能性がないとは言えないでしょう。
仮に5%程度動いた場合、円は100円台前半まであり得ることになり、多くの輸出企業の想定為替レートより悪化してしまいます。このあたりを日銀と政府がどう対処していくのか、注目すべきところではないかと思います。
強いアメリカとは経済、軍事、政治力を含めた総合的影響力でありました。ところがこの10年、アメリカに総合的強さの維持が困難に見えるとともに欧州(ユーロ圏)の安定感と中国の台頭は為替の「座り心地」をも変える可能性があることに留意せねばいけないのかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
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- 2017年08月30日 11:16