記事

「安全宣言」の勇気、迅速に謝罪する勇気

1/2

 "リスクの伝道師"ドクターKです。今月は行政組織や企業のトップが備えるべき資質としての2つの勇気:すなわち毅然と「安全宣言」をする勇気と、迅速かつ粛々とした謝罪をする勇気について解説したいと思います。まずは、豊洲新市場移転の最終局面において、市場PTが東京都への提言を発表した記事をご参照いただきたい:

◎豊洲市場 移転問題 安全宣言必要なし 市場PTが最終報告書案 /東京
 毎日新聞 2017年8月5日 地方版

 https://mainichi.jp/articles/20170805/ddl/k13/010/079000c

 築地市場の仲卸業者さんたちも、豊洲移転の条件として小池都知事から「豊洲市場の安全性がしっかり確認された」との安全宣言を求めているとのこと。豊洲市場でこれから商売をするにあたっては、小池都知事自らが豊洲市場の安全性を確約してくれないと、顧客が安心できないので困るのは当然だろう。ところが8月4日に開かれた市場PT最終会合にて、小島敏郎座長は「豊洲市場用地は法律的・科学的に安全であり、被害が生じているわけでもない。ことさら『安全宣言』というのも奇妙」として、知事の「安全宣言」というパフォーマンスではなく、今後も地下水モニタリングを続行し、継続的に安全性を検証する必要性を説いたとのことだ。

 本ブログを何度もお読みいただいている皆様にとっては、このニュースがなんとも奇異に感じられたのではないだろうか?なぜなら筆者は今回の豊洲市場移転問題に関して、一貫して小池都知事の豊洲安全宣言がMUSTであると主張していたからだ。最近刊行された「日経エコロジー9月号」の対談記事においても、「(豊洲移転問題では)今、市民に最も信頼されている小池百合子都知事が市民に丁寧に説明するしかないのではないでしょうか。今後は、豊洲の安全宣言に向けて全力を注ぐべきです。」との見解を述べたところだ:

◎論点争点『豊洲市場移転 議論の教訓 -市民不在が信頼損ねる 問われる「専門家」の役割-』
 ・神里 達博(千葉大学 国際教養学部 教授)
 ・山﨑 毅(食の安全と安心を科学する会 理事長)
 日経エコロジー2017年9月号(8月8日発行)、p46-p49

 http://business.nikkeibp.co.jp/ecos/mag/

 リスコミの最重要ポイントは、「食の安全」に関わるリスク評価結果を市民に伝える情報発信者が誰かということだ。すなわち、市民からの信頼度が高い人物からの情報発信ほど、そのリスク情報に対する市民の信用も理解度もあがるため「食の安心」が得られるのであり、豊洲新市場で扱われる生鮮食品の「食の安全」に関わるリスク評価であれば、中央卸売市場のリスク管理責任者である東京都のトップ=小池都知事が多くの都民の信頼を得ている現状では、リスコミ発信者として最適任という考え方だ。

 何度か本ブログでもとりあげた向殿政男先生(明治大学名誉教授)が提唱された方程式:「安心=安全X信頼」に基づいて、土壌汚染対策専門家会議の平田座長が明言されたとおり豊洲市場の「食の安全」(いわゆる「地上の安全」)は確保されているのだから、このリスク情報を都民に最も信頼されている小池都知事から発信していただくことが都民の「食の安心」につながり、豊洲への不安を払拭できるはずというのが筆者のこれまでの見解だ:

◎『安心のための必要条件:「安全」と「信頼」』[2017年4月10日月曜日]
 http://www.nposfss.com/blog/safe_trust.html

◎『安全>安心記念日』[2017年6月15日木曜日]
~豊洲新市場:「地下の安心」より「地上の安全」を優先すると決断した日~

 http://www.nposfss.com/blog/anzen%3Eansin_kinenbi.html

 ただ、行政や企業のトップが自分の部下たちが行っているリスクガバナンスや第三者委員会の専門家たちのリスク評価結果をもって「安全宣言」をしても本当に大丈夫なのか、と疑問に思う方もおられるだろう。すなわち、福島原発事故のように「安全神話」をずっと語っていたにもかかわらず、結局自然災害など想定外の大きな事故が起こったときには責任を問われたじゃないか、と。「絶対安全」はありえないのだから不用意な「安全宣言」はすべきではない、と考える行政の長や企業経営者もおられるかもしれない。

