- 2017年08月21日 21:03
赤く塗り替えられる太平洋の島・パラオ - 児玉 博 (ジャーナリスト)
2/2日本の存在感は薄まるばかり
2015年、戦没者慰霊のためパラオ、ペリリュー島を訪問した天皇陛下らをパラオ国民は熱烈に迎えた。このようにパラオ国民の日本に対する親近感は今も根強い。世界一とも言われるほどの親日ぶりだ。
けれども、最も開発が進み、人口の大半を抱えるコロール島を回ってみても進出している日本企業は恐るべき少なさ。また観光客も減り続けている。日本の存在感は薄まるばかりだ。
資源、環境、観光を束ねる大臣、ウミー・センゲバウによれば、日本企業にも接触し、ホテルの進出や、インフラを含めた総合開発を提案しているが反応は良くないという。
そして、彼が危惧していたのは、パラオ開発がコロール島だけに偏り、パラオ最大の島である「バベルダオブ島」にはほとんど手がつけられていない点であり、また、言外に中国資本の積極的な動きを示唆していた。現に同島のリゾート開発目的で上海の開発業者が、同大臣を訪ねている。今年2月のことだ。
ミクロネシア諸島の中ではグアム島に次ぐ面積を持つ同島だが、熱帯雨林気候そのままの原生林に覆われている。南端にはとってつけたように「ロマン・トメトゥチェル国際空港」がある。しかし、空港があるだけでほとんどの観光客は、その空港から橋を渡り、コロール島に行ってしまう。
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台湾政府の支援で建てられた国会議事堂(HIROSHI KODAMA)
パラオの国土の70%を占めるこの島を一周するコンパクト・ロードと呼ばれる舗装道路が07年に完成する。原生林のあちこちに日本統治下でタロイモの栽培、稲の栽培を試みた跡地が点在する。と、突然、ローマ神殿を思わせるような建物が唐突に現れる。台湾政府の援助で建設されたパラオ共和国「国会議事堂」だ。
人気のない議事堂だけが、原生林の中に佇む風景は南国には似つかわしくない寂寥感が漂う。議事堂正面には、06年当時、台湾総統だった馬英九の名前を刻んだモニュメントが建てられている。この国会議事堂建設を機に首都がこの「マルキョク」に移される。首都移転前まで人口400人だった、同地区、この島全体の活性化を狙った移転ではあったが、人口はほとんど変わっていない。
しかし、この2年ほどある変化がこの島には起きていた。中国本土からの投資話だ。取材のために訪れた時(今年の4月半ば)も、コロールの港には大型クルーザーが停泊していた。その船籍を調べると中国、上海からやって来たものだった。
中国本土、上海や北京から自家用ジェットに乗り込んだ投資家たちが、パラオにも足を運ぶようになってきた。今年に入ってからも、自家用ジェットを駆ってパラオにやって来た中国人投資家は片手では収まらない。
12年の中国〝スパイ〟船の記憶も生々しく、中国本土からやって来る観光客を喜びながらも、まだどこか懐疑的な視線を送っている。しかしながら、その中国人が落としていく外貨が観光立国を目指すパラオの有力な財源になっていることは間違いない。
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台湾資本のリゾートホテル(右)。街を歩く中国人観光客の姿も日常的な光景になっている
(HIROSHI KODAMA)
先の観光大臣ではないが、彼らの本音としては、日本企業の進出、日本人の観光客が戻ってきてほしいというのが本当のところだ。だが、日本側の動きは鈍い。日本の大手航空会社幹部によれば、安倍晋三首相からもパラオ便の復活(全日空、日航ともにチャーター便は夏期のみ)を要請されもしているが、実現にはまだ時間がかかりそうだ。
3年に1度、パラオ、パプアニューギニアなど南太平洋の島々、それにニュージーランド、オーストラリアを交え「太平洋・島サミット」が行われる。排他的経済水域(EEZ)にもならないが、冒頭記したように日本にとり、安全保障からも無視できぬ存在なのである。
パラオ滞在中、自然発火の火災が発生した。黒々とした煙がパラオの空を覆った。ゴミ捨て場となっている場所からの自然発火だったようだ。分別もされることなくただ捨てられたゴミの山。もちろん、フィリピンの悪名高きスモーキーマウンテンには遠く及ばないが、こうしたゴミ処理だけでなく、汚水を垂れ流している下水処理、電力、水道水の供給などインフラ整備はパラオの急務。日本企業が採算性から二の足を踏む中、中国資本の動きが見え隠れし始めている。
パナマはまさにインフラ整備への巨額投資が誘い水となり〝赤い中国〟へと寝返った。パラオがそうはならないと誰が保証できるのか。誰もできはしない。
パラオ同様に第二列島線に位置するサイパンが今は中国資本の島となり、中国資本によるカジノが中国本土からの客で賑わっていることを知っているだろうか。たしかに、軍事的な施設ができているわけではないし、戦艦が寄港しているわけでもない。しかし、まずカネを落とし、そして人を送り込み、そこを〝赤く〟塗りつぶしていくのが中国のやり方。
パラオにも〝チャイナマネー〟により潤っているサイパンの情報は流れている。パラオ政府関係者もサイパンに何度も足を運んでいる。「パラオがサイパンのようにならないという保証はない」(パラオ政府高官)。なぜなら、潜在的にあるチャイナマネー待望の声を無視はできないからだ。
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