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長谷部恭男教授の「法律家共同体」=「芸人」認定協会としての「抵抗の憲法学」

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 長谷部教授は、憲法が「社会契約」であることを否定する。憲法は「調整」のための慣習だ、という独特の見解を述べる。なぜそのような日本国憲法典からは読み解けないような大胆なことを、「隊長」長谷部教授だけは断言できるのか。長谷部教授こそが、至高の「法的安定性」を維持・調整する権威を排他的に担う「法律家共同体」の「隊長」だからである。

 長谷部教授は、あえて堂々と、「ここが国境です、というのは約束ごとで引いているだけで、実は自然の山とか海があるだけ」と述べる。その上で、(長谷部教授が選ぶ1960年代末から2014年までの特定の時期の)内閣法制局にしたがって「法的安定性」を保たなければならない、と主張するのである。

このような長谷部教授の姿勢への批判は、すでに多方面で存在する。
http://agora-web.jp/archives/1662348.html 

たとえば長谷部教授の著書の書評において自衛権否定論者の山口響は、「長谷部流の理解」でいえば、「『集団的自衛権は憲法上禁止』というところに線を引きつづけることには、『さしたる合理的理由がない』」ということになってしまう」と懸念した。(拙著『集団的自衛権の思想史』序章)

 「法律家共同体」の中でも、元最高裁判所判事の藤田宙靖・東北大学名誉教授のように、繰り返し長谷部教授の違憲論の脆弱さを指摘している方もいる(『自治研究』2016年2月号、同2017年6月号)。

 しかし長谷部教授は、法的安定性のために(長谷部教授が選ぶ1960年代末から2014年までの特定の時期の)内閣法制局に従わなければならない、という薄っぺらな議論にまでレベルを下げてでも、徹底的に戦い抜く覚悟を定めている。

藤田名誉教授によれば、「公私に亘って得た憲法学者・行政法学者その他法律関係者」は、藤田教授の指摘を、よく理解したという。公刊物を通じて「真っ向からの反論」をしてきたのは、長谷部教授だけだったという。そして長谷部教授が最後の砦として主張したのは、やはり「法的安定性」の至高性であったという(『自治研究』2017年6月号)。

 いったい長谷部教授は、そこまで「法的安定性」の絶対性を主張しながら、何を守ろうとしているのか。長谷部教授の場合、突然、安全保障論などを持ち出すことが多いのも、特徴である。
 
長谷部教授によれば、集団的自衛権の容認は、「自衛隊の活動範囲についての法的安定性を大きく揺るがすものであるのみならず、日本の安全保障に貢献するか否かもきわめて疑わしい」(長谷部恭男「序論」『検証 安保法案 どこが憲法違反か』1頁)。

つまり、長谷部教授は、安全保障に貢献しないから、集団的自衛権は違憲だということにしておくのが得策だ、と主張するわけである。「歯止めをかけておくことで、日本政府はいろんな場面で、いちいちコミットメントをする必要がなくなってくる・・・。憲法で自分の手を縛られていることで、逆に日本政府としては活動の自由度が広がっている」と主張する(長谷部・杉田敦『これが憲法だ!』85頁)。

 プラグマティスト(というよりもパターナリスト)としての長谷部教授の真骨頂ここにあり、と言うべき場面だが、悲しむべきは、現代の安全保障の専門家が長谷部教授の安全保障政策論に同調しないことである。国際政治学的に見れば、長谷部教授の安全保障観は、1960年代末に長谷部教授が広島を離れて東大に入学した冷戦時代の日本に特有の安全保障観でしかない。

 それでは長谷部教授は、自らの安全保障観を主張して、国際政治学者らと激論を交わすだろうか?全くしない。自らの安全保障観の正しさを一方的に主張し、だから集団的自衛権は違憲にしておくのが望ましいと示唆しながら、最後は「法律家共同体」絶対主義に話を持っていってしまうからである。

 長谷部教授の議論をよく整理して見てみると、「(長谷部教授が「隊長」を務める)法律家共同体」だけが最も望ましい安全保障政策を知っているので、「(長谷部教授が「隊長」を務める)法律家共同体」だけに憲法解釈を委ねるべきだ、という錯綜した議論になっている。

 長谷部教授によれば、「自国の安全が脅かされているとさしたる根拠もなく言い張る外国の後を飼い犬のようについて行って、とんでもない事態に巻き込まれないように、あらかじめ集団的自衛権を憲法で否定しておくというのは、合理的自己拘束として、十分にありうる選択肢である」(長谷部恭男『憲法の理性』21頁)。

