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  • LM-7
  • 2011年04月30日 22:50

原子力発電のコストは本当に安いのか?

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処理量が増えれば再処理工場の稼働率も上がり単価が下がると考えるのは妥当であるという主張など、これらの疑問に対する反論もいくつかあるが、少なくとも見積もりの精度を上げる必要があることは確かだ。見積もりを行った同小委員会は、技術的想定の置き方によっても費用見積もりの結果が大きく変動するものではなく、この費用見積もりの結果をバックエンド事業のコスト構造を理解する上での基本ケースとして考えることは適当であるとする一方、内外の動向を注視し、新たな環境変化や技術開発の成果をこの費用見積もりや事業の実施に適切に反映させていくことが重要であるとしており、見積もりは適宜見直されていくだろう。

大島教授は次のようにまとめている。
  • 推計にあたっての疑問をさしあたって度外視したとしても、バックエンド費用は莫大な額になのぼるとされている。
  • これに基づいて電気料金に含めて費用を徴収する制度が構築されてきた。
  • 再処理費用をいくら支払っているかについては、電力料金に明示されていない。これは再生可能エネルギーとは著しい違いである。
  • 消費者が現在負担している費用は、あくまで六ヶ所再処理工場での再処理に関するもののみである。全量再処理するのであれば、さらに必要になる。
  • こうした高コスト事業に、国民的合意がとれるかどうかは甚だ疑問である。
これまでにこれだけの多大なコストがかかっているのにもかかわらず、この度の東日本大震災により第4のコストが顕在化することとなった。④事故に伴う被害と被害補償費用である。

事故に伴う被害と被害補償費用



事故後発生する費用としては次が考えられる。
  1. 直接的事故対応
    • 事態収束費用
    • 廃炉費用
  2. 電力事業者の経済的損失
    • 資金調達、信用
  3. 被害対応
    • 被害補償費用
      • 財産被害など事後的に補償可能な場合…被害補償費用
      • 生命被害など事後的に補償不可能な場合…被害代償費用
    • 被害修復費用(完全修復、部分修復、大体修復)
    • 被害緩和費用
    • 取引費用
    • 行政費用
これだけの費用のうち、下線を施した廃炉費用と被害補償費用については一部手当がなされている。

廃炉費用

廃炉費用は②バックエンド費用の中に位置づけられており、1989年より解体費用が「原子力発電施設解体費」として電気料金の原価内に算入されている。さらに2000年からは解体放射性廃棄物処理処分費用が電気料金の中に組み込まれ、2007年に対象費用項目が拡大している。ただ残念なことながらとても足りそうにない。

2007年に電気事業連合会は、国内55基の原子力発電所の廃炉費用が、想定していた2兆6000億円から2兆90000億円に膨らむとの試算値を示している(朝日新聞)。1基あたり550億円の費用がさらに50〜100億程度増加するというものだ。2007年時点で、電力会社は1兆1000億円分をすでに計上済みということなので、現時点で想定額の半分程度が計上されていると考えられる。

ただし、この1基あたり600〜650億円という廃炉費用だが、中部電力は浜岡原発1号機、2号機の廃炉費用にそれぞれ約1000億円を見込んでおり(読売新聞)、初めての廃炉処理ということを差し置いても、見積もりよりも費用は増大しているようだ。

安全に稼動している浜岡原発の廃炉費用が1000億円として、原子炉建屋が爆発し、格納容器の健全性が損なわれ、放射性物質を周囲にまき散らし、作業員さえうかつに近づけない状況にある福島原発の1〜4号機の廃炉費用はどのぐらいになるだろうか?

