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苦しくてもやめない 月給5万の野球選手

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■ノーアポで監督に入団を直訴

アメリカやカナダの独立リーグのほか、オーストラリアのクラブリーグでプレーしたこともある。やっとの思いで契約を勝ち得ても、成績不振でクビになるのはどこの国も共通している。結果が出ないとすぐに解雇されるのが、海外野球の厳しさだ。

だからと言って、簡単には引き下がれない。所属チームがない時期は、各リーグの試合が行われている球場を回り、スタンド最前列から、また時には球場の外の職員通用口の前で選手やスタッフに話しかけ、監督につないでもらい、拙い英語で「入団テストを受けさせてくれ」と懇願する。わざわざ日本から来たことを知れば、たいてい試合前練習に交じらせてもらい、実力ぐらいは見てもらえる(たまに門前払いもあるが)。多くの場合、登録枠に空きもないし、抱えている戦力に問題がなければ契約に至ることはない。それでも、心意気を買ってくれる人もいる。キャナムリーグのトロワリビエール・イーグルスの当時の監督、ピエール・ラフォレストは「その行動にリスペクトだ」と言って、契約してくれた。チャンスは自分で作り、自分でつかみに行くものだ。

このようにしてシーズン中はなんとか海外野球にしがみつき、オフ期間中は東京都八王子市にある知り合いの乾物屋で働きながら生計を立て直し、シーズンになるとまた海外に挑戦するという生活を送っている。

航空券や、所属がない時の交通費や生活費で、大幅に赤字になる年もある。独立リーグの薄給では貯蓄も期待できない。犠牲にしてきたものも数知れない。学生時代の仲間たちは、家庭を築き、昇進やキャリアアップなど、順調に人生を歩んでいるようにみえる。

安定した道を選ぶことに最大の価値を置く日本社会において、私のような存在は、社会学者・山田昌弘の著書『希望格差社会』によれば「不良債権」だと言われ、「自分探し」などと揶揄されることもわかっている。

■海外で味わう挫折、日本で感じる焦燥

同じように、国内外で挑戦を続けようとする野球人は、ほかにも複数存在する。皆バイトで貯めたなけなしの資金で挑戦したり、自ら事業を起こしたり、スポンサーを募って資金を用意したりしている。

現実には、行く先々で力の差を痛感し、挫折を味わう。何度も入団テストで不合格を突きつけられる。わずか数試合で解雇される。所属が突然なくなり、次の行き先が不透明になる。周囲からのネガティブな声や同調圧力に悩まされる……。

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独立リーグの観戦風景(画像:著者提供)

それでも、挑戦し続けることを止めない。技術を追求し、高みを目指し続ける者。指導者となり、挑戦し続ける者。海外で活路を見出す者など、多様なストーリーがここには存在する。

かつて、NPBを経由せずにメジャーリーガーとなったマック鈴木氏は、次のように話す。

「俺みたいなのは野球しかなかったから。そこでなんとか、野球で飯食えたけども、果たして今海外を目指してる選手たちの中には、わざわざそこを通らなあかんかって言ったら、通らんでええんちゃう? っていう人のほうが多いと思う。でもね、通ったことで、普通の人じゃできない経験ができるのは確か。メジャーの景色を見ると、『やっぱいいな』って思う。またマイナーに落とされても、長いバス乗らなあかんくても、『あそこにまた戻りたい、あの景色を見たい』っていう気持ちやったから、挑戦し続けた。(海外に挑戦する)みんなのは、そういう景色じゃないと思うねん。そういう景色じゃないけども、似たようなものを追いかけてると思うねん」(筆者著書『NPB以外の選択肢』より引用)

描くビジョンはそれぞれ違う。だがその根底に、「野球が好きだ」という強い思いが共通していることだけは間違いない。続けることで道が開けることもあるし、その行動自体が人生全体を充足させてくれるかもしれない。社会的な成功や安定といった価値基準では、決して計ることはできないと思う。このような野球人たちの生き方が、社会の価値の多様性につながることを我が事として願っている。

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