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【特別寄稿】横浜ベイスターズの市場価値は?

この年の流行語大賞の一つには「新規参入」が選ばれた。(2004年、AP/アフロ)
 ここ数年、ストーブリーグの風物詩となっていた横浜ベイスターズの球団買収問題は、TBSホールディングスが保有する球団株式の過半数をDeNAへ譲渡することで合意に達した。DeNAは今後、社団法人日本野球機構(NPB)からのヒヤリング、オーナー会議での承認を経て、晴れてプロ野球球団のオーナー企業となる。

 7年振りの新オーナー誕生は、球界の起爆剤となるのか?低迷が続くベイスターズは、どのような未来を迎えるのか?今回BLOGOS編集部では、2004年の球界再編時、堀江貴文氏とともにライブドア・フェニックスGMとして一石を投じた小島克典氏(ベイスターズフロントOB)に当時を振り返っていただき、今後のDeNA、未来への想いを込めたお話を伺った。

ハマの野球史と球団の歴史


 ベイスターズがフランチャイズを置く横浜市には、明治時代にまでさかのぼる我が国の野球のルーツがあります。表1を見れば、この街と野球文化の深い関わりが分かると思います。一見、日本の野球史かと錯覚してしまうほどです。
 また市内近郊には、カテゴリーごとの強豪チームがひしめいています。シニア・ボーイズの中学生、高校・大学野球の名門校、社会人チームの活躍は「神奈川を制する者は全国を制す」という格言を生みました。そしてハマの野球熱を後押しする、情熱的な野球ファンの存在も忘れてはなりません。
 街の野球史(過去)、各世代の強豪チーム(現在)、それらを語り継ぐファン(未来)。他のどの都市も真似できない、唯一無二の「野球資産」。これこそ横浜が有する財産です。

 奇しくも来年は、横浜ベイスターズ生誕20周年の節目の年でした。92年11月、横浜大洋ホエールズは当時としては斬新な地域密着型の球団経営を掲げ、球団名を「地域名+ニックネーム」の横浜ベイスターズに改称しました。以来ベイスターズは、企業名を付さない12球団唯一のチームとして今日に至りました。新オーナーにはこの歴史を理解した上で、ベイスターズや野球界の伝統を紡いで欲しいと思います。
 
【表1】横浜の野球史、および横浜ベイスターズの球団史

 1871年:横浜クリケットグランドにて日本初の野球の試合が行われる
     (在横浜外国人クラブ対太平洋郵便船コロラド号水夫チーム)
 1896年:日本初の国際試合が行われ、旧制一高がYAC(外国人クラブ)に勝利
 1934年:ベーブ・ルース、ルー・ゲーリック率いるメジャー選抜チームが横浜港上陸
     横浜公園野球場で全日本チームと対戦
★1936年:日本職業野球連盟(現プロ野球)が東京巨人軍、大阪タイガースなど7球団で発足
 1947年:大洋漁業軟式野球チームを母体とした硬式野球部が発足
     主力選手が相次いでプロ野球チームから引き抜かれる
 1948年:横浜公園平和野球場にて日本初のナイトゲームが開催(巨人対中日)
 1949年:プロ野球の二リーグ分裂に合わせ、中部兼一大洋漁業社長がプロ野球参入を決断
     野球興行を目的に山口県下関市にまるは球団を設立、球団名は大洋ホエールズに
 1949年:湘南高校が神奈川県代表として甲子園初優勝
 1950年:二リーグ制がスタート、大洋ホエールズ元年
★1952年:プロ野球がフランチャイズ制度を導入
★1954年:職業野球団に対する広告宣伝費などを優遇する特例税制優遇措置制度が施行(国税庁通達)
 1955年:川崎市へフランチャイズを移転
 1956年:日本石油野球部が神奈川県代表として都市対抗初優勝
 1960年:法政二高が神奈川県代表として夏の甲子園初優勝
 1960年:大洋ホエール図が球団設立11年目で初の日本一
 1961年:法政二高が戦後初の甲子園夏春連続優勝。3季連続優勝は惜しくも準決勝で敗退
 1964年:ホエールズがシーズン最終戦で惜しくも優勝を逃す
 70〜80年:東海大相模、桐蔭学園、横浜高が夏の甲子園で相次いで優勝
 1977年:領海法改正により200海里の排他的経済水域が設定され、球団は親会社の支援に頼らない
     独立採算制を余儀なくされる
 1978年:横浜スタジアムに本拠地を移転、横浜大洋ホエールズに改称
 1980年:横浜高校が夏の甲子園で優勝
 1992年:横浜ベイスターズに改称、12球団で唯一企業名を付さないチームとして今日に至る
 1993年:横浜ベイスターズ元年
 1994年:大堀隆球団社長が就任
 1998年:権藤博コーチが監督就任
     マシンガン打線と大魔神佐々木の活躍で38年ぶりの日本一
 1998年:横浜高校が甲子園春夏連覇を達成
 2000年:ファーム組織の活性化を狙い、球界初の試みとして二軍を湘南シーレックスに改称
 2002年:オーナー企業がマルハ株式会社から株式会社東京放送に変更
 2003年:年間席販売や放映権料の下落などに伴い、横浜移転後はじめて赤字決算
 2007年:横浜スタジアム30周年
 2009年:横浜開港150周年、球団誕生60周年
 2012年:横浜ベイスターズ誕生20周年
★…プロ野球全体に関する記述


