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AP通信CEO「これまでと同じ事をしているだけの新聞社は安泰ではない」

トム・カーリー氏。(AP)
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29日、世界にネットワークを持つ米国の通信社、AP通信の社長兼CEOであるトム・カーリー氏が「オンライン世界下におけるニュースの将来」と題し、プレゼンテーションを行った。

カーリー氏は米国最大手の日刊紙「USA Today」に創刊時から携わり、後に社長・発行人として同誌の発行部数を躍進させた経歴を持つ。

今回、カーリー氏は日本のマスコミ向けに、インターネットメディアの普及で危機が叫ばれる新聞社・通信社がどのように生き延びていけば良いのか、AP通信の戦略についての考えを述べた。会場に詰めかけた新聞業界関係者からは、無料配信をどう有料に切り替えれば良いのかという質問や、Kindle、iPadといった新しいデバイスの脅威についての質問も飛び出した。

カーリー氏の発言と質問への回答の要旨は以下のとおり。(BLOGOS編集部 大谷広太)

かつてないほどニュースが求められている


今年は、中東においては大きな政治のうねり、欧州では経済的困難、そして日本では東日本大震災が発生しました。かつて、これほどまでにニュースに対するニーズが高まったことはないのではないかと思います。米国の若者たちのtweetを分析すると、ニュースにまつわるものが非常に多いことがわかります。若者たちも最新のニュースを閲覧することに価値を置いていることの証拠だと思います。

しかし、これはニュース配信はどれだけ速くても速すぎない、という時代になってしまったということでもありますね。かつては翌朝の発行に間に合うように、奥深く練られた長文の記事を書いていても良かったが、今は違います。ネットサービスはすでに主戦場をモバイルに移しつつあり、読者はいつでもどこでもニュースを求めています。一行でも良いから、とにかく速く出さなければならない場合もあるでしょう。

また、全員の読者に同じ方法で、同じものを発信するという、ブロードキャストモデルも崩壊してしまいました。個々人の見方や関心に併せてニュースを発信するようにしなければならなくなるでしょうし、消費者の側もそれを望んでいると思います。

このような状況下では、これまでと同じ事をしているだけの新聞社・通信社は絶対に安泰ではありません。米国では、発行部数減による資金難のある状況下で、新聞社が生き残りをかけて必死で戦っています。日本のメディアも、現在のプラットフォームだけにしがみついていてはいけません。新たなビジネスモデルを生み出す、という気持ちで臨まなければならないでしょう。

ソーシャルへの変化もチャンスですね。ソーシャルメディア時代は、記者個人への信頼感も重要になるでしょう。我々は、記者の名前で記事を追えるようにするし、そうすれば、記者に対してもフォロワーがついてくるはずだと考えています。

ニュースの無料配信は失敗だった


新聞のサイト有料化は、「ネットはフリー」という空気があるので、確かに難しいですね。わたしたちも、最初にすべてを無料で公開してしまったことは確かに失敗だったと思います。ただ、コンテンツが無料であるテレビも一定の収益を上げられているわけですし、収益化は不可能ではないと考えています。特にモバイルデバイスでは課金もしやすく、20種類くらいのビジネスモデルは考えうるでしょう。

例えば、ある一定のコンテンツは呼び水という位置づけにして無料とするが、スペシャルなコンテンツについては有料にしてみても良いのではないかという仮説のもと、色々と試しています。

また、特定のコンテンツに特化した情報ベンダーと提携し、個人の関心に併せてカスタマイズしたニュースを提供することや、地方のニュースを全国のニュースとを上手に組み合わせることも出来るでしょう。それは、地方の新聞社を助けることにもつながるのではないでしょうか。

多くのコンテンツプロバイダと提携すること、掘り下げたものを提供すること。資料を付けること。そうした価値あるものに対しては、課金はできると確信していますし、実際にNew York Timesは、一定の効果を上げられていると思います。

そのためにもコンテンツ管理やトラッキングの対策は不可欠です。これまではそうしたデータの集め方が足りなかったと思います。配信したニュースを誰が、どこで、どのように消費したのか。そうしたデータを収集・蓄積することで、パーソナライズされたコンテンツや、ローカルなコンテンツに対してどのように広告を配信するかも研究できるでしょう。

テキストだけではなく、映像配信・中継の分野にも積極的に進出することも重要でしょう。私たちは2012年から、長年にわたる交渉を結実させ、世界で唯一、北朝鮮からのHD映像の配信サービスを開始します。我々のコンテンツと他のコンテンツをミックスさせることで、デジタルメディアにおいては収益がついてくると思っています。そのための環境を整えていっています。私は楽観的です。

AmazonがKindle Fireを発表しましたね。私は最初、kindleが火事になってしまうのかと思いましたよ(笑)。
確かに新聞社や通信社にとっては脅威かもしれません。ですが、私は交渉で北朝鮮に滞在しているときも、新しいデバイスがあったからこそ本も読めましたし、最新ニュースをつかむことができていました。好きなフットボールの試合の結果もね。

つまり、マーケットは増大したのであって、収縮していないのだと思う。モバイルデバイスや、コンテンツのパーソナライズが徹底的に図れる状況にあるからこそ、大きなチャンスもあるのです。すなわち、新しい商品が作れるチャンスだとみなさん思ってください。私は91年からデジタルメディアにも取り組んできましたが、今が一番ワクワクしています。

最後は「信頼性」


webには間違った情報も沢山存在します。最終的には受け取り側が判断するしかありません。ユーザが増えているということは、誤った情報を発信すれば、それだけ批判される可能性も増えているということです。

配信プラットフォームをいくら整備したところで、最終的には「信頼性」がなければならない。とにかく良いニュースを取材し、配信することが私たちの使命です。権力に物申し、権力者が国民に対して説明責任を負わせる、ということを忘れてはならないと思っています。

米国ではジャーナリストの数も減少していますが、「調査報道」はとても重要です。わたしたちも情報公開法に基づいて、世界各国で調査報道を行なってきました。アメリカにおいても、原発の調査を長年行なっており、様々な基準や対策が「妥協の産物」であることも明らかにしましたし、福島第一原発事故に関しても情報公開請求を行い、東京電力のことも調べました。

北朝鮮に支局を設置することができたのも、AP通信はフェアにやってくれる、という北朝鮮政府からの信頼もあったのではないかと思っています。他国の関係者も前向きにサポートしてくれましたし、世界の国々にとっても、北朝鮮にとっても、門戸が開かれて行くのは喜ばしいことだと思います。

日本の原発報道は控えめだという批判もあります。ニュースは不偏不党でなければならないし、オーバーな表現になってはいけません。どのようなテーマを、どのようなバランスで、どのように力点を置いて報道するのか、報道人としては、意思決定をしなければならないことがある。記者としての判断が求められるのでしょうね。

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