- 2017年08月04日 18:04
「不審者に気をつけて」で子どもを狙う犯罪は防げない 犯罪者から犯罪機会を奪う「犯罪機会論」とは - 小川たまか (ライター・プレスラボ取締役)
2/2今、犯罪発生率が一番低いのはスペイン
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スペイン・バルセロナの公園。遊び場がフェンスで囲まれている(=入りにくい場所)
――先日スペインへ旅行した際に注意してみてみたら、確かに公園では一か所に遊具がまとまって、さりげなくフェンスや囲いがありました。
小宮:スペインの公園はよくできていますよ。大好きな国の一つです。私がその国の安全性についてよくチェックポイントにするのが横断歩道です。信号のない横断歩道を歩行者が渡ろうとするとき、車が止まるか止まらないか。スペインは止まりますし、横断歩道のずっと手前を歩いていたおばあさんが渡り切るまで待つ様子も見ました。止まらないのが日本と中国です(※)。スペインは実は今、国際比較の犯罪発生率が、数字上では一番低い国です。
(※)JAFが2016年に行った全国調査によれば、信号のない横断歩道で歩行者優先を守ったのは1万26台のうち、わずか757台(7.6%)だった。
――意外ですが、国連の「国際犯罪被害者調査」(2009年)では確かにそうですね。日本はスペインに次いで2番目に発生率が低いです。
小宮:ただ、暗数の問題がありますね。海外の場合は、暗数調査を毎年数万人規模で行っている国が多い。日本は4年に1回、数千人規模(法務省が実施:こちら)です。「それでは国際比較できない」「安全な国という根拠はない」と指摘を受けていますが、日本は暗数調査に予算を割いていません。
――日本は安全な国という認識が強いので、暗数調査に予算をかけないことに国内からの不満は少ないのかもしれません。
小宮:はい。小規模の調査とはいえ、私たちはその貴重なデータをもとに研究していきます。犯罪白書にも書いてありますが、逆算すると認知件数の5倍は犯罪が起きています。日本の警察が発表している検挙率は3割。これはあくまでも認知件数のうちの3割ですから、実際の検挙率は1割にも達していない。事件の9割以上は未解決です。
――確かに、取材をしてみると、事件化していない犯罪は案外多いのだなとは感じています。
小宮:物理的な条件だけ見れば、日本の公園とトイレは世界一危ないです。犯罪機会論を取り入れた設計になっていないからです。犯罪の動機が芽生える人が他国に比べれば少ないから犯罪総数も爆発的には増えていませんが、動機を持つ要素が欧米並みになれば、犯罪の機会だらけの環境です。こういう指摘をしても、「公園を悪用する人なんているんですか?」と言われてしまうのが日本の認識です。
日本の公共トイレの危険性
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トイレは公共の場所にある個室(人目につかない場所)であり、高い犯罪誘発性がある。海外では、「間違えたフリ」をしての侵入を防ぐために男子トイレと女子トイレの場所をできるだけ離して設置したり、男女のトイレのほかに男性障がい者用、女性障がい者用の4パターンを設ける例などがあることを小宮さんは紹介する。日本でよく見かける「だれでもトイレ」は「ゾーニングの発想が乏しい」と指摘。
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――「だれでもトイレ」で被害が起こったケースはこれまでもあるのに、その場所の危険性についての指摘はあまり見かけません。
小宮:先日初めて国技館へ行ったんです。非常に珍しいことに、国技館には「障がい者専用トイレ」がありました。「だれでもトイレ」ではなく、専用のトイレです。さすが国技館だなと思ってよく見たら、そのマークがついているドアの横に、更に「障がい者用トイレ」と書かれた大きな張り紙があったんですよ。障がい者ではない人が使ってしまうので、掲示を強化したようです。確かに、見ていたら、次から次へと車椅子に乗っていない人が、障がい者用トイレに入っていきました。
――私も混んでいたら気付かずに使ってしまうかもしれません……。
小宮:一般のトイレも、そんなに混んでいませんでした。要するに使ってしまう人は、あれが「だれでもトイレ」「みんなのトイレ」だと刷り込まれているのだと思います。そちらの方が多いですから。気付いていれば、少なくとも周囲にこのトイレを必要としている人がいないか見渡してから使うのではないかと思います。マイノリティへの配慮が不十分な人が多いという感じがします。犯罪被害に遭いやすい女性や子どももマイノリティです。
