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長谷部恭男教授の「法律家共同体」=「芸人」認定協会としての「抵抗の憲法学」

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 今年は、海外にいるので、8月6日に広島に行くことができなかった。私は広島大学に10年以上勤めたので、広島には思い入れがある。長い間、転任の誘いも全て断って、広島に居座ったのは、単純に広島が好きだったからだ。

 ところで広島出身の憲法学者として知られるのは、2015年に衆議院で安保法制は違憲だという意見を述べて有名になった長谷部恭男教授だ。長谷部教授は、長く東京大学法学部の憲法学講座を担当していた。戦後の東大法学部憲法学第一講座は、宮沢俊義、小林直樹、芦部信喜と長野県出身者によって占められていたが、戦後生まれの長谷部教授の世代になり、出身地が移った。

 1956年生まれの長谷部教授が過ごした昭和30年代・40年代の広島の風景は、町の歴史としては、私もよく知っている。長谷部教授が小学校を卒業するまでの時期は、高度経済成長時代の真っただ中で、「平和記念都市」としての広島の復興を主導した、「原爆市長」浜井信三の時代である。

その一方、広島に押しかける反核運動家が党派的分裂と対立を繰り返し、広島大学を中心とした学生運動も激しく、町は騒がしかっただろう。長谷部少年が東京大学に入学して広島を離れた1975年は、「原爆スラム」の解消という復興政策の最終段階が成就していた一方で、ヤクザの広島抗争を描いた「仁義なき戦い」が全国的に大ヒットし、「お荷物球団」広島カープが初優勝した時期である。

 長谷部教授は、私的領域における価値の多元性を守ることが立憲主義だ、という立場で知られる。さらに踏み込んで、憲法に理想などはない、あるのは「調整問題の解決」だけだ、といった冷めた発言でも知られる。おそらく長谷部教授の思想は、広島で生まれ育ったことと無関係ではない。

ただし、長谷部教授の態度は、広島で暮らし、広島を信じる人の態度とは、違う。長谷部教授は、ヒロシマ的な平和主義の人ではない。「仁義なき戦い」の世界を抜け出て、東京で「法律家共同体」を率いて、憲法の「調整問題の解決」を統制する人物である。

 私は、広島の復興の歴史を、多くの外国人に、国内で、現地で、語ってきた。アフガニスタン人、イラク人、スリランカ人、シエラレオネ人、リベリア人、スーダン人、パレスチナ人、ボスニア・ヘルツェゴビナ人・・・・などの多様な人々に対して、平和構築研修という枠組みの中で、語ってきた。研修教材も作った。
http://www.peacebuilders.jp/n_151207.html

広島が持つ国際的な意味について、広島で生まれ育った人に負けないくらいに考えてきている、という自負はある。

 だからこそ、あえて言いたい。輝かしい広島の復興の歴史は、平和という価値を信じる人々の苦闘の成果として達成されたものだ。それは、調整問題を解決する「法律家共同体」によって維持してもらったものではない。「仁義なき戦い」は、「法律家共同体」による「調整」によって終息したのではない。アメリカとの和解は、アメリカを侮蔑する「法律家共同体」によってでななく、アメリカとの和解を求める人々によって追求された。

 長谷部教授は、2004年の著作で、自衛隊は違憲ではないという「法的安定性」重視の議論を提示し、話題を集めた。特定秘密法案に賛成したことによって、憲法学の同僚を含む「リベラル層」から不評を買った。朝日新聞に「御用学者と言われていますが・・」と切り出されたインタビュ-を受けた時期もあった。https://news.yahoo.co.jp/byline/fujiiryo/20131221-00030876/

 しかし、2015年の「安保法制は違憲だ」という発言によって、巷で言われる「失地回復」が果たされた。発言後、長谷部教授は、2015年10月に全国憲法研究会代表に就任し、さらに2016年10月には日本公法学会理事長にも就任した。今や憲法学者が集う二つの学会の長を同時に務める。

長谷部教授は、安保法制をめぐる喧噪後に、現役憲法学者の指導者としての社会的地位をいっそう強めたのである。「違憲」発言後に、同僚の憲法学者からの信望も回復し、憲法学者「共同体」で、長谷部教授の権威はさらに絶大なものとなった。長谷部教授が自信満々で「国民には、法律家共同体のコンセンサスを受け入れるか受け入れないか、二者択一してもらうしかないのです」と述べるのは、裏付けのない行動ではない。
 
長谷部教授の独特の憲法観と、「法律家共同体」の「隊長」としての地位(長谷部・杉田『これが憲法だ!』4頁)は、微妙な関係にある。長谷部教授は、なぜ自衛隊は違憲だとは言えないかという理由として、絶対平和主義が特定の価値の押し付けで採用できないから、という説明を提示する。憲法学者「共同体」内部者向けの説明だ。

 特定の法解釈を、その依拠する価値体系によってではなく、価値体系からの超越性によって肯定しようとする態度は、論理的に行き詰ることが約束されている。そのことを、長谷部教授は知らないのだろうか。否、知っているだろう。知っているからこそ、結局は「隊長」たる長谷部教授が最高権威を持つ「法律共同体」によって維持・調整される「法的安定性」を絶対的基準とするような主張を繰り返すのだろう。

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