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変質化する海外の日本人社会

「タテ社会の人間関係」という日本人論の名著があります。東大の教授をされていた中根千枝先生が1967年にお書きになったミリオンセラー本ですが、今読んでもまったく違和感なく日本人社会について見事に描写しています。

その中で海外における日本人社会に触れているところがあります。「(海外における)日本人コミュニティの場合、その成員の大部分が近代的な仕事に従事している代表的日本のインテリにもかかわらず、昔の日本農村部落によくみられた特殊性がいかんなく発揮されている」としています。

また、「所属機関の日本社会における評価に従った格付けや滞在期間の長短によって成員間に一定の格付けができていること、いろいろなことがその寄り合いで決められていること、その集団の常識を超えるような行動を個人がとった場合、つよい道徳的批判がグループから出されること、個人の生活にお互いが異常なほどの興味を持ち、好きでもいがみ合っていてもみな常に接触していることである。」とあります。海外生活をされている方が読めば思わず、笑ってしまうほどツボを押さえています。

確かに海外にいる日本人の場合、「ここにきて何年?」が一つのヒエラルキーの決定要因であり、20年、30年といる長老は敬われ、日本人会の責任者に奉られることが往々にして起きてきました。

また、数多くいる海外日本人の長老たちは自分と主義主張が合わない人の下では組織の従属関係を結びたくないため、日本人の趣味の団体が細胞分裂のごとく増え続けたのが今日に至る海外の日本人社会であります。これらは正式団体として登録せず、単なるランチや時々のイベント程度で集まる軽い関係の集団であり、そこでは小さい集団化が進みます。

これは海外にいる日本人というゲマインシャフトの中で出身地、趣味や思想といったゲゼルシャフトが育まれるという実に特殊な世界が展開されているといってよいでしょう。平易に言うと北海道から沖縄までの各地の出身地の人が駐在員から起業独立、国際結婚、留学、リタイア層など立ち位置が全く違う者同士が日本人というだけの共通の枠に一旦、入れれたものの居心地が悪くなって枠から飛び出す、ということでしょう。

ではなぜ、海外ではこってりした日本人社会が勃興したか、といえば海外生活においていろいろ困ることがあるため、助け合い精神がもともとの趣旨でありました。私が所属しているNPOも海外で起業をするという趣旨のビジネス団体で30年続いています。

ところがこの海外の日本人団体、最近、崩壊の足音が近づいてきたように感じます。いくつか理由があると思います。一つには若い世代の新移住者がこのような寄り合いに興味を示さなくなったこと、二つには情報はいまや、どこにでも転がっていること、三つ目には新天地でもフェイスブックなどSNSで繋がりやすいこと、四つ目に各団体の趣旨に創設者の意思が強く残るものの、現代社会にマッチしなくなっていること、五つ目に団体の長をやりたがる人がいなくなってきていることがあるかと思います。

たぶん、若い方にとって「在住〇〇年の長老」の上から目線の発言がうざいのだろうと思います。事実、ここバンクーバーでも各団体の長になられる方は悲惨なほど無理を強いられている状況で、「いやいや感」以外の何物でもありません。では潰してしまえばよい、とすれば「歴史があるのにそれは無責任だ」とか「ほかに知恵を出すべきだ」という批判が押し寄せます。

個人的にはスクラップアンドビルトすべきだと思っています。どの団体が本当に必要なのか、もう一度見極め、英断をする思いっきりが必要かと思います。組織には必ずDNAがあります。しかし、その祖先がいた時代背景と明らかに変化する中で組織という名だけが残るような体制はあまりにも古典的すぎるでしょう。

政治の世界をみれば政党は消え、合併し、新党ができ、整理され続けています。企業も合併をします。コミュニティがなぜできないのか、それは座り続けたソファーは居心地がいい、ということなのでしょう。新しいソファーも悪くない、という発想が海外日本人社会を持たないと明らかに後退してしまう気がする昨今です。

では今日はこのぐらいで。

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