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"10段ピラミッド"を肯定する自主性の怖さ

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■「次回はもっとよいものを」の声

このように学習指導要領上は、運動会はその内容も時数もとくに規定されることもなく、学校現場の裁量にまかされている。たしかに教科でもない運動会の内容にまで、いちいち国や教育委員会が口を出すべきではないだろう。学校現場が「自主的に」、運動会の内容を考えればよいはずだ。だが、そんなふうにして学校現場の自主性にまかせてきた結果、ここまで巨大でアクロバティックな組み体操が、できあがってしまったことに注目すべきである。

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内田良『ブラック部活動 子どもと先生の苦しみに向き合う』(東洋館出版社)

巨大な組み体操を披露すると、保護者や地域住民から盛大な拍手が送られる。子ども(一部を除く)も先生も、大きな満足感を得る。次の年、保護者、地域住民、子ども、先生のいずれにおいても、ハードルは一つあがってしまっている。

学習指導要領上にそのあり方が明記されているわけではないために、何らかの制約がかかることもなく、「次回はもっとよいものを」と高い目標が設定されて、巨大化・高層化が着々と進んでいくのだ。まるで、グレーゾーンに置かれて、「自主性」という名のもとに肥大化してきた部活動とよく似ているではないか。

■「自主性」というマジックワード

運動部活動の研究をリードする中澤篤史氏(早稲田大学)は、その新刊『そろそろ、部活のこれからを話しませんか―未来のための部活講義』(大月書店、2017)において、部活動問題の核心には「自主性」という言葉があると指摘し、「確かに、『自主性』という言葉は魅力的だ。しかし、その反面で、危険な魔力も持ち合わせた、恐ろしいマジックワードでもある」(226頁)と述べる。

その危険な魔力とは、一つが「『自主性』それ自体は良いことなので、『自主性』と言われると、なかなか反対できない」ことであり、もう一つが「実際には強制されているにもかかわらず、『自主性』と言われてごまかされてしまうこと」(227-228頁)だという。

自主性は、大切なものとして尊重される。他方でそれは強制性を覆い隠す役割ももっている。それゆえ部活動は(さらには運動会の組み体操も)、強制性を伴いながらも、自主性という名のもとに肥大化してきたのである。

■「子どもがやりたがっている」で正当化

「自主性」というのは、なるほどマジックワードだ。自主性と言った途端に、その活動は美化され正当化される。

私自身、大学という教育機関に勤める立場として、学生の「自主性」には心奪われる。とくに私が指示したわけでもないのに、みずから本を読み、感想を伝えてくれる学生がたまにいる。これぞ学生の鑑だと、コメントにも熱が入る。

そうは言っても幸いにして私はそこまで教育熱心なタイプではない(悲しいかな、きっとそれが学生にも伝わってしまうのだろう)ので、学生にコメントを返してそこで終わりか、あるいはその後もほどほどのやりとりが続くだけだ。おそらくもっと熱心な大学教員のもとでは、返したコメントによって学生が意欲を高めてさらに自主的に学びを深め、それに教員が再び応じて……と毎回多くの時間を費やす無限のループへと入っていくのだろう。学習者の「自主性」は、教育においてとても魅力的であるがゆえに、歯止めがきかない。

組み体操や部活動においても同様だ。「子どもがやりたがっている」「保護者が欲している」のであれば、それを押しとどめにくい。その陰に隠れた、組み体操の安全性を懸念する声や、長時間の部活動に苦しむ生徒、保護者、そして教師の姿は、「自主性」という語に覆い隠され、見えにくくなってしまうのだ。

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内田 良(うちだ・りょう)
名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授。1976年生まれ。名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士課程修了。専門は教育社会学。日本教育社会学会理事、日本子ども安全学会理事。ウェブサイト「学校リスク研究所」「部活動リスク研究所」を運営。著書に『ブラック部活動 子どもと先生の苦しみに向き合う』(東洋館出版社)、『教育という病 子どもと先生を苦しめる「教育リスク」』(光文社新書)、『柔道事故』(河出書房新社)などがある。Twitterアカウントは、@RyoUchida_RIRIS

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