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貿易収支と資本流出の関係とグローバル・インバランス −なぜ日本経済が金融危機で一番落ち込んだのか?

日本経済は世界の中で競争力を失い貧しくなっている。
その反面、お隣の中国は安い労働力を武器にして、世界中に安価な工業製品を輸出して莫大な貿易黒字を稼ぎだし、また、その成長力から世界中から資本を引き寄せている。
このままでは日本は貿易黒字もなくなり、世界からの投資もなくなるだろう。

さて、上の文章は僕が勝手に作ったのですが、これを読んでなんの違和感も感じなかった人はダメですよ。
国際経済のイロハのイもわかっていないといっていいでしょう。
元ネタはクルーグマンの名作「良い経済学、悪い経済学」画像を見るなのですが、今日はグローバル・インバランスという非常に重要な概念を勉強しましょう。

最初に結論を書くと、資本取り引きと国際貿易には必ず満たされなければいけない式があって、上の文章はそれと矛盾しているのです。

 貯蓄 - 投資 = 輸出 - 輸入

この中国の話だと、どんどん輸出するので右辺の輸出-輸入、つまり貿易収支がプラスになる一方で、外国がどんどん中国に直接投資をして工場を作ったりするので、中国は国内の貯蓄以上に投資できるというわけです。
つまり左辺はマイナスになるのです。
あれ、左辺はマイナスなのに右辺はプラスということでこの関係式が満たされていません。

この場合、実際に中国で何が起こっているかというと、莫大な貿易黒字で積み上がったお金が、国内投資だけでは使い切れずに、あまったお金がアメリカなどの貿易赤字国に投資されているだけなのです。
具体的には中国は莫大なアメリカ国債を買っていますし、アメリカの会社の株も政府ファンドなどを通して持っています。
日本も貿易黒字国なので、世界で一番大きい貿易赤字を出しているアメリカの国債をたくさん買っています。
国内で使い切れなかった貯蓄が、必然的に海外への投資に向かっているのです。
この恒等式は資本流出貿易収支に等しいといっているのです。
だから最初の文章は貿易黒字を出しながら、海外からどんどん資本が入ってくるというおかしなことになっているのです。

それではこの式をもうちょっと勉強しましょう。
一国の経済を考えます。
ここでは日本の経済を考えましょう。
国内と海外で生産されたモノやサービスが、国内で消費されたり、将来の生産のために国内へ投資されたり、政府に購入されたりして、それでも余ったモノやサービスが輸出されるというフローを考えると、

 GDP(国内総生産) + 輸入 = 国内消費 + 国内投資 + 政府支出 + 輸出

となります。
この式を次のように変形しましょう。

 GDP - 国内消費 - 政府支出 = 国内投資 + 輸出 - 輸入

ここでGDP - 国内消費 - 政府支出は国内貯蓄です。
国内貯蓄は民間の分であるGDP - 税金 - 国内消費と政府の部分である税金 - 政府支出の分に分解できることがわかるでしょう。
国内投資は、日本人と外国人の日本国内への投資総額を表します。
具体的には工場を作ったりすることです。
ところで、単に証券会社で株を買っただけでは、国内投資にならないことに注意しましょう。
なぜなら株を買っても、それと同額だけの株を売っている人がいるわけで、トータルでの投資はゼロだからです。
しかし、たとえばソニーが新たに増資する場合に、それを中国人が買えば投資になります。
新たに増資で調達されたお金は工場などの投資に変わるからです。
結局のところ投資を左辺に持ってこれば、最初の資本と貿易の恒等式、国内貯蓄 - 国内投資 = 輸出 - 輸入、になります。

以上のことを別の観点からいうと、自国での生産(GDP)以上に自国で使いたかったら輸入してくる他なく、その分のお金は何らかの方法で海外から借りてくる(投資してもらう)ことになり、逆にGDPを自国で使い切れなかったらそれは輸出になり、余ったお金は海外に貸し出される(投資される)ということになります。

貿易黒字がずっと続いていると、対外債権がどんどん積みあがっていくことになり、そういった対外債権からの金利収入や配当収入が増えていきます。
そういった収入が増えれば、外国からたくさんモノを買うので、貿易黒字もなくなっていきます。
逆に、貿易赤字の国は、対外債務がどんどん積み上がっていきます。

実はこのことと前回のサブプライム危機から始まった世界金融危機で、欧米の金融の問題とはほとんど関係がなかった日本が、なぜか一番GDPが落ち込んだことと深く関係しているのです。

金融危機以前の日本は円安による輸出バブルのような状況で、アメリカが日本からものすごくたくさんモノを買ってくれていました。
そして、そのためにアメリカはどんどん国債を外国に売っていたのです。
このように貿易収支が黒字の国と赤字の国があれば、為替相場などにより調整され、黒字も赤字もある程度是正されるのですが、かなり長期にわたって、アメリカが一方的に貿易赤字になって、日本やドイツや新興国などが貿易黒字になり、その裏で世界中がアメリカに投資していたという状況だったのです。
このグローバル・インバランスが非常に大きくなっていて持続不可能なレベルまで達していたのですが、これが金融危機をきっかけに一気に是正される方向に進みました。
結果的にアメリカへの貿易黒字でGDPが拡大していた日本の経済がいっぺんに縮みこむことになったのです。
日本のトヨタやソニーががんばってどんどん貿易黒字を出すのと、日本がアメリカ国債をどんどん買うのは、実はコインの表と裏なのです。

こういうことを考えると、輸出産業がたくさんある日本の国債や通貨が簡単には暴落しないことがわかってくるのですが、それはまた今度勉強しましょう。

世界の中で、日本がアメリカにお金を貸し続けてアメリカが日本からモノを買い続けるというインバランスがかなり大きくなっていて、それが金融危機をきっかけにはじけてしまい日本経済は急激な収縮を経験したわけですが、日本国内には別の非常に大きなインバランスを抱えています。

日本国内では、民間が政府にとんでもないお金を貸し付けているのです。
こっちのインバランスはどのようにはじけるのでしょうか?
興味がつきませんね。

参考資料
Macroeconomics, N. Gregory Mankiw画像を見る
なぜ世界は不況に陥ったのか 集中講義・金融危機と経済学、池尾和人、池田信夫画像を見る


PS: 8 Feb 2010
「貿易収支」も「経常収支」ですね RT @kazikeo: 記述の中の「政府支出」は、「財政赤字」とした方が正確。RT @kazu_fujisawa: 金融日記 貿易収支と資本流出 http://bit.ly/b3xvvO
11:13 AM Feb 7th from Brizzly
ikedanob 池田信夫

Twitterで池尾先生と池田センセーに突っ込まれた・・・

壮大なテーマにしては今いち消化不良のエントリーだったので、今度Revisitしよう。

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