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核抑止の態勢を再構築する日米協議に着手し、国民の命を守っていくことが必要だ - 榊原智(産経新聞 論説副委員長)

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安倍晋三首相は、内閣改造と自民党役員人事に踏み切った。新たな体制のもとで取り組むべき課題は山積しているが、その最たるものは、北朝鮮の核・弾道ミサイル戦力の脅威から国民を守り抜くことだろう。日本は、戦後最大級の国難に直面しているという自覚が求められる。

北朝鮮が、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を続けている。核・弾道ミサイル戦力を放棄させられなければ、北朝鮮は早晩、米本土への核攻撃能力を持つようになるだろう。これは日本をめぐる戦略環境が激変することを意味する。日本のあるべき防衛態勢も変わらざるを得ない。日米両政府が、日本を守るための核抑止力の在り方の再構築を図るべきときに至ったのではないか。

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その意味で、安倍首相はもちろん、安全保障を託された河野太郎外相と小野寺五典防衛相の責任は重い。首相は小野寺氏に対し、防衛計画の大綱の見直しに着手するよう指示した。日米同盟の絆を一層強化するため、日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)も近く開催される運びだ。

北朝鮮のミサイルが発射される前に、自衛隊がこれを叩く「敵基地攻撃能力」の保有決断が望まれるのはもちろんだ。日本が一国で自己完結した能力を持つには相当多額の予算と長い時間がかかる。しかし、日米同盟の下で、自衛隊が航空機や巡航ミサイルなどによる敵基地攻撃能力を一定の規模で持つことは十分実現可能だ。

日本を攻撃する意志のある敵性国家の領域内で、ミサイル発射装置などを破壊する一定の能力を自衛隊が備えれば、日米同盟の信頼性は一層増す。自衛隊が出撃する選択肢を日本が持てば、友軍として米軍も出撃する蓋然性が高まる効果を期待することもできる。

すでに米軍からは前向きな反応が示されている。米太平洋艦隊のスウィフト司令官は今年4月に来日した際、日本政府が敵基地攻撃能力の保有を決断すれば「日米の軍事関係は容易に適応できるだろう」と語った。米軍高官によるこの種の発言は、「事前に準備されていたとみて間違いない」(防衛省幹部)ものだ。

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一方で、日米間で俎上に載せなければならないのに、話題にされていない重要な課題がある。日本を守るための核抑止力態勢の再構築に関する議論である。

ICBMは、大気圏再突入時の落下速度がきわめて高速になって高温にさらされる。そうなっても核弾頭を誘導・制御できる大気圏再突入技術を北朝鮮が得たかどうかはまだ分からない。それでも、このまま放置すれば、北朝鮮は核弾頭を搭載したICBMをワシントン、ニューヨークを含む米本土へ撃ち込めるようになる。固体燃料化もいずれ達成するはずだ。北朝鮮は米国に対する「最小限核抑止力」の保持へ近づきつつある。

日本国民はあまり意識していないが、日本政府は日本の平和と安全を保つには核兵器が必要と考え、ただしそれを米国の核戦力で充てる政策をとってきた。

民主党政権も含む歴代内閣が閣議決定した「防衛計画の大綱」が、「核兵器が存在する間は、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止は不可欠」と明記してきたことからそれは分かる。これは簡単に言えば、米国がさしかける「核の傘」のことである。安倍政権が新たに定めた「国家安全保障戦略」にも、「防衛大綱」と同様の方針が明記されている。

ミサイル防衛の充実強化はもちろん必要だが、撃ち漏らしは覚悟しなければならず、万全とは言い難い。相手はさまざまな手段でミサイル防衛の網をくぐろうとする。現に、北朝鮮が通常よりも高い角度で弾道ミサイルを撃つ「ロフテッド軌道」をとってきている今、自衛隊に撃ち落とす能力はほぼない。

現代の科学技術の水準では、核には核で報復する能力、すなわち核抑止の態勢が欠かせない。

安保条約に基づく日米同盟の根幹は、米軍の核戦力による「核の傘」が日本にさしかけられていることにある。今年2月の安倍首相とトランプ米大統領の首脳会談の際に出された日米共同声明が、安保条約第5条に基づく米国の日本防衛について米軍の「核および通常戦力の双方」を用いると明記したことは記憶に新しい。

しかし、北朝鮮が「最小限核抑止力」の保有に至れば、核の傘は「破れ傘」になりかねない。

核の傘が破れ傘になった場合、北朝鮮が日本を核兵器やその他の兵器で攻撃してきたり、核攻撃の脅し(核脅迫)による無理無体な外交上の要求をしかけてきたりしても、日米安保が発動されるかは分からない。米本土の大都市の住民が核攻撃を受けるリスクを米国大統領が受け入れるかどうかの問題だからだ。日本は丸裸になる。

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