――トイレの話ですが、以前から考えていることがあります。たとえば行き止まりの廊下に男女のトイレが並んでいる場合、女子トイレが奥にある方が犯罪機会を減らせるのではということです。ビルや駅にあるトイレを観察していると、そのパターンが多いですが、逆のこともたまにあるなと思います。
小宮:女子トイレが奥にある方が良いというのはその通りです。奥にある方が「間違えた」と言い訳しづらいので侵入しづらいですし、女性が後をつけられた場合、男子トイレを越えてついてきたら、「おかしいな」と察知することができる。第三者から見ても「なぜあの男の人は奥に行くのだろう」と感じます。男子トイレが奥にあると、女性はすぐ後ろをついてこられても、不審に思いづらいですし、逆に「疑ったら申し訳ない」という心理になる。ただ、私の観察では男子トイレが奥にあるパターンの方が多い気がしますね。
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韓国・天安駅のトイレ。左手前から男性用、女性用、右手前から男性身体障がい者用、女性身体障がい者用、となっており、すみ分けができている。また女性用トイレが奥に配置されているのもポイント(=入りにくい場所)
――それから、トイレの構造で気になるのが盗撮被害についてです。女性に聞くと、盗撮の現場を目撃したり、盗撮被害に遭いそうになったという声は割とあります。海外のトイレでは洋式であることもあり、個室ドアの下が大きく開いていることが普通です。用を足しているときに足の部分が見える。これは連れ込み被害があったら外から一目でわかるという防犯効果がある一方で、ドアの下からカメラを入れる盗撮が容易なのでは?と。
小宮:今のように携帯電話や撮影機器が発達して盗撮が横行するようになる前の時代からこのパターンで、盗撮までは考えたレイアウトではないと思います。ただ、盗撮といっても、一番発覚しづらいのはカメラを内部に設置してしまうこと。そうすると、設置している瞬間を見られたくないので、海外式のトイレの方が設置しづらいですよね。また、洋式トイレはドアに向かって腰かけるように設置されていますから、用を足している際に目の前からカメラが入ってきたらすぐ気付きます。個室内に潜んで待ち伏せするという場合でも、日本のようにドアの下部が閉じている方が隠れやすいですね。
地域のことを自分で考える視点を持つ
――先ほどマイノリティへの配慮が不十分という話がありましたが、犯罪被害に遭いやすい子どもや女性の視点が反映されていない場所は多いのかなと感じます。
小宮:子どもの性被害は、警察はほとんど把握できていないと思いますよ。子ども自身も被害に遭ったと気づかないケースが多いですし、親に言っても親が「誰にも言うな」と口止めすることもあります。犯罪機会論って、犯罪原因論のようにダイナミックではない。小さなことの積み重ねです。だから日本では研究者が少ないのかもしれない。
――ダイナミックではないというのは?
小宮:犯罪者を根本から変えるとか、そういう風にカッコよくない。効果抜群の素晴らしい療法の発明とかそういうことではないですから。トイレの構造とか、遊具の周りにさりげなくフェンスを設置とか、変えたところですぐに効果はわかりません。積み重ねをコツコツとやって、一つひとつ犯罪を減らしていくのが機会論です。
――一方で、機会論はわかりやすいと思います。原因論は目に見えない動機・気持ちを研究しますが、機会論は目に見える風景を考えるので一般の人でも、子どもでも理解しやすいです。
小宮:そうでしょう(笑顔)。全然難しくないのです。
――小学生向けに犯罪機会論を踏まえた「地域安全マップづくり」の講座を開かれていますね。みんなで一緒に取り組むワークショップで、クラスの雰囲気が良くなったり全体の学力もあがったりすることもあったと聞いています。
小宮:つまりは当事者意識を高め、自分たち自身の問題解決能力を高める練習になるということですね。それは犯罪機会論でなくても、入り口は子育てでも介護でもいいのですが、地域のことを自分たちで考えるという視点を持つと個々の力は発揮されやすいと思います。そして、地域では、1+1は、3にも4にもなるんです。
――マップ教室はどのくらい続けているのでしょうか。
小宮:2002年に考案し、2004年から自治体での導入が始まりました。でも、実施率1割以下の県があったり、考え方がうまく伝わらず間違った方法を取ってしまっているところも多いんです。なので、これからも少しずつでも広めていければいいですね。
今回のポイント
・「不審者に気をつけて」は大人でも難しい
・景色の中から犯罪機会を見抜く練習を
・マイノリティの視点を地域で考えることに意味がある
*写真:筆者提供
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