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「厚労省vs.文科省」利権争いで停滞する「がん治療」最前線 - 上昌広

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「保険適用」を一蹴した厚労省

 現在、重粒子線バッシングの先頭に立つのが厚労省だ。屁理屈を言って、普及を邪魔しつづけている。

 まずは、「先進医療」への承認を遅らせた。我が国では混合診療が禁止されている。例外的に認めてもらうには、厚労省の承認を受けなければならない。そのために、厚労省は先進医療制度という枠組みを設けている。2017年7月現在、104の医療行為が認定されている。

「先進医療」への承認を決めるのは先進医療会議で、もちろん厚労省が恣意的に運用している。

 1994年に始まり、安定稼働していた放医研での重粒子線治療が高度先進医療(当時、現在の「先進医療」)の承認を受けたのは、9年後の2003年だ。一方、1998年に稼働し、なかなか安定的に稼働しなかった国がんの陽子線治療は、わずか3年後の2001年に認定された。

 先進医療制度は、「将来的な保険導入のための評価を行うもの(厚労省ホームページ)」で、臨床経験を積み、この治療法の効果を実感した医師は保険適用を求める。

 2012年1月19日に厚労省で開催された先進医療専門会議で、田中良明・日本大学客員教授(放射線科)が、小児がんや骨・筋肉の腫瘍での保険適用を強く求めた。小児の脳腫瘍では全脳照射が行われるが、発達障害が不可避だ。骨や筋肉の腫瘍では、下肢が切除されることが珍しくない。重粒子線治療のメリットは明らかだ。

 ところが、厚労省は費用対効果という概念を新たに持ち出し、「費用対効果のエビデンスが示されているとは考えておりません」と一蹴した。

巧妙な「印象操作」

 重粒子線治療は、陽子線治療と異なり、1回当たりの線量を上げて、照射回数を減らすことができる。放医研では、一部の肺がんに既に1回照射を試みており、将来的には多くのがんに応用することを考えている。

 2015年度に放医研が治療したのは745件だが、原理的には何千人でも対応可能だ。そうすると1人あたりの金額を下げて、現在の何分の1かにすることができる。100万円以下になる可能性がある。「ニボルマブ(小野薬品、商品名オプジーボ)」など、最近開発された抗がん剤に要する年間の医療費の10分の1以下だ。

 医薬品と違い、医療機器は保険収載されることで、価格が大幅に下がる。初期投資が高いが、ランニングコストは低いからだ。症例数が増えれば、損益分岐点が下がる。2016年1月に保険収載された内視鏡手術ロボット「ダヴィンチ」は、収載前に200万円以上の費用がかかったのが、54万円となった。おそらく重粒子線治療でも同じ事がおこる。

 元岐阜県知事で、放医研で前立腺がんの治療を受けた梶原拓氏は、「いまのうちに保険適用し、世界に輸出すればいい」と公言する。彼は元建設官僚。初期投資の高い公共事業を取り扱う役人なら、誰でも同じように考えるはずだ。

 もちろん厚労省も、こんなことは分かっているだろう。ところが、診療報酬を検討する「中央社会保険医療協議会(中医協)」で、費用対効果の議論が始まったのは2012年だ。高額な薬剤が社会問題化したために、動かざるを得なくなった。それまで、重粒子線治療の費用対効果など、真面目に考えたことはない。

 形勢悪しと見た厚労省は、最近になって新たな戦略を考えついた。

 2016年5月に厚労省で開催された先進医療会議で、藤原康弘委員(国がん中央病院副院長)が、「各施設が前立腺がんの診療をストップすると、ランニングコストも出なくなって重粒子線や陽子線の施設が成立しないから、だらだらと何とかして引きずりたいという醜悪が見え隠れする」と批判した。

 その根拠として、「日本放射線腫瘍学会の理事長さんが、粒子線は前立腺がんには効かないと明言された」と付け加えた。

 将来性が全く異なる重粒子線治療と陽子線治療を意図的に混同させ、悪徳医師の金儲けの手段と印象づけようとしている。

「既存の放射線治療でも治療できるから、重粒子線治療は無駄」という論理だ。しかし、前立腺がんでは、重粒子線治療は12回の治療で終了するが、既存の放射線治療では28回~40回程度が必要である。この間、患者は毎日通院する必要があり、放射線治療スタッフの人手もかかる。通常よりも治療回数を減らしたい人は、自らコストを負担して重粒子線治療を選択すれば良いだけである。効かないなどと印象操作する必要はない。

 このように、「粒子線は前立腺がんには効かない」という発言は医学的に不適切で論外だが、後者のコスト関連の指摘は当たらずとも遠からずだ。藤原氏は、そこを上手く突いた。

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