- 2017年08月30日 09:57
【読書感想】ジブリの文学
2/2鈴木:変な言い方ですけど、宮崎駿という人は、自分のつくりたいものはつくったことがない。いつもお客さんのことを考えている。徹底していますよね。
又吉直樹:それ、すごいですね。
鈴木:たとえ自分があるものをつくりたくても、あきらめますよね。
又吉:これはお客さんが望んでいるものじゃないということですね。
鈴木:そう。「今だったらこういうものをつくるべきだ」という考え方。たとえば『トトロ』の続編をつくらなかった理由は、「2」をつくったら商売だよと。そういうときにスタッフがついて来れますかって。ここなんですよね。なるほど、そのとおりですよね。だから彼、若いときはよく言っていました。「とにかく作品をつくるときって、鈴木さん、三つだよね」と。一に、とにかくおもしろくなければダメだよ。理屈は関係ないよと。二番目に、多少は言いたいことを言おうって。三つ目、お金も儲けようって。でないと次がつくれないと。
又吉:それ、大事ですよね。
「商売になってしまう」ことを危惧しつつも、「商売として成り立つ=お金を儲ける」ことも意識していた宮崎駿監督。
この「三つ」って、「長く作品を作り続けるための必要条件十分」を簡潔に言い表しています。
人と人の縁というのは不思議なもので、もし、宮崎駿監督と高畑勲監督、そして、鈴木敏夫プロデューサーが出会わなければ、3人はそれぞれ「才能はあるのだけれど、いまひとつお客を呼ぶ力がない監督」「完璧主義すぎて、いつまでも作品を完成することができない監督」「『週刊文春』のような反骨のジャーナリズムを打ち出す雑誌の編集長」として生きたのかもしれないな、と思うのです。
すごい才能は、どんな経路でも世の中で見つけられるものなのか、それとも、やはり運とか縁が必要なのか。
三十五年前のもうひとつの話をする。宮さんと初めて映画を作ろうと思ったころの話だ。
宮さんの先輩で、それまで宮さんと『未来少年コナン』とか『カリオストロの城』でコンビを組んできた大塚康生さんに、助言を求めたことがあった。
「宮さんと仕事で付き合う上で、大事なことを教えてください」
大塚さんは、事もなげにこう答えてくれた。
「大人だと思えば腹が立つ。子どもだと思えば腹も立たない」
宮さんのやっていること、やってきたことは子どものそれに近い。それを念頭に置きながら仕事をする。そうすれば、素晴らしい作品ができる。大塚さんはそう言いたかったのだろう。
ぼくは、それを信じて三十五年間、彼と組んで仕事をやってきた。
最近、こんな話があった。ぼくのアシスタントの白木伸子さんから聞いた話だ。彼女が宮さんに言った。
「鈴木さんは、かわいそうです。宮崎さんと高畑(勲)さんという、お兄さんふたりがとんでもない人たちだから」
すると、宮さんがこう話したそうだ。
「白木さん、鈴木さんは弟じゃない。ぼくらのお父さんなんだよ」
お互いに好き勝手言っているようで、ちゃんとそれぞれの弱点をサポートしあっている「家族」なんですよね。
鈴木敏夫さんの『ジブリの仲間たち』という著者のなかで、東宝の宣伝プロデューサー・市川南さんが、こんなふうに語っています。
鈴木さんが人を怒る話は有名で、いろんな人が大声で怒られているのを見て、「大変だなあ……」と思っていたんです。もちろん僕も担当になってすぐ怒られました。ただ、電話越しだったのが不幸中の幸いでした。受話器を耳から離しても鼓膜に響くぐらい、すさまじいボリュームでしたけどね。
僕としては、他の人たちが鈴木さんにこっぴどく怒られながら、そのあとも仕事を続けているのが不思議だったんですけど、自分が怒られてみて分かりました。鈴木さんに怒鳴られると、滝に打たれたように、ちょっと清々しい気持ちになるんです。
鈴木さんの「お父さん」って、「神々しい」レベルみたいです。
こういう人って、なかなかいないですよね。

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