ベイスターズとスタジアムの関係について


 プロ野球ビジネスは、ライバルチーム同士が覇者を目指して競い合う共同ビジネスモデルです。野球やサッカーに代表されるプロスポーツ球団単体の収入源は、大きく4つに分かれます。入場料収入、放映権料、グッズ飲食物販収入、スポンサー広告収入。これは世界のリーグスポーツビジネスの共通スキームです。しかしベイスターズの場合、4本柱で構成される収入バランスが大きく偏っています。入場料収入と放映権料の2つが、収入全体の9割を占めているのです。経営の観点からするとこの現状は早急に改善したいところです。にも関わらずベイスターズには昔も今も、この先しばらくの間も、この問題に着手できない理由があります。それは何か。
 そこには球団(ソフト)と球場(ハード)の歪んだ関係があるのです。

 表2はベイスターズが38年ぶりの優勝を遂げた前年の1997年から、野球界が大きく変化した2005年までの球団の損益表です。98年以降、総売上額は80億円前後で安定しているものの入場料収入は徐々に減少し、TBSがオーナー企業となった翌年の03年からは、経常利益ベースで赤字が続いています。

【別表2】
画像を見る

 総売上高が横ばいまたは微減の中、収益の大半を占める入場料収入と放映権収入が減少すると、頼みは球場内でのグッズ飲食物販収入とスポンサー広告料になります。しかし横浜スタジアムは球団と資本関係のない第三セクターの別法人が運営しているために、物販収入や看板広告料はスタジアムの収入となり、多くを望めないのが現状なのです。

 株式会社横浜スタジアムは、1978年に開業した横浜市の第三セクターです。当時、川崎球場の観客数低迷に悩んでいたホエールズは、横浜市へのフランチャイズ移転を渇望していました。しかし当時の親会社の大洋本社や球団には新球場建設のための人材・資金・ネットワークがないために、地元横浜の政財界が中心となって計画が進められました。資金調達の局面では、横浜青年会議所の鶴岡博氏(現横浜スタジアム代表取締役社長)を筆頭に若手有志がわずかひと月あまりで20億円を集め、スタジアム建設を実現させたのです。こうした経緯から、球場と球団は45年間の長期契約を結び、チームはスタジアムで試合を行う毎に年間席・当日券売上の25%を球場使用料として支払うほか、広告・物販収入はすべて球場の収入となるなど、球団サイドから見ると不平等に感じる契約が今なお続いているのです。
 4季連続最下位に沈んだベイスターズでさえ、年間100万人を超える集客力がある。これって本当に凄い。ここにスポーツビジネスの一番の魅力がはっきりと現れています。スポーツの集客効果。さらに近年こそ周辺駐車場が整備されつつありますが、ベイスターズを観戦に来る大半のファンはJRや市営地下鉄を使います。人々が移動すれば、飲食や購買や生理現象の必然が生じます。それら様々な需要を、今度はスタジアムが中心となって地域一体で供給していく。これぞベイスターズを起点とした、100万人超のファンによる地域の経済効果となるのです。
 DeNAには、横浜の街におけるベイスターズの理念や将来像をきちんと描きつつ、チームとスタジアムの新たな関係構築に注力して欲しいと思います。現在のようなハードはイキイキ、ソフトは瀕死という本末転倒は、絶対に避けるべきです。

プロフィール


画像を見る小島克典(こじま かつのり)
1973年生まれ。神奈川県出身。横浜ベイスターズ、SFジャイアンツ、NYメッツを経てライブドアでスポーツビジネスを統括。立命館大学客員教授、尚美学園大学准教授を歴任。著書に「プロ野球2.0 (扶桑社新書 24)」など。横浜市在住。

※写真:ライブドアの球団買収発表時、記者団の質問に応える堀江貴文氏(左)と小島克典氏(右)

 



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