- 2017年08月18日 09:15
持病を抑えるために痴漢した高校生の末路
2/2■優越感――痴漢がそれを求めてしまう社会的背景
自暴自棄になったときに、自分より弱い存在を支配したり、押さえつけたりすることで自分を取り戻す――悲しいことですが、この社会にはそういう者たちが確実にいます。それを行動化したのがたとえばDV加害であり、痴漢行為なのです。
似たものでは、いじめがあります。いじめは日本社会に蔓延する深刻な問題で、子どもたちだけでなく、大人のあいだでも見られます。他人を攻撃したり無視したり、不当な要求をしたりすることで相手を脅かし、支配し、それによって自分を優位に立たせます。
痴漢も、女性がいやがることをして、追い詰め、傷つけ、征服し、その結果として優越感を得る行為です。会社や家庭で不当に扱われていると感じている者にとって、それは計り知れない刺激となります。非日常的な興奮に、気分は大いに高揚するでしょう。何かをやり遂げたという達成感を覚える者もいます。そうして全能感に包まれれば、ストレスフルな日常なんてちっぽけなものとして消し飛んでしまいます。
画像を見る結果、これが彼らにとってストレスへの対処法(コーピング)になるのです。こんなに大きなものをもたらしてくれるのですから、彼らにとってこの痴漢行為は手放しがたいものとなります。それどころかもっと大きな刺激を求めてエスカレートしていきます。
痴漢には、自尊心が低いタイプが多くいます。そういう者ほど人との関係で優位性を獲得することができれば、求めていた“心の安定”を得られやすいのです。これこそが、痴漢が求めているもの。痴漢行為の本質は支配欲にあり、それを満たせると感じているからこそ、彼らはこの行為に溺れます。
強姦、強制わいせつ、盗撮、下着窃盗……これはすべての性暴力に通じます。そこに性欲の発動があったとしても、根底には必ず支配欲があります。表面的には性欲に突き動かされているように見えるケースもありますが、性欲を発散したいだけなら方法はいくらでもあります。それなのに性暴力を介してそれを遂げようとするのは、ベースに相手を自分の思いどおりにしたいという、支配欲があるがゆえです。
「男性の支配欲がすべての性犯罪の基盤になっている」――そういい換えてもいいでしょう。
内面の問題が“性”のシーンで表出しやすい。これは、男性の特徴です。男性が性を使うことで女性を支配する――性犯罪の事例を多く見てきた結果、私は、これは性犯罪者にかぎらずすべての男性にとって普遍的な思考だと感じるに至りました。
■すべての男性には”加害者性”が潜んでいる?
私は、すべての男性はそのパーソナリティに“加害者性”が潜在していると考えています。それは社会によって植え付けられたものです。ここ日本では21世紀になっても男尊女卑の考え方が根強く残っていて、私たちは物心ついたときから家庭において、学校において直接的、間接的にその社会通念を刷り込まれます。
日々の生活のなかで前提として存在してしまっている社会通念について、人はわざわざ疑おうとはしません。男女平等を目指しながらも、それが建前でしかないことが明らかにわかるシーンは、経験している人も多いでしょう。日本社会が物質的だけでなく精神的にも成熟していくために、正面から向き合っていかないといけない課題です。
男性は女性より上に立つ存在である。ふだんは意識していなくても、自分が弱っているときにその考えに強く傾いてしまう男性がいます。心のうちにストレスや劣等感、孤独感を抱え、揺らいでしまった自身の優位性を確認するかのように、弱い者にその矛先を向けます。「自分より弱い者=女性や子ども」というのは、多くの男性が共通して持っている認識です。
けれど、ほとんどの男性はそちらには傾きません。私のなかにも加害者性はあります。親の世代から、さらにその前の世代から……脈々と受け継がれてきた男尊女卑の価値観を知らないうちに受け継いでいます。しかし、そこにとどまらないでいることもできます。
自分自身が経験してきた社会との関わり、人との関わりによって変容し、「男性と女性は対等である」「女性を下位の存在として、支配してはいけない」という新たな価値観を自分の力で獲得していくのです。きわめて当たり前のことではありますが、特に男性がこうして学び直していかないと現代社会の秩序は守られません。
画像を見る男性が“性”を使って女性を支配、コントロールするのも古くから社会のなかで行われてきたことです。日本以外でも、男女間のジェンダー差が大きい国ほど性犯罪が多いことがわかっています。男性全体で改めていかなければいけないこの根深き、そして悪しき慣習を、痴漢は無意識のうちに利用しているのです。それも自身の心の安定という身勝手な理由のために。
痴漢は、男性優位社会の産物です。常に人との関係で優位性を保てていないと不安定になるパーソナリティの持ち主がいるということを抜きにして、性犯罪を考えることはできません。
■ストレスへの対処が下手だから生きづらい
プログラムの受講者や裁判に出廷する前の加害者らと面談をしていると、痴漢と生きづらさは決して無縁ではないことがわかります。生きづらさとは、けっしてその人自身に問題があるのではなく、社会や制度によって強いられることから生じる困難です。現代はほとんどの人が大なり小なりの生きづらさを感じながら生きています。生きづらさが多いほど、ストレスも募ります。
そんななかで彼らはストレス・コーピングの選択肢が少ない傾向があります。これは男性に普遍的に見られる現象であり、みずから命を断つ自殺者は男性のほうが多いことにもつながります。コミュニケーション能力が比較的高く、人との関わりのなかでストレスをこまめに発散するスキルが身についている女性と比べ、男性はストレスを溜め込みやすく他者に相談するというスキルが育っていないように感じます。
人とのつながりも希薄で、さらに孤独感が増していくという悪循環。当人らもしんどいことは理解の範疇ですが、それによって他者を攻撃し尊厳を傷つけるのは断じて許されることではありません。
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