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イマイチ盛り上がらない電力自由化とスマートグリッド

一部の政治家や識者が電力の自由化や、スマートグリッドの実現をうったえています。僕も基本的には自由化論者です。電力の供給に関してもうまく競争原理を導入するべきだと思っています。スマートグリッドも大変に興味深い技術ですし、確実に将来向かっていく方向だと思います。

しかし電力自由化もスマートグリッドの話題もイマイチ盛り上がっていません。とくに電力が安ければ一番得するであろう産業界がほとんど沈黙したままです。穿った見方をすれば強い政治力を持つ電力会社に気兼ねしている、ということも可能ですが、やはりイマイチ盛り上がらないなりの理由があると思われます。

結論からいうと、電力を自由化しても必ずしも電気代が安くなるとは限らないし、電気の質(電圧や周波数のズレや停電率)は少なくとも短期的には劣化するだろうからです。僕はそれでも電気代は長期的には自由化した方が安くなるとは思いますが、それほど確信が持てるわけではありません。

たとえば通信の自由化や、放送の自由化、農業の自由化などは、自由化すれば確実に国民は得しますし、損するのは一部の既得権者だけです。通信の自由化はそれなりに進み、電話代もインターネットもずいぶんと安くなりました。ところが電力の自由化というのは、イメージとしては、通信の自由化というよりも、たとえば水道の自由化、という方にはるかに近いのです。自由化したからといって劇的な効果は期待できません。

現在の送電網は、一社独占で、その一社が全てをコントロールするという前提で作られています。しかしこれが複数の発電会社が競争的に利用するならば、その設計思想を根本的に変えなければいけません。ITのアナロジーでエネルギーを考えると通常はろくなことはないのですが、この場合は、ソフトウェアのアナロジーが役に立ちます。スタンドアローンのワンユーザーを前提にしたプログラムを、複数のユーザーが同時にランダムにアクセスするようなプログラムに直さないといけないのです。効率だけ考えたら、前者が圧倒的に効率がよく信頼性が高いです。それは独裁国家の方が、民主主義の国家よりもある意味では効率がいいのと同じです。

送電網を作り直す費用がどれぐらい必要なのか、どれぐらい時間がかかるのか、そしてその費用は誰が負担するのか? こういった定量的な議論をできるだけの知識を持っている人は、ネットではほとんどみかけません。

また現在の電力会社は、法律で電力の安定供給の義務を負っています。だから夏の数日間のピーク電力を補うためだけに、余剰な発電施設を抱えています。もし自由化したら、誰がそういうコストを負担するのか、という問題があります。ひとつの解決策はスマートグリッドです。スマートメーターで、電力需要に応じてダイナミックに電気代を上げることです。夏のピーク時にだけ電気代を5倍ぐらいにすれば、需要を抑えこんで、余剰な電力施設が必要なくなるかもしれません。僕はこれは良い解決策だと思いますが、貧乏人は熱中症で死ねというのか、などという批判を政治家がどう受け止めるのでしょうか。

世界の状況を見てみると、電力自由化と電気代の間には明確な関係は見いだせません。ヨーロッパなどは国境をまたいで電気の売買が自由にでき、自由化がかなり進んでいますが、原子力が8割のフランス以外、電気代は基本的に日本より高いです。最安値の韓国は国営の一社独占です。こちらは採算を無視して、企業誘致のために電気代を非常に安くしています。アメリカは自由化されていて、なおかつ電気代が安い国です。

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出所:OECD/IEA ENERGY PRICES & TAXES 3rd Quarter 2009、2010エネルギー白書

電気代は概ね、その電源の比率で決まるようです。石炭と原発の稼働率が重要で、石炭の比率を増やすことと、原発の稼働率を上げることで、電気代は安くなります。アメリカも韓国も原発の稼働率は9割で、日本の(3・11前の)稼働率の6割を大きく上回ります。原子力のコストはプラントの建設費用が7割なので稼働率は非常に重要です。

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出所:電気事業連合会

日本は電気代はかなり高い方ですが、停電率などの電気の質は世界で最高です。日本の電力会社はそこそこうまくやっている、というのが正直な感想です。

さて、スマートグリッドですが、これも定義が非常に曖昧です。欧州では、スマートグリッドは主に風力発電所の電力をうまく利用するための電力系統のことを指し、アメリカでは不足する電源に対して需要をコントロールするための電力系統のことを主に指すようです。

ヨーロッパでは風力発電所が原因で数回大停電が起こっています。2006年にはドイツの風力発電所で発電量の予測が大幅にズレて、電力系統に過剰な電力が一気に供給され、ヨーロッパの広域が停電してしまいました。このように自然エネルギーは電力系統に組み込むのが非常に難しく、それをうまく制御するためのスマートグリッドが必要なのです。

スペインなどは風力が非常に大きいので、風力の発電量が予想外に上昇した場合に電力系統から切り離し、代替の電力を地続きのフランスから輸入して電力系統を守っています。まさに綱渡り状態なのです。僕は、財政破綻したスペインが、こういった風力発電所を廃止ていくのではないかと、興味津々と眺めています。風力ベンチャーなどはすでに死屍累々ですが

アメリカの方は、非常に自由競争を大切にしますから、やはり誰も過剰な発電設備を作ろうとしません。それで、ピーク時の需要を押さえるための、スマートグリッドの開発が進んでいます。要するに、需要が最大供給力を上回りそうになったときに、どうやって電力系統を守るか、ということです。エアコンなどを強制的に止めたり、スマートメーターを使ったりと、いろいろと考えられています。

欧米に住んでいると、停電というのはそれほどめずらしいことではありません。また電圧も不安定なため、家電製品が過電流で壊れることもちょくちょくあります。

それでも僕は、なんとか電力の自由化をしたいと思っています。やはり競争がないのは、長期的には健全な発展が期待できないからです。六本木ヒルズは、コージェネレーション・システムを導入して自家発電していますが、このような例をどんどん増やしていくのが、一番いいのではないかと思っています。

個人的には、各家庭にソーラーやコージェネレーションを取り付けるのは反対です。現代社会は、分業が基本です。小さな家庭に、パワーコンディショナーや蓄電池を取り付けるのは効率的ではありませんし、廃棄物処理の大きな問題もあります。プロに任せるのがいいのではないでしょうか。餅は餅屋です。スケールメリットがある大型施設にガスタービンなどを取り付け、送電ロスを回避し、排熱を冷暖房などに利用し、トータルのエネルギー効率を高めるのが重要だと思っています。ソーラーも管理が行き届く大型施設に限定するべきでしょう

参考資料


スマートグリッドに関しては以下の2冊が非常に参考になりました。

スマートグリッド 、横山明彦画像を見る
スマートグリッド革命―エネルギー・ウェブの時代、加藤敏春画像を見る

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