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日米繊維交渉“善処します”誤訳伝説 その2

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つまり首脳会談では、ニクソンが繊維問題を取り上げ、佐藤が

①日米2国間でジュネーブで本格的な交渉を始め、具体的な協定として煮詰める必要がある。合意達成の期限は今年末までとする

包括的な規制の考えを実現したい。その内容の協定を、責任を持って作成する

③この2国間協定は「極秘」とする

④これは2国間だけで終わらず、関税貿易一般協定(GATT : General Agreement on Tariffs and Trade:ガット 筆者注・WTO=世界貿易機関の前身)の多国間会議で決める

などと述べるシナリオだった。

11月21日に実際にこのキーワードは登場したのか。日本側の公文書によれば、佐藤首相は次のように述べた。

「沖縄問題と本件がからみ合ってくることはなんとしても避けたい。(中略)ジュネーブで行なわれている話合いに関し、外部に発表する意図はないが、12月末までに話をつけ、その上ではっきりした形で約束するそこでもし、問題があったら、大統領から直接下田武三大使(写真3)(筆者注:当時の駐米大使)を招致し、話していただきたい。申すまでもなく自分は、このことにつき十分責任を取る用意がある

画像を見る
写真3)下田武三氏 出典:最高裁判所HP

「12月までに話をつけ、その上ではっきりした形で約束する」とは、2段階にわたる手続きのようでやや分かりにくい日本語だ。重要なのは、米側に英語でどう伝わり、記録されたかである。とりわけ英語の「約束」の意味合いを持つ単語が米側の公文書ではいかに記録されているのであろう。

英語の公文書を筆者が翻訳すると、上記に相当する部分はこうなる。

「彼(筆者注・佐藤総理)は大統領に対し、沖縄に関係する“寛大な”決定および沖縄と繊維を個別に扱うことにも同意されたことに深い感謝の意を表した。正にこの理由で、彼は繊維に関して自身の深い責任を強く感じた。(中略)何よりも、大統領との合意は“完全に秘密”としメディアに発表すべきではない。12月までに、しかしながら、この問題は解決されることを彼は約束した(原文は promised )

彼は大統領に対し、いかなる問題が発生しても下田大使と自由に話し合うよう促した。彼は大使にはとるべき措置については詳細な説明を行っている。彼は大統領に対し解決策に達するために十分な責任を取ることを誓約した(同 pledged )」。

沖縄に関係する“寛大な”決定とは、沖縄返還に関してニクソンが“寛大な”決定を示したことを意味する。すなわち、佐藤は沖縄返還だけでなく、沖縄返還と繊維問題を別々に扱うことにニクソンが同意したことにも深い感謝の意を表明した。

さらに、佐藤は1つ目のキーワードである「年内」については「12月末」までと、期限を明示して、この問題が解決されることを「約束した( promised )」上で、繊維問題の解決について十分な責任を取ることを「誓約した( pledged )」のである。

この「年内」のキーワードについては、ニクソンも明確に言及しており、米側の公文書では、「大統領は言った。米国と日本が12月末までに合意することが重要だと。というのも、米国は両国間の了解を踏まえてガットにこの問題を提起したいからである」としている。

佐藤の発言から「約束promise」「誓約 pledge」の意思を受け止めたニクソンが「年内」合意を強く認識していたと考えられる。 

もう1つのキーワードの「包括的」はどうだったのであろうか。

日本側の公文書によると、会談の中で、佐藤は「これまでの交渉の過程で米側もcomprehensive (筆者注:この部分は日本語の公文書で英語表記になっている)の表現には固執しなくなってきており」などとして、「comprehensive(同) という表現の議論にもどすのは不適当と思うので、この際大統領において配慮してほしい」と述べたが、ニクソンは「comprehensive(同)という表現は一層むつかしい問題である」などとしながらも、「総理が selective(同)ではなく、 comprehensive(同)な agreement(同)に到達するように協力していただければありがたい」と指摘した。

この部分は米側の公文書では、「大統領は “comprehensive” の言葉の問題は一段と難しくなっていると述べた。(中略)彼は有り難く思うだろう。もし、むしろ、彼に米国内での深刻な問題を突き付ける“selective”な合意ではなく、総理が可能な限り協力し、可能な限り “comprehensive”な合意をまとめ上げてくれれば」と記録されている。

日本側の記録と発言の趣旨がほぼ一致するが、ニクソンが “selective” な合意だと、自身に深刻な問題が提起されることになると指摘している点に注目すべきである。つまり、キッシンジャーと若泉との間でつくられたシナリオとは異なり、佐藤がcomprehensive な合意は不適当であるとして大統領に配慮を求めたところ、ニクソンはcomprehensive な合意への譲歩を促したと考えられる。

(その3に続く。その1はこちら。全4回。毎週土曜日掲載予定)

※本稿は、日本メディア英語学会東日本地区研究例会(2016年6月11日)の研究発表、同年末に日本通訳翻訳学会の学会誌「通訳翻訳研究への招待」に寄稿した論文を基に執筆した。日本メディア学会と日本通訳翻訳学会には感謝申し上げる。今回の執筆の際、論文を編集し大幅に加筆するとともに、論文中のすべての引用英文を翻訳した。

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