 もしそう考える行政や企業のトップがおられたとしたら、おそらくその組織のリスクガバナンスには欠陥があるということだろう。すなわち自分の部下たち(行政なら事務方)のリスク管理/リスク評価に自信がないから、市民や消費者に対して「安全」が謳えないということだ。豊洲市場に関して「安全宣言」をしたら、豊洲市場において食に関わる事故が一切起こらない(すなわち「ゼロリスク」)という意味では決してない。「安全」とはリスクが社会的に許容範囲内という意味であり、当該施設のリスクガバナンスが十分働いて、施設由来の食中毒事故/健康被害の可能性を限りなくゼロに近づけることができたと評価したことをいうものだ。専門家会議が毅然とした姿勢で「地上は安全」と最終評価を下したということは「絶対安全=ゼロリスク」ということではなく、あくまでリスクが許容範囲内なので「安全宣言」をしてもよいという意味なのだ。

 世の中のエクセレントカンパニーはリスクガバナンスがしっかりしているので、そのトップは毅然とした姿勢で「安全宣言」をしている:

◎トヨタ 安全への取り組み
 http://toyota.jp/safety/philosophy/?padid=ag461_safety_safety_philosophy_bt

 ここに語られている「安全に対する基本的な考え方(PHILOSOPHY)」に、「トヨタの究極の願いは「交通事故死傷者ゼロ」にあります。」とあるが、「交通事故死傷者ゼロ」=死亡リスクゼロということは現実にはありえない。たとえトヨタの自動車に安全技術の粋を尽くして開発したとしても、死亡事故は起こりうる。それでもトヨタが安全を謳うことができるのは、社会が許容する自動車の安全性までリスク低減化の取り組みができているとの自信と自社スタッフへの信頼に基づくものであろう。

 しかも、トヨタは「交通事故死傷者ゼロ」の実現のための取り組みにおいて、安全なクルマの開発はもちろん、ドライバーや歩行者という「人」に対する啓発活動、信号設置や道路整備など「交通環境」整備への働きかけも行っている(人・クルマ・交通環境の「三位一体の取り組み」)。すなわち、トヨタは自社商品だけでなく、モビリティ社会全体におけるリスクガバナンス(リスク評価/リスク管理/リスクコミュニケーション)に貢献するんだという「安全第一」への姿勢を宣言しているわけだ。この「安全宣言」の基本姿勢に、不断の広告宣伝・広報・CSR活動によるトヨタブランドへの「信頼」が乗じられることで、消費者の「安心」が醸成され、トヨタ自動車の購買意欲を大いに刺激することになるのであろう。

 これに対して、「安全」への系統立てた取り組み=リスクガバナンスや「信頼」を育てるCSR活動が中途半端な企業では、経営トップも「安心の〇〇〇」などと顧客に対して安全とは関係のない「安心」を押し売りするような広告宣伝を連呼する傾向にあるので要注意だ。「安心」は、あくまで行政や企業から提供されるモノ・サービス・情報などに対して、市民の心の中に主観的に芽生える結果であって、広告などで「安心」を暗示して売るのはいただけない。

あわせて読みたい

「築地市場移転問題」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    富田林署員エロサイト閲覧に衝撃

    赤木智弘

  2. 2

    親世代と大違い 名門私立の凋落

    PRESIDENT Online

  3. 3

    沖縄の民意無視 土砂投入に怒り

    五十嵐仁

  4. 4

    絶望的にスマホ無知 日本の現状

    キャリコネニュース

  5. 5

    パリ暴動 マクロン氏の冷酷措置

    田中龍作

  6. 6

    富裕層の贈り物はなぜ気が利くか

    内藤忍

  7. 7

    HUAWEI排除「通信は安全」幻想に

    S-MAX

  8. 8

    消費税 クレカ還元は金持ち優遇

    舛添要一

  9. 9

    賃金上昇せず 増税で景気後退か

    MONEY VOICE

  10. 10

    前原氏 バラバラ野党の現状謝罪

    国民民主党

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。