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「白人至上主義」と日本人 - 坂場三男

 今、米国が「白人至上主義」(白人優越思想)をめぐる人種対立で揺れに揺れている。同じ白人の間における賛否両論の激突も頻発している。トランプ大統領の誕生がもたらした米国社会の亀裂は深い。米国に長期在住する私の友人(日本人)からも現状を懸念するメールが頻繁に届くようになった。かつて、黒人差別の問題をめぐって公民権運動が米国社会を揺るがしたが、今の状況は「人種差別は不道徳」という建て前のブレーキが利かなくなっている点で当時より深刻であるように見える。パンドラの箱が開き、本音がぶつかり合っている。

  先日、この問題を特集した某民放テレビの番組を見ていて気になったことがある。複数のコメンテーター氏が米国内の人種差別を非難し、トランプ大統領の責任を厳しく追及していた。私もこれらの主張に異論はないのだが、「気になった」のは日本国内の状況に引き戻して考える視点が全く欠落しているように見えたことである。

 耳障りの良い人道主義を振りかざして他者を批判・非難するのは容易である。特に、自己を逆非難のリスクのない「安全圏」に置いて、他者だけを論じるのは居心地が良いかも知れない。しかし、米国の人種状況は日本とは全く異なっており、「もし、日本が米国と同じように大規模に移民が流入する国家になったら日本人はどう反応するか」という視点を持たないと説得力のある議論はできない。所詮、他人事の井戸端談議になってしまう。

 近年だけでも米国は毎年何十万人という難民・移民を受け入れている。私がかつて在勤した米国中西部の中核都市であるシカゴ(人口270万人)は黒人の居住比率が高く、街の南西部一帯は巨大な黒人居住区になっていた。日本人(日系人)を含むアジア人の流入も多い。米国は確かに「移民国家」だが、毎年のように言語や肌の色、そして文化・宗教・生活習慣も異なる人々を多数受け入れている社会的寛容さは驚くばかりである。

 翻って、わが日本はどうかと言えば、外国人の在住者比率は2%以下で、難民・移民の受け入れは極めて少数である。近年は、技能実習生や留学生の数が増え、一部の市町村では住民トラブルが発生していると聞く。著増する外国人観光客との摩擦も顕在化し始めた。韓国・朝鮮人が多く住む街区でヘイト・スピーチが問題になったことも記憶に新しい。そもそも外国人労働者の受け入れ問題をめぐる議論でも消極論が依然大勢なのではないか。島国である日本は、単一民族国家に限りなく近く、異国人への寛容さという点では米国のそれとは比較にならない。

 私はヨーロッパにも長く在住したが、地元の人々から「人種差別的心情」を感じることは少なくなかった。今は、「イスラム国」をめぐる騒擾に起因してイスラム教徒に対する嫌悪感・忌避感情が高まっている。ただ、彼らは、(かつて多くの発展途上国を植民地支配したという歴史やユダヤ人排斥の過去もあり)難民・移民の流入に寛大であろうとする「建て前としての政治理念」を持っており、個々の国民も「人道主義という錦の御旗」の前に必死で本音を抑えているように見える。

 今のところ、ドイツがそうであり、フランスもそうだが、他方、英国ではEU離脱に関連して移民や外国人労働者の受け入れに対する不満が表出しており、他の西欧諸国でも「臨界点」に近付いているのではないか。

 人間には生活防衛本能があり、異分子の闖入を排除しようとする。文化・宗教・生活習慣が大きく異なる外国人は異分子であり、彼らを進んで、あるいは寛容の心をもって受け入れ続けることは基本的に難しい。

 日本人は奈良時代初期までは中国や韓国からの渡来人を多く受け入れた歴史があるが、これは国家意識や国境が曖昧だった時代の話であり、しかも先方の方が文化レベルが高かった(先進文化導入のために積極的に歓迎した?)という特殊事情がある。戦前の日本にも自国領土の一部となった朝鮮半島や台湾から多くの人々が移り住んできたという時期があるが、これらはすべて例外的な事情によるものであり、客観的に観察する限り、日本人は基本的に異文化・異国人に対して閉鎖的な民族であるように思われる。

 以上のことを念頭において米国の「白人至上主義」の問題を見ると、異国人に対して日本人よりはるかに寛容な米国人が人種問題で揺れている現状は民放コメンテーター氏の薄っぺらな人道主義では解決の得られない深刻さを内包しているように見える。

 人間の本性(本音)は変えられない以上、「人種差別は不道徳」という建て前だけでは解決は得られない。安い労働力を獲得したいという企業の論理に政府が迎合して移民・外国人労働者を野放図に受け入れれば人種摩擦はいずれ発生する。彼らが引き起こす犯罪も治安への懸念の一因となる。

 日本のように異国人拒絶への「臨界点」が相対的に低い国においては彼らとの共生や異文化受容への国民的拒否アレルギー(?)を教育や啓蒙によって徐々に低下させつつ、「秩序ある受け入れ」を図るしかない。雇用・労働や医療保険・社会保障の問題、そして外国人犯罪に対する対策も欠かせないだろう。これらの視点を全く抜きにして「白人至上主義」を一方的に断罪するのでは問題の深刻さを理解する手助けにすらならない。

坂場三男(さかばみつお)略歴
 1949(昭和24)年、茨城県生れ。1973年横浜市立大学文理学部文科卒業。同年外務省入省。フランス、ベルギー、インド、エジプト、米国(シカゴ)等に勤務。外務本省において総括審議官、中南米局長、外務報道官を務める。2008年、ベトナム国駐箚特命全権大使、2010年、イラク復興支援等調整担当特命全権大使(外務本省)、2012年、ベルギー国駐箚特命全権大使・NATO日本政府代表を歴任。2014年9月、外務省退官。2015-17年、横浜市立大学特別契約教授。現在、JFSS顧問、MS国際コンサルティング事務所代表として民間企業・研究機関等の国際活動を支援。また、複数の東証一部上場企業の社外取締役・顧問を務める。2017年1月、法務省公安審査委員会委員に就任。著書に『大使が見た世界一親日な国 ベトナムの素顔』(宝島社)等がある。

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