福島第1原発1〜4号機の原子炉を製造した2大電機メーカーである東芝と日立がそれぞれ別の廃炉作業計画をすでに作成している(産経新聞)。B&WとShawグループの協力を得て計画を策定した東芝は10年半という工期を提示した。一方、GE、Exelon、Bechtelと協力して計画を立案した日立は、約30年という目安を示している。東芝は日立に対して共同で廃炉処理を行う提案を行い、日立も前向きな意向を示している模様だ(読売新聞)。このように未だ廃炉処理の期間さえ定まらない状況では、精度の高い廃炉費用の見積もりなど望むべくもないが、すでにいくつかの試算がなされている。


我が国において廃炉が完了した原発がまだ1基も存在しない中において、NHKスペシャル|原発解体 〜世界の現場は警告する〜(文字おこし1,2,3)を見ると廃炉処理は極めて難航することが予想される。いずれにしても総定額を数千億円のオーダで上回る費用がかかるのは間違いない。この廃炉費用の増額分はいずれ料金原価に上乗せされることになるだろう。

被害補償費用

原発の被害補償費用は一部手当がなされている。電力会社は原発事故の損害賠償制度を定めた原子力損害賠償法(原賠法)に基づき、毎年国に補償料を納入している。発電所の賠償措置額は1ヶ所あたり1200億円となるが、1962年の制度開始以来電力会社が国に収めた補償料は累計150億円にしかならない(毎日新聞)。率直に言って全く足りない。

この低すぎる補償料率は今回のような大規模な原発災害を想定せずに設定されていたようで、賠償措置額や補償料率など、制度の抜本的見直しが必要なのは間違いない。事業者の責任が免ぜられた損害や保険限度額を超えた場合は、国が被害者の保護のために必要な措置をとることになっており、ほぼ全額を新たに手当てする必要がある。

総被害補償額は現時点で既に1兆円を上回り、最終的には数兆円に上ると考えられる。政府は東電の賠償支払いを支援する「原発賠償機構」(仮称)の新設を検討しており、電力会社に拠出金を要請している(毎日新聞)。ある程度は各社のリストラ等の経営努力によって吸収されたとしても、相当部分は電気料金の値上げという形をとって国民の負担とならざるを得ない。実際東電は、人員削減や資産売却などで賠償の原資を増やしつつも、電気料金の値上げも検討しているようだ。

ツケは国民負担に

上記の2つの項目以外の他のすべての項目は全く新規に発生する費用であり、全く何の手当もされていない。もっとも上記2つの項目にしたところで全く足りていないのだから、大差は無いとも言える。

こうしている間にも不眠不休の対応がなされている福島原発における事態収束費用には一体いくら掛かるのだろうか? 東京電力の原子力発電事業全体による収益は1970年からの累計で3兆9953億円となるが、今回の経済的損失はそれを上回るのではないか?

総額で数兆円規模に上ると見られる④事故に伴う被害と被害補償費用に関しては、結局の所、電気料金ないしは税金という形で国民が新たに負担をせねばならない。原子力発電の費用としてみれば、④事故に伴う被害と被害補償費用に数兆円追加されるにとどまらず、①発電に直接要する費用ではより高いレベルの安全性を確保するための追加安全対策投資が必要になるだろう(北海道電力は今後2〜3年かけて200〜300億円規模の津波対策を施すことを表明している(毎日新聞))。②バックエンド費用では廃炉費用の増額が避けられないはずだ。③国家からの資金投入では、(仮に受け入れてくれる自治体があったとして)立地費用の大幅な増額が不可欠だ。

このような状況下において、果たして原子力が本当に低コストなのか、今一度問い直す必要があるだろう。ただ、恐らくこれらの費用を全て追加したとしても、少なくとも現時点ではまだ太陽光などの再生可能エネルギーよりは単価は安くなると思われる(40年運転の場合)。たとえ単価が高くても再生可能エネルギーに切り替えるのか、ある程度のリスクを許容して原子力を継続するのか、国の方針を決める時が来ている。

脚注


  • *1:実際には原発推進の是非は経済性の観点だけではなく、中長期を展望したエネルギー安定供給の確保、資源の有効利用、国際的核不拡散政策の中での我が国の位置づけ、廃棄物処理に際しての環境適合性、原子力関連技術の継承、地球温暖化対策なども含めて総合的に判断すべき事柄である。
  • *2原子力2010 [コンセンサス]は、電気事業連合会が原子力発電の必要性や安全性などの疑問に答えることを目的として発行したパンフレット。今になってみてみると、P23の「Q.原子力発電所の安全対策はどうなっているの?」P25の「Q.原子力発電所の事故の教訓はどう生かされているの?」P27の「Q.大地震や津波が起きても原子力発電所は大丈夫?」などが大変興味深い。

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