記事

【読書感想】ジブリの文学

1/2

ジブリの文学

ジブリの文学

内容(「BOOK」データベースより)

自らを「編集者型プロデューサー」と呼ぶ著者は、時代の空気をつかむために、どんな本を読み、いかなる文章術を磨いてきたのか?朝井リョウ・池澤夏樹・中村文則・又吉直樹といった、現代を代表する作家たちを迎え、何を語るのか?歴史的大ヒットを支えた“教養”と“言葉の力”、そして“ジブリの現在”がこの一冊に。『ジブリの哲学―変わるものと変わらないもの』から五年半、続編となるドキュメントエッセイ集。

 『スタジオジブリ』のプロデューサー、鈴木敏夫さんが、この5年間くらいにさまざまなところで書いたり話したりしたものをまとめた本です。

 この本を読んでいて驚いたのは、鈴木さんって、こんなに絵が上手かったんだ!ということでした。

 作家・朝井リョウさんとの対談より。

鈴木敏夫:ぼくは今<自分>を表現する人たちの傍らで仕事をしていますが、このほうがラクなんですよね。

朝井リョウ:ご自身は自己表現をしないでいることがラクなんですか。

鈴木:ぼくは昔の価値観で生きているのかもしれません。編集者だった頃も、人の文章を手直しするときにその人になりきって書いて、本人に「こういうことが書きたかった」と感謝されることがありました。実は、宮さんが描くトトロの真似は、ほかの絵描きと比べてもぼくがいちばん巧いんです。

朝井:ほかのアニメーターの方が描くとその人のクセが出るけれど、鈴木さんは宮崎監督になりきっているということですか。

鈴木:そう。絵描きがトトロを描くときには<自分>が邪魔になるんですよ。ぼくは<自分>を出さないことが目的化しているからね。芸術家より職人に憧れるからなのかな。

朝井:<自分>を消してほかの人になりきる職人ですね、もはや。

 映画のロゴのデザインを宮崎駿監督に「ちょっとやっておいて」という感じで頼まれて、ササッと描いて、それが採用された、なんて話もけっこうあるみたいです。

「絵描き」のなかでも、腕自慢が集まっているであろう、ジブリのなかで「宮崎監督のトトロの真似がいちばん上手い」って、すごいですよね。

 僕は鈴木敏夫さんって、クリエイターではなくて、クリエイターを動かす実務のプロフェッショナルだとばかり思い込んでいたのです。

 自分がこんなに上手いのなら、宮崎駿監督の作品にもあれこれ言いたくなるのが人情ではないか、という気がするのですが、鈴木さんは、自分自身が描ける人だからこそ、「天才・宮崎駿との差」を痛感し、宮崎駿の作品を「世に広める」ことに尽くしているように思われます。

 そういう実務的な才能とクリエイティブな才能が同居している鈴木さんという人は、稀有な存在だよなあ。

 宮崎駿監督がつくるストーリーやタイトルの案は、ときには、観念的というか、イデオロギーを打ち出し過ぎてしまうことがあって、そういうときに「観客が受け入れやすいように」調整するのも鈴木さんの役割だったのです。

 宮さんがいつなぜ、悲観論者になったのかについては、ぼくはよく知らない。ただ、彼のそういうモノの見方への共感がぼくにも少なからずあった。心の中の深い闇、それが宮崎駿という作家の創造の原点なのだとぼくは理解し始めていた。

 ぼくは、この(堀田善衛さんの)『方丈記私記』を読みながら、ぼく自身のその後の人生の立ち位置を決めることになる。宮崎駿流誤読を理解しつつ、同時に本の内容を正確に把握する。それが、ぼくの仕事の上での役割だと考えたのだ。でないと、彼の考えることが世間につながらない。ぼくは、本気でそう思った。

 『となりのトトロ』を作っているときの話だ。宮さんは、映画に登場するあの風景がその後、どうなったかをラストに付け加えようとした。川は高速道路に、田園にはビルが立ち並び、様相は一変する。宮さんの描いたイメージボードを見せられた時、ぼくは身を挺して反対した。それをやれば、それまで心地よく映画を見ていた人たちを裏切ることになる、と。

 宮崎駿監督は、本質的には、「そういうことを描きたい人」なんですよね。

 でも、そのメッセージは、多くの観客にとっては「後味の悪さ」を残すことになってしまう。

 それは「商業主義」と批判されるべきことなのか、なんのかんの言っても、まずは多くの人に気持ち良く観てもらうことが大事、と考えるのか。

 宮崎駿監督と鈴木敏夫プロデューサーというのは、まさに絶妙な組み合わせだと思います。

 もし宮崎監督と組んでいなかったら、鈴木さんのほうが、こういう「メッセージ性の強い描写」を入れてしまいそうな気もするのですが、他者がつくったものだけに、客観的にみられるところもあるのかもしれません。

 その一方で、鈴木さんは、又吉直樹さんとの対談のなかで、宮崎駿監督のこんな話を紹介しています。

あわせて読みたい

「スタジオジブリ」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    屠畜作業への理不尽な差別の実情

    岸慶太

  2. 2

    廃棄が9割 ジビエブームの裏側

    BLOGOS編集部

  3. 3

    無銭飲食? 領収書もたぬ安倍首相

    郷原信郎

  4. 4

    桜を見る会で国民は退陣を望むか

    橋下徹

  5. 5

    新エンジン投入へ マツダの知恵

    片山 修

  6. 6

    立民議員 ホテル側の説明に期待

    大串博志

  7. 7

    自宅ビール用 究極の節約つまみ

    中川 淳一郎

  8. 8

    前夜祭の会費5000円は妥当な額

    木走正水(きばしりまさみず)

  9. 9

    京急に「たぴおおおか駅」が爆誕

    BLOGOS しらべる部

  10. 10

    なぜ維新は自衛隊賃上げに反対か

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。