記事

決断迫られるTPP--トコトン議論2で有識者が激論

2/2
池田信夫氏(経済学者)
池田信夫氏(経済学者) 写真一覧

TPP慎重派の懸念--食料自給率の低下、国民皆保険の崩壊、知財訴訟の増加



服部信司氏:私は日本農業研究所にいます。TPPには2つの特徴がある。長い間、日本はWTOで関税交渉をしてきた。これは関税引き下げの交渉なんです。ゼロにすることを目的にした交渉ではない。でも今回のTPPは、物品は関税撤廃が原則になっている。とすると、交渉に入った場合、物品は交渉の余地が小さい。全体として関税がゼロとなることを前提とした交渉になってしまう。

もう1つは完全な秘密交渉であること。TPPには20以上の分野があるが、交渉の内容は公表されない。そこがWTOとは違う。各国がどのような提案をするかわからない。日本の平均関税率2.5%で、世界で最も低い。米国は3.3%。関税をさらに撤廃することによる効果は決して大きくない。

池田さんは輸入にメリットがあると言った。確かに関税がなくなって農産物の関税がゼロになったら価格は下がる。でもそれは国内生産がなくなるということ。コメも牛肉も豚肉も、小麦もなくなる。それでいいんだろうかという問題がある。世界全体の食料自給は、10年前に比べてひっ迫する傾向にある。7〜8年前に比べると穀物価格は3倍以上だ。

需給が不安定化する傾向が高い局面において、なぜそこまでのことをする必要があるのか。日本は人口1億の国で、食料自給率は40%。さらに国内生産を大幅に減らすことが分かっているTPP交渉になぜ参加するのか。

また、アジアにおける経済連携はどうなるのか。TPPに参加する理由として、アジアの成長を取り込むと言っているが、実際に成長しているのは中国だ。でもTPPに中国は入らない。いま深めるべきはアジアにおける経済連携だと思う。

孫崎享氏:TPPの最大の問題はプラスがほとんどないのに、日本の社会の変革が求められる点だ。そして極めて重大なマイナスもある。TPPは「環太平洋」という名がついているがそうではない。米国大陸見ると、ペルー、チリはいるが、カナダとメキシコはいない。ASEANでもマレーシアやシンガポールがいない。東アジアでは中国、韓国、台湾も入っていない。

2010年の日本の輸出相手を見ると、米国は15.3%。中国、韓国、台湾、香港で38.8%。日本の相手は米国ではない。BRICsが経済発展の基盤になり、G20も始まった。こういった国々が我々の相手になるべきだ。でもTPPにはオーストラリアと米国くらいしか入っていない。経済効果はない。米国と一体であれば日本は反映すると言うが、果たしてそうか。対米貿易はずっとフラットで、伸びていない。対中国を見ると、1995年には米国の6分の1だったが、いまは上回っている。

米国のGDPは2倍になったが、日本は何も上がっていない。米国と一緒であれば大丈夫という考えかたは改めなければいけない時期に来た。TPPの1番の問題は農業だけではない。他に金融や環境、労働も入る。日本医師会が見解を出した。米国は医療への株式会社参入を求めている。高額医療が進めば、国民健康保険の崩壊もあり得る。日本は米国追随でいいのか。経済ならばアジアやBRICsだ。米国についていけば繁栄するという時代は終わっている。

色平哲郎氏:私は高齢化した村で働いている。世界は最高速度で高齢化が進んでいる。世界最先端だ。世界の注目を浴びている。人間の死亡率は100%。必ず医師の手にかかる。日本は保険料を国民から集め、50年間続いてきた。医療費は高いというが、世界的にはあり得ないほど安い。

内科医が薬を出すときは2〜3種類にとどめる。そして副作用がないか様子を見る。外国のように20種類も出すことはない。多くの種類を出すと病気が治ってもどの薬が効いたかわからない。わからないから腕のいい外科医に頼むことになる。あなたは野田首相の手術を受けるのか。野田療法がどういったものかわからないのに。患者さんにはくれぐれも慎重にと言いたい。なぜ日本で修行した日本の医者じゃだめなのか。野田首相には20錠一気飲みが亡国に繋がらないように申し上げたい。TPPで国民皆保険が崩壊する可能性がある。

福井健策氏:私は知財の話をする。ここまで関税の話ばかりだが、非関税障壁の撤廃は日本のコンテンツ政策を一変しかねない問題だ。知財における米国の要求項目がリークされている。これは保護強化策と米国化だ。知財の交渉項目を見ていく。

・非親告罪化
現在は、著作権侵害に対し被害者が告訴しないと処罰できないが、非親告罪化によって、告訴がなくても警察が処罰できるようになる。2007年頃にも米国から要請され、激しい議論があった。その時は見送られた。非親告罪になると著作権者が望んでなくても処罰されることになる。権利は誰のものになるのか。

・法定損害賠償
実損害だけを賠償するのならたいした金額ではない。だから多くの著作権関係の裁判は実際には訴訟に至らずに終わる。しかし法定損害賠償はペナルティーがある。米国では1件最高で1000万円。著作権侵害による実損害がなくても罰則がある。もしこれが日本に導入された場合、知財訴訟が激増すると予想される。これは良かれ悪しかれだが、いまは権利者が訴訟を起こしづらい。

・著作権保護期間の延長
現在、著作権保護期間は生きている間と死後50年。欧米は延長を繰り返してきた。ミッキーマウスの保護期間が切れそうになると延長されるため、ミッキーマウス保護法とも言われている。これでは新しい創作活動が害されるとして日本では採用されてこなかった。米国は2国間でこれを飲ませるのがお家芸だ。米国は海外からの著作権収入が10兆円もある著作権黒字大国だ。では日本はどういう立ち位置か。誰も何もわかっていないのでは。


あわせて読みたい

「トコトン議論」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。