 ここで注意すべきは、アメリカを信用せず、集団的自衛権は危険なので違憲だという「選択肢」を選ぼう、と主張するのは、憲法を起草したアメリカ人でも、憲法典を広範に議論した1940年代・50年代に活躍した日本人でもない、ということだ。その後に現れた世代の憲法学者たちが、そう主張し始めた。

長谷部教授は、2015年6月15日の日本記者クラブ会見で、憲法学者は安全保障政策の素人なのではないかという質問に対して、「私はオックスフォード大学の比較憲法ハンドブックの『戦争放棄』の項を執筆した。それでも素人か」、と主張したという。その場にいた、安全保障論を専門とする笹島雅彦跡見学園女子大学教授は、「驚がくした」と証言する(『国際安全保障』45巻1号)。

 「(長谷部教授が「隊長」を務める)法律家共同体」が、「(長谷部教授が選ぶ1960年代末から2014年までの特定の時期の)内閣法制局」の言説を根拠にして、「(長谷部教授が至高のものだと主張する)法的安定性」のために維持する、「集団的自衛権は違憲だ」という議論は、結局、長谷部教授の安全保障政策を実現するための方策のことでしかない。

「とんでもない事態に巻き込まれないように、あらかじめ集団的自衛権を憲法で否定しておく」という長谷部教授の配慮に従って、それを実現するための憲法解釈が肯定されるにすぎない。その論拠不明な憲法解釈を何とか確立するために、長谷部教授が君臨する「法律家共同体」なるものの絶対性が付け足されるだけである。
 
こうした背景があって、「法律の現実を形作っているのは法律家共同体のコンセンサスです。国民一般が法律の解釈をするわけにはいかないでしょう。素っ気ない言い方になりますが、国民には、法律家共同体のコンセンサスを受け入れるか受け入れないか、二者択一してもらうしかないのです」、と突き放す長谷部教授の態度が生まれる(拙著『ほんとうの憲法』「はじめに」冒頭で引用した朝日新聞記事)。

 長く平和な時代を過ごしてきた日本では、すでに社会的地位を確立した年長者たちがご都合主義的な生活保守主義を、「立憲主義」だとか、「憲法論だ」、とかいう装いで取り繕う「習慣」が広まった。憲法学者が、冷戦型の安全保障政策の永遠性を唱えるために、「法律家共同体」の絶対性を主張する根拠として「憲法」という概念を利用する、「憲法が涙する」状態が生まれてしまった。

 長谷部教授は述べる。「解釈というのは「芸」ですから、これはうまいとか下手とかはあるとは思いますが、「普通の日本語として理解したらこうだ」では、芸も何もない。」(長谷部・杉田『これが憲法だ!』73-74頁)

 法解釈集団としての「法律共同体」とは、つまり「芸人」の集団である。なるほどその「共同体」の内部で、「うまいとか下手とか」を話し合っていることもあるのだろう。

 だが問題は、長谷部教授が、「法律家共同体のコンセンサス」が絶対で、「法律家共同体」に属していない者は「芸人」としては相手にしない、と主張することである。つまり長谷部教授を頂点として存在する「法律家共同体」の一員になるのでなければ、まずもって「芸人」として認知されない。うまいとか下手とかを評価してもらうところまでいかない。「法律家共同体」という名の「芸人」を認定する協会に従うのでなければ、法解釈としては存在していないに等しいのである。

 拙著『集団的自衛権の思想史』 が読売・吉野作造賞を受賞した際、審査員の方々が、「憲法学者は篠田に反応する義務がある」、と言ってくれた。名誉なことだ。近刊『ほんとうの憲法』 をめぐっても、多くの方々が「憲法学者はさすがに完無視とかできないでしょう」と言ってくれる。大変に光栄である。中には、笹島教授のように、長谷部教授に連絡を取って、「篠田の本を読んでいないのか」、と聞いてくれた方までいらっしゃる。多大なご親切・ご厚意に、私としては深く感謝している。

 だがそれでも、長谷部教授が、私ごときに反応することはない、と私は思っている。なぜなら、第一義的に、私が「法律家共同体」に属していないからだ。

 率直に言って、私のほうでも、「私はただの非公認のエセ芸人で、法解釈論はできませんが、政治漫談のお相手くらいは務めさせていただければ十分でございます」、と言うほどの心の準備があるわけではない。「どうしても法律家共同体に入れていただきたいんです、お願いします」、と土下座して頼み込みたいわけでもない。不可能なことを目標に設定して人生を浪費するつもりはない。

 しかしそれでも、私は、今後も機会があれば、「長谷部教授の法律家共同体」の問題性を論じ続けていくだろう。

 長谷部教授に反応してもらいたいからではない。「法律家共同体」に入れてもらいたいからでもない。ただ、そうした作業が日本社会にとって必要だ、と思うから、そうするのである。

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