記事

"フィレオフィッシュ"はFC店の発案だった

2/2

■「本部一人勝ち」の否定

各地の「FC店」(FCチェーン加盟店)とFCチェーン展開全体に責任を持つ「FC本部」(本部)の関係は、時に「求心力」と「遠心力」にたとえられます。地域の実情を最もよく知る各店舗が、それぞれのやり方で顧客満足を高める一方(部分最適)、時には本部主導で運営方針を決めること(全体最適)も必要です。レイ・クロックはこう語っています。

画像を見る

ハリー・ソナボーンを演じたB・Jノヴァク。(C)2016 SPEEDEE DISTRIBUTION, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

「私がこの時期(引用者注:1955年頃)に下した決断の中に、その後の私のフランチャイズシステムとマクドナルドの発展に大きな影響を及ぼしたものがある。それは仕入れに関して、我々は一切口を出さないということだ。店舗が成功するためには力を尽くして手伝う。それがこちらの収益にもつながるのだから。だが、同時に相手を客のように扱うのは不可能だった」

「パートナーのように扱う一方で、商品を売り利益を追求するのは相反する行為だと私は考える。サプライヤーのようになってしまえば、自分の利益のほうが心配で、相手のビジネスの状態などは二の次になってしまうだろう。(中略)我々のシステムは、それぞれのフランチャイズオーナーが最低価格で品物を仕入れることを可能にした」(『成功はゴミ箱の中に』より)

本部が商品を卸すのではなく、仕入れは各店舗に任せたのです。FC店に委ねた結果、大ヒット商品も生まれました。あの「フィレオフィッシュ」(本書ではフィレオフィッシュサンド)は、シンシナティのFC店オーナーであるルー・グリーンが開発したものです。

新商品開発のキッカケは危機感でした。シンシナティにはカトリック信者が多く、毎週金曜日は教会が信者に「肉の摂取を禁じていた日」。当日は競合の「ビッグボーイズ・チェーン」が提供するフィッシュサンドイッチの前に営業面では惨敗続きで、魚を使ったハンバーガーのアイデアを提案したのです。最初クロックは猛反対しますが、やがて翻意します。これが世界的な大ヒット商品につながりました。現場の実情を知らない本部主導では、こうしたニーズのくみ取りもできなかったことでしょう。

■「次代を担う」人材も登用

クロックはワンマン経営者の一方、自分の限界も悟っていました。早くから「参謀役」や「次世代を担う」であろう人物を3人見抜いています。出会った順に記します。

ジューン・マルティーノ(のちにマクドナルド財務責任者となる女性。1948年に求人に応募)
ハリー・ソナボーン(のちにマクドナルドの最高財務責任者となる男性。1955年に出会った当時39歳。テイスティフリーズ社の副社長を辞してマクドナルド社での雇用を希望)
フレッド・ターナー(のちにクロックの後を継ぎ、マクドナルド社2代目社長。1956年に出会った当時は23歳。マクドナルドのフランチャイズ広告を見てFC店に応募)

特に、ハリー・ソナボーンとフレッド・ターナーは、クロックの築き上げた「ハンバーガー帝国」に欠かせない経営人材となります。やがて経営方針の違いからソナボーンはマクドナルド社を去るのですが、クロックは彼の有能さを惜しみます。自伝には「トップは孤独だ。これを最も痛烈に感じたのは、ハリー・ソナボーンが私との口論の後に、会社を去っていったときだ」と記しています。

もっともこう記せたのは、クロックの75歳の誕生パーティーに、次の"雪解け"があったからでしょう。

「なかでもジューン・マルティーノとハリー・ソナボーンに再び会えたことは至上の喜びだった。ハリーとは今後いっさい会うことはないと確信したときもあったので、彼が私の方に手を回し、『レイ、君は私のいちばんの親友だよ』と言ってくれたときはとてもうれしく、すべてのことがうまくいくように思えた」(『成功はゴミ箱の中に』より)

経営で見せる冷徹な判断の一方で、生身の人間性も隠さないレイ・クロック。彼の現場主義は米国企業の中では特異なもので、自伝タイトルの『成功はゴミ箱の中に』は、「ライバル会社のことが知りたければ、その店のゴミ箱の中をみればすべてわかる」というレイ・クロックの強烈な言葉から来ています。

----------

レイ クロック (Raymond Albert Kroc/1902-1984)
1902年米国・シカゴ郊外のオークパーク生まれ。高校中退後、ペーパーカップのセールスマン、ピアノ演奏者、マルチミキサーのセールスマンなどで働く。1954年、マクドナルド兄弟と出会い、「マクドナルド」のフランチャイズ権を獲得、全米展開に成功。1984年には世界8000店舗へと拡大した(現在「マクドナルド」は世界118の国・地域に約3万店を展開)。後年にレイ・クロック財団を設立。メジャーリーグのサンディエゴ・パドレス獲得など精力的に活動した。

----------

(経済ジャーナリスト 高井 尚之)

あわせて読みたい

「マクドナルド」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。